FIFAによると、2026年7月19日に閉幕したFIFAワールドカップは3カ国でおよそ680万人を集めた。大会史上最大規模となった今大会はファンを楽しませた一方、気候変動の原因となる温室効果ガスを大量に排出したと推計されている。
2026年7月に学術誌「Communications Sustainability」に掲載された論文によると、今回のFIFAワールドカップでは、ファンの移動がイベント全体の温室効果ガス排出量(CO2)の82%を占め、そのうち国際移動による排出量だけで約307万トンにのぼると事前推計されていた。
一方、環境負荷の低減を掲げたツアー運営でも知られる英国の世界的人気ロックバンド「コールドプレイ」が2024年に行った欧州ツアーでは、ファンに対して環境負荷の低い移動手段の利用を促すなどの取り組みを実施。移動に伴う排出量を、ほぼ半減させることに成功したとする研究結果も示されている。
論文の責任著者ショーン・ラーコム教授は、「ワールドカップのようなメガイベントでは、会場運営に伴う排出量を減らすだけでは不十分だ。コールドプレイの事例が示すように、真の持続可能性は、主催者がファンの移動手段やルートの選択から、イベントの規模や設計に関する決定に至るまで、幅広いシステムに働きかけることで実現する」との見解を示している。
コールドプレイのツアーでは、太陽光発電を利用したステージシステムの導入や低排出燃料の使用に加え、ファンがより環境に配慮した移動手段を選択できるようなインセンティブも提供された。
対策にアプリ活用、グッズ割引などインセンティブも
コールドプレイの事例では、ファンがアプリを使い、様々な移動手段による環境負荷を計算。低炭素の移動をおこなったファンに対しては、オンラインストアでグッズを購入する際の割引特典が付与された。
ツアー終了後、コールドプレイはマサチューセッツ工科大学(MIT)に排出量削減の検証を依頼した。その結果、ファンが全体として、アプリで提示された移動ルートを実際に利用していたことが確認されたという。
このような対策によって、コンサート活動に伴う直接的な温室効果ガス排出量は59%削減された。また、排出量全体の97%を占めたファンによる移動に伴う排出量は約48%削減された。
ツアー全体による温室効果ガス排出量はCO2換算で5万8500トンにのぼった。これはドイツに住む5700人が1年間に排出する量にほぼ相当する。
W杯の排出量、欧州人78万5000人の年間排出量に匹敵
全104試合が行われた2026年ワールドカップについて、研究チームはCO2総排出量を423万トンと推定した。単純計算で、これは欧州で約78万5000人が1年間に排出する量に相当する。排出量の実に82%は、ワールドカップ開催地へのファンの移動や、開催都市内および都市間での移動に起因するものだった。
排出量を削減するため、研究チームは主催者に対して、排出に伴う社会的費用をチケット価格に反映する仕組みを検討するように提案している。一方で、環境負荷の低い方法で移動したことを証明できる参加者には、一部を払い戻す措置を組み合わせることも提案に加えた。
また、移動に伴う排出量を抑えられるようなイベント会場を選定するように提案している。論文は、国際的な参加者の約40%が欧州から訪れると予測されていたことから、北米ではなく欧州で開催すれば、移動に伴う排出量を大幅に削減できた可能性があるとも指摘している。
ラーコム教授は、「こうした大規模イベントは、単なる娯楽の枠をはるかに超えるものだ。人々の精神を高揚させ、ファンに一体感をもたらす。気候変動のさらなる進行を防ぐために必要な『共通の責任』という意識を喚起する絶好の機会となる。現代のエンターテイナーは絶大な影響力を持っており、彼ら自身がひとつの巨大な産業とも言える。もしテイラー・スウィフトが、自身のツアーで気候への配慮を最優先事項にすると決断すれば、大きな効果が得られるはずだ」と述べている。
※ドル円換算は1ドル163円でトラベルボイス編集部が算出
※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。



