
今年5月、中国から労働節(Labor Day)の連休中に出かける旅行者たちは、美しい景色よりも心を揺さぶるワクワク感を求めて行動していた。選ばれるデスティネーションとは、魂が込もっていて、ストーリーがあるところ。偽りない本物の姿であるかが重要だ――。
中国の大手OTAフリギー(Fliggy)およびトリップドットコム・グループの予約データからは、中国人旅行者の消費額が増えていることに加え、旅行中の行動がよりスマートになり、旅行期間は長く、より深い体験を求めるようになっていることが伺える。
フリギーによると、フレキシブルかつ没入感のある旅程が人気のけん引役で、一人当たりの旅行支出額は大幅に伸びたほか、連休(5月1~5日)の前後にも休暇を取り、この機会を最大限に楽しもうとする人が増えている。
「連休の前後に、さらに4日ほど休暇を取る人が増えた」(フリギー)。
文化や伝統習慣への関心高まる
中国発アウトバウンド旅行は、急速に様変わりしている。フリギーの場合、「カスタマイズされたニッチな体験への支持が広がっている」と同社。観光アトラクションのチケット予約は3桁増、旅行者一人当たりの海外旅行支出額は12%増えた。
昨今、人気が高い特別感のある体験の例としては、日本のACG(アニメ、マンガ、ゲーム)をテーマにしたホテル、フランスでの博物館めぐり、マレーシアでの釣りやシュノーケリング、ネパールでのトレッキングなど。
旅行の決め手となる主な要因は、文化体験だ。トリップドットコム・グループによると、韓国のウェブメディアが手掛けるヒップホップの祭典「Hiphopplaya Festival」から北京ストロベリー・フェスティバルといった国内イベントまで、中国の旅行者たちは、訪問先で様々な催しを楽しめるような旅程を組んでいる。
人気デスティネーション
人気の高い旅行先はこれまでと同じで、日本、香港、韓国、マレーシア、シンガポールが大部分を占めている。とはいえ、好奇心旺盛な旅行者たちは、これ以外の訪問先にも関心を深めている。
フリギーでは、アイスランド、モロッコ、ノルウェー、ジョージアへの旅行予約取扱いが前年比で倍増しており、これまでの定番とは異なるアドベンチャーへの関心や文化的好奇心が高まっていることが分かる。
トリップドットコム・グループでも、カタール、オーストリア、カザフスタン、ネパール、ノルウェーなど、新しいデスティネーションが存在感を増しており、海外旅行先の多様化が進んでいると指摘する。
中国最大のOTAである同社では、海外旅行取扱が2桁増となり、特に複数都市を周遊するコースの人気が高いという。この傾向は、訪日旅行において顕著で、東京と大阪をどちらも訪問し、より充実した都市体験を楽しむ傾向が強くなっている。
これに対し、バリ島などビーチリゾートでのヴィラ滞在は、プライバシーの確保と海が見える景色を求める中国、日本、韓国の旅行者から支持が高い。
「5月のゴールデンウィークは、旅行が活発になるピーク期を形成しつつある。中国市場では、昔からの人気旅行先と新しいデスティネーションのどちらも人気だが、より深く、文化的に豊かで、質の高い体験を求める傾向が特徴的だ」(トリップドットコム・グループ)。
マーケティング会社のチャイナ・トレーディング・デスク(China Trading Desk)は、こうした中国市場の旅行意欲の恩恵を最も受けているのは日本だと指摘する。中国発の訪日旅行者数は、大きく成長を続けている。そのほかマレーシア、ベトナム、韓国への旅行者数も大きく増えている。
人気に陰りが出ているところも
しかし、すべての旅行先が中国からのゴールデンウィーク需要で賑わったというわけでもない。
チャイナ・トレーディング・デスクによると、長い間、人気トップの座にあったタイは、今年の予約数が昨年同期比13%減に落ち込んだ。ソーシャルメディアによって増幅された安全不安が要因と同社では指摘する。2025年に入って、中国の有名俳優が誘拐される事件が発生したという報道は、注目を集めた。
「当局による公式説明にもかかわらず、心理的な影響は根強く、中国人旅行者の懸念を払しょくできていない。信頼を回復するには、方針の徹底、広報活動、安全対策を継続していく必要がある」と同社のCEO兼創設者、スブラマニア・バット(Subramania Bhatt)氏は話した。
英国とアラブ首長国連邦への予約も減っている。中東への旅行需要に大きく影響する出来事はないものの、日本や韓国はビザ取得がより手軽である上、コストが安く、中国との文化的な結びつきも強いことから、中国人旅行者にとって魅力的に映るのだとバット氏は指摘した。
ドバイへは、中国15都市から直行便が運航しているが、フライト時間が長く、運賃が高いことがネックで、特に短期間で安価な旅行と比べると、UAEのアピール度は劣るようだ。
さらにバット氏は「UAEは、文化をより深く掘り下げるというよりも豪華さにフォーカスしている。対照的に、中国の旅行者は、自然の美しさと文化的な深さの両方を併せ持つデスティネーションへの関心が強くなっている」と付け加えた。
英国も同様で、ビザ取得のハードル、フライト時間の長さ、安全上の懸念が根強いことが、中国人旅行者にとって、短期休暇先として選ぶ際の足カセになっている。「フライト時間が短く、より短い旅行日数でも現地を満喫できる訪問先の方が、英国などロングホールのところより有利になる」と同氏。
訪中インバウンド旅行需要も回復の動きを見せている。トリップドットコム・グループでは、韓国、日本、シンガポール、米国など、上位送客市場からの訪中国旅行が前年比173%の増加となった。
訪中インバウンド旅行者の行き先では、上海、北京、広州がトップを占めた。
※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(Skift)」 から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事: How Chinese Tourists Are Traveling Differently This Labor Day Break
著者:Peden Doma Bhutia 氏