
訪日外国人数、消費額が急速に伸びているなか、地域は今日的課題であるオーバーツーリズムを抑制しつつ、地方誘客を進めていく必要がある。そのなかで、観光庁は「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」での議論を受けて、2025年3月に「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」の見直しをおこなった。
観光地域づくり法人(DMO)登録の制度が始まって10年。現行の要件での登録DMOの数は、広域連携、地域連携、地域を合わせて323法人、候補DMOを合わせると353法人だ 。観光庁としては、登録法人の数は増えたものの、その質に課題感を持っているという。地域の観光をマネジメントするDMOが機能しなければ、オーバーツーリズム未然防止・抑制への対策も地方誘客や地方での消費拡大も進まないとの考えだ。
観光地域づくりの司令塔として、これまで以上に果たすべき役割がおおきくなっているDMO。その活動の質を向上させるために改定されるガイドラインの中身と変化とは? そのポイントについて観光庁に聞いてきた。
登録要件の見直し、KGIとKPIの設定を重視
新たなガイドラインのポイントは、「登録要件の見直しと更新要件の追加」、「審査レベルの向上」、「機能や役割を整理することによる異なる要件の導入」の3点。加えて、DMOの登録区分と役割分担も見直し、地域連携DMOのうち、マネジメント区域が単一都道府県を対象としているDMOを「都道府県DMO」に改め、複数の市区町村を対象とするものを「地域DMO」とする。
登録要件の見直しでは、観光地経営戦略の策定を義務化し、策定すべき項目を明示した。新たにKGI(重要目標達成指標)を追加するとともに、必須KPIを見直した。KGIでは、旅行消費額に加えて「経済波及効果」 の計測も必須とする。また、KPIでは、新たに「来訪者数の平準化率」、「観光従事者の平均給与額」、「住民の持続可能な観光に対する満足度」を加えた。
観光庁では、KGIおよびKPIの数値算出は、DMOが一番悩むところとの理解から、その手引書を同庁ウェブサイトに掲載している。
また、組織体制の強化として、CMOが専従しなければならない要件を撤廃し、常勤職員3人以上の配置を求める。優秀な人材を確保するためにはCMOの専従にこだわる必要はなく、安定的な運営のためには常勤3人以上が必要との考えだ(観光庁)。さらに、DMO職員の満足度調査の実施も新たに規定した。
さらに、安定財源確保の強化を求める。安定財源として、宿泊税や入湯税などの地方税をもとにした財源や自主財源で得た収益などを原資として、「補助金に頼らない自律的な運営を求めていく」(観光庁)。
質の向上へ、更新登録を追加
新しいガイドラインの大きなポイントの一つが、更新登録要件を追加したこと。あくまで、更新を取り消すための要件追加ではなく、質の向上を目指すものだ。
登録DMOの数ではなく、質を求めていくために実施する。これまでの活動の成果を定量的かつ定性的に評価。その中で、観光地経営戦略の策定などでDMOが中心的な役割を担うことになることから、更新時に 「合意形成の仕組みの場(意思決定機関)」での議事録内容の公表を求める。
また、人材育成の観点から、基礎的な研修の受講も要件化した。この取り組みに向けて、観光庁は研修プログラムを公募し、その中からDMOが選択し受講してもらう方式を取る方針。研修プログラムの選定は今年度中を予定している。
審査にあたっては、ヒアリングを導入し、毎年1年間のサイクルで実施審査する 。更新の要件を満たす場合は、年度末までに通知し、翌年度4月1日付で登録。要件を満たさなかった場合は、1年に限り留保。その後、継続の意思がある場合は再審査を実施する。 継続の意思がない場合は、取り消しとなる。
観光庁は「地域の実情に応じて、あくまでDMOの活動の成果を経年的に評価することになる」と説明している。具体的な審査内容やその枠組みについては、今後設計していく。
ガイドライン改正、2025年10月に施行
観光庁は、今年4月下旬に新しいガイドラインについてオンライン説明会を実施した。今後も全国規模あるいは地方運輸局の協力のもと地域ブロック単位でセミナーなどを開催し、理解・周知に努めていく考えだ。
新しいガイドラインは、2025年10月に施行。新規登録申請については、今回改正された登録要件が適用される。更新登録申請については、2年後の2027年4月から適用する。
観光庁は、国が認めるDMOとして、よりマネジメント の質を担保し、いわゆる観光協会の役割との区別化を明確化していく。DMOの登録制度開始から10年。この間、観光庁としてもDMOの在り方を探ってきたという。市場環境が変化するなかで、そのフェーズは変わってきたと認識。「ガイドライン改正は、より一層マネジメントに注力してもらうためのもの」との考えを示している。