世界37カ国を愛猫と旅した達人が語る、世界と日本のペット連れ旅行の違い、欧州での快適さ ―東京観光財団ミーティング

愛犬などのペットと一緒に旅行するペットツーリズムが広がっている。活況の背景には、ペットを人間と同じ家族と考える意識の高まりがあり、ペット関連の支出総額も増加している。ペットフード協会によると、2024年度の飼育頭数は犬が約679万6000頭、猫が約915万5000頭の合計約1595万頭で、これは15歳未満の人口1394万人より多いことになる。

東京観光財団(TCVB)は先ごろ、ペットツーリズムの可能性について、飼い主と受入施設の両面から考えるTVCBミーティングを開催。著述家・デザイナーの平松謙三氏が「世界と日本におけるペット連れ旅行について」と題した基調講演をおこなったほか、事例では西武グループの取り組みが紹介された。

動物の輸出入検疫クリアが第一関門

基調講演に登壇した平松氏は、2002年から17年間にわたって愛猫「ノロ」とともにヨーロッパ・アフリカ、中東の37カ国を旅し、その経験を書籍や写真集などを通じて発信してきた、まさにペット連れ旅行のエキスパートだ。最初は、猫を海外に連れていこうという発想は全くなかったというが、輸出入検疫などをしっかり調べれば、法的に問題なく旅ができることがわかった。

「狂犬病の予防接種、マイクロチップの着装はもとより、投薬や予防注射など入国の条件、書類の書き方など世界各国でまちまちで、頑張って準備しました」と振り返る平松氏。ヨーロッパは2002年当時でもルールが比較的明確化されており、さらに陸路で移動しやすいこともあって、初めての旅はフランス、ドイツ、スイス、イタリア、ベルギー、オランダ、デンマーク、スウェーデンを3週間かけて車で周遊した。「ヨーロッパでのペット連れ旅行の快適さに感銘を受け、ここからノロとの長い旅が始まりました」(平松氏)。

愛猫「ノロ」との37カ国の旅を語る平松氏

ホテル選びの楽しさをあきらめなくていい

快適さのポイントは何か?

まず、平松氏が挙げたのは、ヨーロッパ系の航空会社の多くで、小型犬や猫の機内同伴が可能なこと。重量、犬種などによって当然制限はあるが、一定条件を満たせば手荷物と同じ扱いになる。機内では、猫は原則としてバッグの中。旅を重ねるうちに、食事はバッグから顔を出して手に持った皿から、トイレはモバイルトイレなどといった試行錯誤を繰り返した。

交通手段については、レンタカーで国をまたいで移動できるのがポイントだった。左ハンドルや右側通行など、日本の交通ルールと違いハードルが高い部分もあるが、移動に慣れているペットにとっては、車内が動く個室となる。ヨーロッパの海で途切れたルートをきめ細かくつないでいるフェリーも車であればドライブスルーでチェックインできる場合もある。また、イギリスは日本と同じく島国ということもあり、動物検疫の厳しさが際立ち、航空機も飼い主とは別の貨物が原則。ただ、英仏海峡を結ぶユーロトンネルは動物検疫、車に乗ったまま列車に乗って移動する一連の手続きがワンストップで利用でき、さまざまな体制が整っているとの実例も紹介した。

ヨーロッパにおけるペット受け入れ可能な宿泊施設は、平松氏の感覚によると「7割程度」。民泊からオーベルジュ、5つ星級のラグジュアリーホテルまで幅広く、平松氏は「私が海外でのペット連れ旅行に魅せられたのは、ホテル選びの楽しさをあきらめないでよかったことでした」と語る。ただ、犬はOKでも猫NGの施設は少なくなく、オンライン上での検索での工夫、メールではなく直接電話して信頼を得るといった対策が必要なことについても言及した。

もちろん、歴史的建造物や教会などの宗教施設、生鮮食料品市場をはじめ、ペットを同伴できない施設がある一方で、「レストランの店内や高級デパートでもOKな場合は多く、『猫を連れているけど入っていい?』と聞いてしまうと、『どうして、そんなことを聞くの?』と返されることもよくありました。ヨーロッパは本当にダメな場合は入り口に“ワンコ進入禁止”などとマークで分かりやすく書かれているため、必ずチェックするようにしていました」(平松氏)。

リピーターが多い日本の受入施設

平松氏の具体的なペット旅の経験に続き、日本の受け入れ施設として事例紹介をおこなったのは、グランドプリンスホテル新高輪の担当者。人とペットが笑顔になれるサービスとして「ペットスマイルプロジェクト」に取り組む西武グループが本格的に乗り出したのは2005年で、軽井沢エリアからスタートした。

軽井沢にはホテル棟から離れたコテージ、愛犬とショッピングや散歩を楽しめるプリンスショッピングプラザがあり、将来的に需要が増えていくと考えたが、当初はアレルギーや吠えの問題など現場の多数は大反対だったという。しかし、自然の中で愛犬と過ごせる環境は大好評で、現在は猫と一緒に泊まれるキャットコテージ、愛犬家同士などの旅行に向けて1棟最大8名の大型ドッグコテージもある。

一方、グランドプリンスホテル新高輪は、都会の中心で愛犬と優雅なホテルステイを楽しんでもらうのがコンセプト。屋内型のドッグランとラウンジ、外出や食事の際にセルフで預け入れができるドッグクローク、専用エレベーターなどがある。宿泊客の約8割がリピーターであり、ニーズの高さがうかがえる。

ペット連れは多様性のひとつ

基調講演で「ヨーロッパのペットツーリズムの背景にあるのは、ペットは家族という考え方」と強調した平松氏。愛猫との旅のエピソードを書籍などで発信した当初は、「猫を連れて海外旅行なんて」といった否定的な意見も寄せられたが、ヨーロッパではペット連れは多様性のひとつであり、人のマイノリティと同じで面倒がられることも特別扱いされることもない現状を伝えていくうちに、日本でも関心を持つ人が増えていったという。

平松氏は、「日本のインバウンドも含め、ペットツーリズムは新しい旅行文化の一つになり得る可能性がある。東京をはじめとするインバウンドではヨーロッパとは異なる環境に対応する整備、日本人の海外旅行に対する情報発信など、業界全体の推進を期待しています」と力を込めた。観光産業にとっては、日本のペットフレンドリーの進化、旅行者のニーズや不安を解消するアプローチ次第によって、さらに市場が広がるポテンシャルを秘めている。

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…