世界が直面する「持続可能な観光」の現状と、世界が共通して使える規格とは? ―国際会議GSTC2025

グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)は、2025年8月にフィジーで国際カンファレンス「GSTC2025」を開催した。基調講演では、ランディ・ダーバンドCEOが世界の観光が直面するサステナビリティの現状や課題、その解決に向けたロードマップを発表した。

ダーバンドCEOは、「持続可能な観光とは、プロセスであり目標。一方で、現状では、完成したサステナブルツーリズムはまだ存在しない」と言及。そこには世界の観光における認証や基準の“氾濫”への危機感がにじむ。GSTCが掲げる世界標準の定義と、今、観光産業に何を求めているのかを取材した。

ダーバンドCEOは、まず、GSTCが持続可能な観光の“世界標準”を提供する役割を担っていると語った上で、その設立背景について紹介した。

GSTCは2007年、国連環境計画(UNEP)と国連世界観光機関(UNWTO:UN Tourism)が、観光と環境のサステナビリティに関する初の包括的な分析と定義をおこなったことに端を発して生まれた。以降、MDGs(ミレニアム開発目標)からSDGs(持続可能な開発目標)へと連なる理念を基盤とし、観光分野における持続可能性の具体的な基準づくりに取り組んできた。

クライテリア(基準)から「スタンダード(規格)」へ

一方で、これまで「GSTCクライテリア(基準)」と呼ばれてきたものは、今後は「GSTCスタンダード(規格)」と名称変更する。

「“クライテリア”という名称が、標準規格であることをわかりづらくしていた。私たちが国際標準の枠組みに従って設計したものであることを明確にするため、正式に“スタンダード”と呼称することにした」と語った。

現在、GSTCスタンダードは、ホテル、ツアーオペレーター、MICE、アトラクション向けに展開されており、今後はフード&ビバレッジ、サービス業にも対象を広げる予定だ。

GSTCスタンダード(規格)

世界が共通して使える規格とは? 開発と改訂のプロセス

 GSTCスタンダードの最大の特徴は、徹底的にインクルーシブ(包括的)な開発プロセスにある。すべての大陸、すべての文化からの声を集め、技術委員会によって整理・優先順位づけをおこなう。

そのうえで、「誰でも意見を出すことができるオープンプロセスであることが、私たちのスタンダードがグローバルスタンダードといえる理由だ」と続けた。

改訂は通常5~6年ごとに実施されるが、必要なければ変更しない柔軟な姿勢もとっている。頻繁に改訂すれば、業界全体がついてこないため、実効性と安定性のバランスが大切だと付け加えた。

「再生型観光」と「ネット・ポジティブ」の現実性

観光産業における近年のトレンドとして「再生型観光(regenerative tourism)」や「ネット・ポジティブ(net positive)」といった概念が注目されている。

これについて、ダーバンドCEOは「ネット・ゼロが“悪影響をゼロにする”なら、ネット・ポジティブは“善影響が悪影響よりも上回る”こと。しかし、私たちはいまだネット・ゼロにも到達していない」と述べた。

再生型という言葉が理想として使われる一方で、測定や定義の曖昧さが課題だとし、「こうした言葉は慎重に使うべき」と指摘。「持続可能な観光とは、すべての観光形態において改善を目指す継続的なプロセスであるべき」と強調した。

GSTCのランディ・ダーバンドCEO

世界中にあふれる認証ラベル、その信頼性への懸念

観光産業には、サステナブル認証を謳うものが世界中に約300種類あるとされる。しかし、その多くが「自己評価」または「コンサルタントによる指導と監査」の混在であり、国際的な認証制度の基準を満たしていないケースが大半だという。

これは「他の産業ではありえない話。安全や品質認証は必ず第三者による監査と評価がセットであり、それが信頼性を支えている」と世界水準のあり方に言及した。

GSTCでは2016年に正式なアクレディテーション(認証機関の認定)制度を開始し、国際基準に則った信頼性のある認証制度を推進している。

持続可能性の3本柱:基準・測定・検証の整備が急務

GSTCは、サステナビリティを体系的に推進するには、「基準(criteria)」「測定(measurement)」「検証(verification)」の3つが不可欠であると考えている。

ダーバンドCEOは、「私たちの業界は測定が苦手」とサービス産業ならではの事情を語り、TravelistをはじめとしたOTAによる測定データ基盤構築への期待を示した。「“認証”という言葉が安易に使われすぎている」とし、第三者による厳格な評価とアクレディテーションの導入を「今こそ業界全体で本気で取り組むべき時だ」とも訴えた。

すべての事業者や地域がいきなり“完全なサステナブル”を目指すのは現実的ではない。そのため、段階的なアプローチが重要で、たとえば、2026年はGSTC基準の30%を満たすことを目標にし、数年後には70%、最終的には認証取得というようにステップを踏むべきとした。

GSTCは、19言語での研修プログラムや各種トレーニングコースを展開しており、AgodaやTraveloka、Virgin Voyages、日本の観光庁など、民間・公的パートナーとの協業も進めている。

また、アカデミック・シンポジウムや動物福祉の国際的ラウンドテーブル、小規模事業者支援の対話などもおこなわれている。すべては、実際に活用されて初めて意味があるもので、GSTCのミッションは、共創と実装によってこそ活きると述べた。

観光産業が世界に向けて信頼されるために

ダーバンドCEOは「30年間、観光産業界は外部レビューのない認証ラベルを容認してきた。これはもはや変えねばならない」と訴えた。そして、国際的に認められた認証・評価プロセスの整備を通じて、観光産業界の全体の信頼性と実効性を高めていくべきだと付け加えた。

最後に、「誰もが役割を持っている」と締めくくった講演。持続可能な観光を真に推進するための「誠実さ」と「体系性」の必要性を改めて世界に問いかけた。

取材・執筆 鶴本浩司

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