なぜ「AIスロップ」が起きるのか? 旅行業界が「もっともらしい嘘」を防ぐための設計【外電】

AIが生成した旅行情報や旅程表には、事実よりも虚構に根ざしたものも多い。不正確な情報や存在しない目的地は、消費者と事業者の双方に混乱をもたらす「AI Slop(AIスロップ)」の蔓延の一因となっている。スロップは、「くず」という意味。つまり、AIスロップとは生成AIによって大量生産された「低品質で価値のないコンテンツ」を指す蔑称だ。

スロップは現実世界にも悪影響を及ぼし、誤った推奨によって人々の行き先、支出額、信頼する事業者にも影響を及ぼす。

観光での「AIスロップ」の例では、AIが実在しない景勝地や架空の料理を捏造したり、AIが誤ったビザ情報を提示したり、レストランのハラール対応で誤表示をおこなうなどの事態が発生している。これらの事例は、AIが生成する「もっともらしい虚偽」が旅行者の体験を損なうだけでなく、提供側のブランド価値を失墜させる脅威であることを示している。

また、AIツールを使って人々を騙すなど、より意図的に操作的な行為がおこなわれる場合もある。AIを悪用したデマには、バッキンガム宮殿の外に架空の市場を作ったり、ノルウェーで未来的なパノラマ夜行列車を作ったり、AIが生成した偽画像を使ったAirbnb詐欺など、人々を騙すものも出てきた。

これらは、人間によって意図的に操作されたため、AIの欠陥とは言えない。ずさんな管理というよりは、詐欺行為に近いと言える。

バージニア工科大学のフアン・ルイス・ニコラウ教授は、「企業がリアルタイムデータに基づかずに、大規模な言語モデル(LLM)をインターフェースに直接接続すると、ずさんな情報が発生する」と警告する。

一方で、賢明な戦略と強固なデータ基盤があれば、AIボットによって正確な情報を提供することができるということだ。

ずさんな情報に歯止めをかける

データサイエンス・AIソリューション企業「Tredence」の旅行・ホスピタリティ担当副社長フトクシ・セトナ氏は、「信頼できる、管理された、正確なデータを使って、LLMに適切なデータを取り込ませることは、すべての組織にとって基本的なことだ」と話す。旅行会社は、AIに情報の発掘や捏造を任せるのではなく、AIを積極的に正しい答えへと導く必要がある。

ニコラウ教授は、LLMの回答精度を高める「検索拡張生成(RAG)」の重要性について指摘する。「RAGプロセスを用いて、AIが検証済みのリアルタイムデータベースに基づいてのみ、回答するようにすることは『必須』であるべき」と話す。データが欠落している場合、AIは推測ではなく「わかりません」と答えるようにプログラムすることもできるのだ。

効果的なのは、RAGをMCP(Model Context Protocol)と連携させることだ。RAGは正しい事実を取得することでLLMが何を返すべきかを判断し、MCPは社内ツールやデータベースへの接続を標準化することで、LLMがどこを参照すべきかを決定する。

これらを組み合わせることで、AI(企業の独自モデルと外部のChatGPT、Geminiなど)は、公のインターネットだけでなく、旅行システムにもアクセスして回答を得ることができる。

低下するAIに対する安心感

ニコラウ教授は、AIが返す誤った情報は単なる技術的な問題ではなく、旅行会社にとっての信頼の問題でもあると指摘する。

「AIの出力が誤解であった場合、ユーザーはアルゴリズムだけでなく、ブランドを責める。問題なのは、AIが失敗した際に誰が責任を負うのかが明確でないことだ」と話す。

2025年8月に実施されたYouGovの世論調査で、AIを使った旅行プランニングに対する米国の旅行者の安心感が32%から30%に低下した。これは、誤回答の危険性が要因かもしれない。この減少は特に18歳から24歳の層で顕著。2024年には47%がAIに安心感があると回答していたのに対し、2025年は34%にとどまった。

AIで勝利するのは、派手な発表をおこなう企業ではなく、データセンターを整備し、その信頼性を確保した企業となるだろう。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(Skift)」 から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事: Welcome to the Age of Travel Slop

著者:Adriana Lee氏


みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

注目企業 セレクトSPONSORED

トラベルボイスが注目する企業の特設サイトです。ロゴをクリックすると注目企業のインタビューやニュースを一覧することができます。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…