KNT-CTホールディングスは2026年5月20日、2026年3月期決算・IR説明会を開催した。同グループは2027年4月1日付で、持ち株会社と事業会社3社を統合し、新商号「KNTCT株式会社」へと移行する方針をすでに発表。長く続いた構造改革と信頼回復のフェーズを終え、グループの顧客基盤とブランドを融合させた成長エンジンの確立を目指す方針だ。
会見では、2027年度からの次期経営計画に向けた方向性と具体的な施策、復配の意図など、同社が描く次世代の旅行ビジネス像を説明。代表取締役社長の小山佳延氏は「持続的成長に向けさらに踏み込んだ構造改革が必要だ。4社統合により経営資源を一体化し、各社の強みを融合して実行速度を高める。効率化で創出したリソースを成長領域や顧客接点へ投じ、利益創出と投資を加速させる体制へ転換する」などと決意を語った。
組織の壁を打破、一体運営へ
2027年4月、KNT-CTホールディングスは、傘下の近畿日本ツーリスト(KNT)、クラブツーリズム(CT)、近畿日本ツーリストブループラネット(BP)の3社を吸収合併し、一社化する。同グループは、これまで各社を統括・管理してきた純粋持ち株会社体制から、主要事業を直接実行する事業主体へと転換する。
新商号の「KNTCT」でハイフンを除いた意図について、代表取締役専務の中之坊健介氏は「現在のKNTとCTの間にある物理的・心理的な壁を取り払い、事業・顧客基盤・文化を完全に融合させる意思の表れ」と強調。従来の体制下では、200億円規模のコスト構造改革を実施するなど、収益構造の見直しと財務基盤の回復に注力してきた。一方で、人口減少やAIの台頭など、旅行業の存在意義が問われるなか、グループ横断での迅速な意思決定が不可欠となっていることが今回の一社化の背景にある。
統合により、本社機能の集約やシステムの再構築を進めるだけでなく、創出したリソースを顧客接点へ再配置する方針だ。KNT(300万人)とCT(700万人)を合わせたグループ全体で1000万人を超える会員基盤については、年齢層や居住地において相互に補完性が高いとし、融合させた新たな会員プログラムの検討を進めることで、LTV(顧客生涯価値)の最大化を図る。
また、中之坊氏は「単なる法人整理ではなく、既存事業の収益性を高めながら、訪日・海外、新規事業など成長領域の拡大を加速する」と述べた。法人統合に先駆け、2026年4月からは個人旅行事業のCTへの集約や、団体事業をエリア軸から事業部主導へ刷新するといった先行再編も開始している。
地域共創と未来創造を成長エンジンに
新生KNTCTが掲げる成長戦略の新たな核となるのが、既存の旅行業の枠を超えた「地域共創」と「未来創造」の領域だ。
訪日・海外事業では、海外発と国内着の両サイドで取り組みを強化する。施策の1つが、海外市場への直接営業を強化するための「海外リエゾン」の構築。2025年度に米国へ専門要員を配置したのに続き、2026年度に欧州・豪州、2030年には世界30都市への展開を目指し、現地の旅行者・旅行会社との橋渡し役を担う。また、個人旅行(FIT)市場の開拓に向けて、専門家が設計した高単価なガイドツアーの拡充を図る。
地域共創事業においては、単なる送客にとどまらず、観光機能の実装を推進する。島根県や岐阜県高山市といった自治体との包括連携協定に加え、2026年4月には高山と伊勢志摩にオペレーションセンターを設置。各種手配や商品造成、プロモーションなどを担うDMC事業に着手する。さらに、西日本、中日本、東日本に「地域代表」を新設し、地域リレーションを深める体制を整えた。また、新たな収益源の育成として未来創造事業にも取り組む。海外向け日本食・伝統工芸の特集や、探究学習スクール、若者向けメディアの開発など、外部パートナーとも連携しながら事業ポートフォリオの多様化を急ぐ。
こうしたリソースは顧客接点へ重点的に振り向ける考え。現時点で同グループの従業員数は約2700名だが、営業をはじめ直接収益を生み出す前線要員は約50%にとどまっている。統合により、全体の10%(300人程度)は顧客接点となる前線へシフトさせる計画もある。
中期計画の修正と19年ぶりの復配
資本施策と現・中期経営計画の進捗については、代表取締役副社長の三宅貞行氏が説明した。同グループは、中期経営計画(2024~2026年度)の最終年度となる2027年3月期の営業利益(目標85億円)予測を62億円へと下方修正した。要因には、中東情勢による海外旅行の停滞といった外部要因に加え、人的基盤の維持強化を目的とした3年連続のベースアップによる人件費の増加、システム基盤構築への先行投資が挙げられる。人手不足解消とDX推進を優先する判断だ。
三宅氏は「3年間の累計で見れば、当期純利益は計画値を10億円上回る見込みであり、優先株式の償還を可能にする利益目標は実現できている」と述べ、計画の実行性は維持されているとの認識を示した。
また、財務面での大きなトピックが、普通株式に対する1株当たり10円の復配だ。2006年度以来、19年ぶりとなる。コロナ禍での債務超過を乗り越えるために発行した優先株式(A種・B種計400億円)のうち、B種については2026年6月に償還。A種についても一部償還と並行して、普通株主への利益還元に踏み切る。三宅氏は「株主還元は経営の最重要施策。今回の配当復活は、業績と財務状態の改善が着実に進んでいる証左」と述べ、信頼回復から成長への投資、還元へとフェーズが移行したことを強調した。
中東情勢の影響と堅調な夏の予約状況
会見では、足元の不透明な外部環境についても言及があった。海外旅行全体に占める中東経由のウエイトは10%に満たず、業績全体への直接的な影響は限定的とみる。一方で、中東経由便の欠航に伴う振り替えの難しさや、燃油サーチャージの高騰、為替の影響による旅行代金の上昇が、心理的な旅行意欲の減退を招くリスクについては注視を続けるとした。
もっとも、2026年度夏の予約状況は、金額ベースで国内・海外ともに前年を上回って推移している。燃油高や円安といった懸念材料はあるものの、顧客ニーズに合わせたデスティネーションの提案など、営業努力で補完していく考えだ。
効率化によって創出したリソースを、地域社会の課題解決や新たな旅の価値創造にどれだけ振り向けることができるか。2027年度の次期経営計画に向けた、同社の事業再編の進展が注目される。




