日本人の海外旅行の意向は2300万人、一人旅の増加傾向も、今後の打ち手をツーリズムEXPOで聞いてきた

大阪で開催されたツーリズムEXPO2023で、観光庁主催による「日本人の海外旅行促進に関するシンポジウム」がおこなわれた。テーマは「新型コロナ感染症後の日本人アウトバウンドの再生・新生に向けて」。日本人全体の45%にあたる約5500万人が海外旅行経験者で、このうちコロナ禍後に海外旅行に行っていないものの、意向があるのは2300万人となることが調査で明らかとなった。この層へのアプローチを始め、復活に向けてどのような取り組みが求められるのか。海外から見た日本人のインバウンドマーケットの現状報告も交え、意見が交わされた。

コロナ禍後の需要を牽引する20代男性

主催者挨拶で、観光庁審議官の石塚智之氏は「9月末時点の累計でインバウンドがコロナ前の7割強に回復する一方、日本の海外旅行者数はコロナ禍前の5割弱」として、アウトバウンド回復の遅れを指摘。「観光庁では新・観光立国推進基本計画で2025年までに海外旅行者数がコロナ前の水準を超えることを目標に、2023年3月に早期回復に向けた政策パッケージを策定した」ことをあらためて説明し、官民連携の取り組みが進められていることを強調した。

三菱総合研究所・観光立国実現支援チーム・チームリーダーの宮崎俊哉氏からは2023年8月に実施された日本人のアウトバウンド調査報告がおこなわれた。宮崎氏は「観光庁でいろいろな仕事を行なってきたが、日本人のアウトバウンド調査は初めてであり、珍しい」と前置きして、調査結果について以下のように説明した。

日本人全体で海外旅行経験者は5540万人で全体の45%を占め、このうちコロナ禍後に海外旅行を実施したのは600万人となった。一方、海外旅行経験者でコロナ禍後の海外旅行は未実施だが、意向があるのは約2300万人で、宮崎氏は「短期間の回復が見込めるこの層へのアプローチによって、コロナ禍前の水準への復活が期待できる」と指摘。今、海外旅行に意欲的なのは20代男性で、需要がコロナ禍前の6割にまで回復している点や、一人旅の増加傾向も指摘した。

55%を占める海外旅行未経験者6702万人については「このうち約1700万人は海外旅行に対する興味や関心があり、出国率が低い地方部在住者が1000万人で、都市部より多くを占める」と指摘。その一方で、地方部では46%が「空港までの移動が不便」ととらえている調査結果もあり、宮崎氏は「地方空港へのアクセス改善も含め、中長期的な復活にはこの潜在市場に対する働きかけも必要」と述べた。

観光庁 石塚智之審議官

スペイン、タイ、マレーシアでの日本市場の存在感は?

続いて、宮崎氏を進行役にパネルディスカッションがおこなわれ、スペイン政府観光局プロモーションマネージャーの風間裕美氏、マレーシア政府観光局大阪支局マーケティング・マネージャーのの清水貴美子氏、タイ国政府観光庁東京事務所マーケティングマネージャーの藤村喜章氏の3名がパネラーとして登壇した。各国の日本人観光客の動向が報告され、コロナ禍前に対しマレーシア、タイはともに5割と他国に比べ需要の戻りが遅く、スペインでも日本を含むアジア全般は5割にとどまることが明らかになった。

インバウンド市場としての日本について、風間氏は「日本のシェアは0.8%だが、スペインにとって消費額が高い観光客として評価されている」として、日本人の渡航時期は欧米の繁忙期と重ならず、観光シーズンの分散化にも貢献していると述べた。

清水氏は2022年のマレーシアでの日本人の観光消費額が平均16万5000円と、コロナ禍前の水準に戻っていることを指摘。2022年は長期滞在ビザに当たるMM2H(マレーシア・マイ・セカンドホーム)を5045名が保持し、ホームステイプログラムに3016人が参加したことにふれ、「コロナ禍後は教育旅行に関する問い合わせが増えており、伸ばしていきたい分野」であることを説明した。

藤村氏は「先ほどの調査で増加が指摘された日本人の一人旅は、タイではコロナ禍前から多く見られる」として、旅行形態別の最新データでは全体の3割を占めることを明らかにした。また、2022年から2023年にかけて地方16県を対象にプロモーションをおこなったところ、観光交流協定を結ぶ都市がある静岡県、宮城県などの渡航者が多かったとして「地方発の相互交流をどう促進していくかが重要」と述べた。

三菱総合研究所・観光立国実現支援チーム 宮崎俊哉チームリーダー

 海外旅行需要を「吸収」した国内の高級旅館・ホテル

コメンテーターとして参加した東洋大学国際観光学部客員教授の越智良典氏は「全国旅行支援は、海外旅行の需要を国内旅行に誘導して成功した」とし、「コロナ禍前の海外旅行市場2000万人を牽引していた首都圏850万人、大阪・兵庫・京都の関西3府県の2大市場が、今は国内の高級旅館やホテルに流れている」と指摘した。

さらに、「これらの市場が抱える、海外旅行に行きたいというマグマにどう火をつけるか。それにはフェスティバルや花の鑑賞など、『今だけ』『ここだけ』のコンテンツ提供や、円安で海外旅行が以前より手が届きにくい面を逆手にとり、インセンティブ旅行に活用するなどの工夫が必要」との見方を示した。

アウトバウンド促進の提言として風間氏は「スペインの日本人渡航者数が最も多い68万人を記録した2019年は、大型連休が2回あったことが大きい」として、大型連休が長距離市場の需要にダイレクトにつながると示唆。藤村氏は「タイでは、ウェルネスなど新たな切り口を提示しているが認知が十分でない。旅行会社は今までのタイのイメージにとらわれず、積極的に情報を更新して消費者に訴求して欲しい」と呼びかけた。

清水氏は「マレーシアから運航したチャーターの日本発便が空席があって運航される場合があり、もったいないと感じる。需要喚起に繋げられれば」と発言。越智氏はこれを受けて「チャーター便は需要喚起や定期便開設に重要な役割を果たす。双方向交流を支える航空路線の維持のためにも、国策として海外旅行を促進して欲しい」として、相手国にも積極的な協力を求めることが必要と述べた。

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