AIによってラグジュアリー旅行ビジネスが再構築されるなか、旅先を見つけ出し、プランを練り、予約する手法にも影響が及んでいる。とはいえ、パーソナルなサービスが大前提となるこの分野では、AIの活用は主に裏方での活用が中心。人間のエキスパートの代わりをAIが務めるのではなく、その能力を増幅させることが狙いだ。
ラグジュアリー市場向けのホスピタリティ、旅行アドバイス、流通業のトップ諸氏に話を聞くと、AIによる効率化やパーソナライズ化は進んでいるが、最も成功した活用手法のほとんどは、旅行者側からは見えない領域になるという。
また調査結果からは、ラグジュアリー旅行市場自体も変化しており、従来の超富裕層(純資産3000万ドル以上/約47億円以上)だけでなく、特別な体験を選ぶことに積極的な「ラグジュアリー志望」層も取り込みつつ、拡大していることがうかがえる。
フォーカスライトの調査レポート「Quiet Luxury in Motion:The Indulgent Explorer Mindset(変化するクワイエット・ラグジュアリー:こだわりを持つ探検者のマインドセット)」では、「こだわりを持つ探求家」と名付けた消費者セグメントに焦点を当て、この層にとってのラグジュアリーについて考察している。
この旅行者層は、収入や純資産は総じて高いものの、旅行で体験したいことの優先度が高く、そのために他の予算を削ることもいとわない。
消費額が高くなるとしても、一般的な人々とは違う、ユニークな体験をしたいと考えており、この層の47%が「誰もがアクセスできる訳ではない旅行体験を求めている」と回答している。
こうしたトレンドをまとめると、高額消費する旅行者の期待に応えるために、旅行各社がAIをどう活かすべきかが見えてくる。
AIでサービス向上、置き換えはNG
フォーカスライトのレポートによると、ラグジュアリー旅行に「価値がある」と判断する理由として最も多く挙がったのは、「卓越したサービス」(38%)だ。
ラグジュアリー旅行に携わる専門家の話から分かったことは、まず、人間によるサービス提供のサポート役がAIであるとの考え方だ。
「ラグジュアリー旅行者は、AIについて、専門人材の代わりにならないが、裏方で接客体験を支え、向上させるものと捉えている」と話すのは、クラシック・バケーションズのCEO、メリッサ・クルーガー氏だ。「AIが普及するなかで、人とのつながりが持つ価値はむしろ以前より高くなっている」。
COMOホテルズ&リゾーツのコマーシャル担当執行副社長、ドリス・ゴー氏は、ハイエンドの宿泊客について、これまでと同じく、意義深いパーソナルな関わり方を求めていると話す。
「こうしたラグジュアリーゲストは、アルゴリズムのみをベースにした効率性よりも、人間ならではの認識力や思慮深さを求めている」とゴー氏は語る。
つまり、社員が宿泊客のニーズに応える能力を高めてくれるAIこそ、最も威力あるということだ。
「成功しているモデルでは、AIを拡張レイヤーとして使い、人間関係を置き換えるのではなく、人間にインサイトを与えている」とゴー氏は説明する。「ラグジュアリーホスピタリティ業界は、大衆向けの旅行プラットフォームとは構造的に異なる。Emotional intelligence(感情知能)の方が、自動化機能よりもずっと重要なのだ」。
特に、ラグジュアリー旅行アドバイザーにとって、この部分の強化は大切になる。旅行代理店向けプラットフォーム、Foraの共同創業者兼最高プロダクト&テクノロジー責任者のジェイク・ピーターズ氏は、すでにAIツールのおかげで、旅行アドバイザーによるサービスを向上できるようになっていると話す。
「AIでレバレッジをかけることで、旅行アドバイザーが顧客に対し、五つ星級のサービスを効率的に提供できる領域については、できるだけ簡単に使えるものを用意したい」と考えている。
AIが最大のインパクトをもたらすのは「舞台裏」
ラグジュアリー旅行の場合、AIが最大限に効果をもたらすのは、顧客と直接接するタッチポイントよりもバックエンドのオペレーションでの導入になる。
「当社では、AIをアプリケーション全域の裏方で活用している」とピーターズ氏は話し、財務調整、料金のモニタリング、提案作成などの業務でAI効果が出ていると明かす。例えば、アドバイザーがAIを使って、顧客にぴったりの旅行をスピーディーに提案するなどだ。
「以前は提案内容をまとめるのに1時間半かかったが、5分で予約可能な見積もり書を作成できるようになった」とピーターズ氏。
同様の効果は、ラグジュアリーホスピタリティ業界でも出ており、例えばCRMデータにAIを活用することで、宿泊客の好みを予測するのに役立っている。
「AIシステムがCRMデータ、行動シグナル、文脈情報を分析し、予約がまだ完了していない段階から、ゲストの好みを推測したり、レコメンドする内容をカスタマイズしたりできる」とゴー氏は説明する。
そのほかの事例として、クルーガー氏は、AIによるコミュニケーションの要約、コールセンターでのやり取りの分析、旅程の提案作成などを挙げる。
「事業のあらゆる領域でAIを積極的に試している。人間の専門知識を代替するものではなく、向上させることが狙いだ」。
カギは、旅行者からは絶対に分からないようにすることだ。
「課題はAIの導入ではなく、旅行者にAIの存在を感じさせないようにすること」とクルーガー氏は指摘する。
パーソナライズはまだ難しい
ラグジュアリー旅行で、最も期待されているAI活用手法の一つに、パーソナライズがある。ただし、各氏とも実効性のある使い方はまだ難しいとの考えだ。
ピーターズ氏は、最大の課題はデータだという。「相手が本当に興味あることを知りたいというが、一体どうやって、その人の好みに関する全データを入手するのか?」と問う。
AIは、頻繁に予約するホテルなど、行動パターンを素早く特定するのは得意だが、目的地の雰囲気やライフスタイルとの相性など、より微細な差異まで感じ取り、相手の嗜好を理解するのは苦手だ。
「AIのパーソナライゼーション・システムで、どこまで把握できるのか?」とピーターズ氏は疑問視し、「パーソナライゼーションの最上部レイヤーでは、人間の旅行アドバイザーがAIを助ける必要がある」と説く。
一方で、クルーガー氏は、ラグジュアリー旅行におけるAIの次のステップは、予測サービスだと考えている。「本当の商機は、受け身の反応的サービスから予測サービスへ移行することにある」と指摘する。「AIは、アドバイザーが相手のニーズを予測し、適切なタイミングで提案し、他とは違う顧客体験を生み出すのに役立つはずだ」。
ゴー氏は、ラグジュアリー旅行会社が扱う顧客について、人数的には少ないものの、ライフスタイルの好み、食習慣、人生におけるマイルストーンなど、そのプロフィールは多岐に渡ることに注意が必要だと話す。こうした一人ひとりに関する情報の把握が欠かせない。同時に、慎重な取り扱いが求められる個人データにもアクセスすることになるため、これを外部に漏らさないことも不可欠である。
「ラグジュアリー旅行者は、プライバシーにより敏感な傾向がある。その分、ブランドに対する信頼があれば、個人情報も安全だと考え、何度もリピート利用してくれる」。
AIを活用した手法においても、同様に高いレベルの配慮があると保証することが不可欠だ。
変わること、変わらないこと
技術が進化する一方で、ラグジュアリー旅行者自身も変化している。旅行テック企業のアリビア(Arrivia)による最新調査からは、ラグジュアリー市場が、従来の超高額消費者を超えて、他の層にも拡がっていることがうかがえる。
同社のレポート「The New Luxury Travel Playbook」が米国のレジャー旅行者2000人以上を調査した結果、ラグジュアリー旅行者の約35%が「ラグジュアリー志望」のカテゴリーに当てはまったという。純資産が10万~100万ドル(約1550万~1億5500万円)の世帯で、快適さや利便性、有意義な体験への消費意欲が高いという。
同レポートでは、人口動態の変化にも注目している。例えばミレニアル世代は、「ラグジュアリー志望」旅行者の36%を占めており、今後、こうした若い世代がプレミアム旅行需要に与える影響が高まる可能性を示唆している。
旅行者が期待するAIとの関わり方には、世代による違いもあり、これから影響を与える要因になりうるとの指摘もあった。
「若い世代になるほど、ラグジュアリー旅行者でも、初期の計画段階からAIを使うことに抵抗感がなく、特にインスピレーションやリサーチのために活用することが多い」とクルーガー氏。これに対し、「社会的地位が高くなると、旅行アドバイザーがすべて対応するのを好むようになる」という。
「Z世代など若い世代、自立心旺盛で海外旅行経験もあるので、それぞれ自分のスタイルがある」とゴー氏は話す。
こうした違いにも関わらず、ラグジュアリー旅行のサービスは、世代に関係なく均一で、大きく変えようとする動きはない。
「結局、すべてのセグメントにおいて、非常にパーソナライズされ、柔軟で、無理なく感じられることが期待されている」とクルーガー氏は語る。
「子どもたちがいつも親と一緒に旅行していて、親たちが贅沢やライフスタイルを重視しているなら、子どもたちもそうなる。大人になったら、同レベルのサービスを当然、求めるようになる」とゴー氏は話す。
人のつながりが担う永遠の役割
AIは急速に進化しているが、ラグジュアリー旅行の本質は、非常にヒューマンなものであり続けるというのが同業界リーダーたちの信念だ。
「人間がホスピタリティを提供するならば、これからも、旅行に不可欠なのは人間であり続けるだろう」とピーターズ氏は話す。
ゴー氏も同意見で、むしろAIの台頭により、人と人との関わりがこれまで以上に重要になるかもしれないとの見方だ。「テクノロジーが普及すればするほど、人との交流を渇望するようになるだろう」(同氏)。
ラグジュアリー旅行会社の課題は、最適なバランスを見極めることだ。テクノロジーでプランニングを効率化し、インサイトを掘り起こすのは不可欠だが、同時に、プレミアムな旅行を定義する要素、感情面でのつながりや一人一人への気配りも維持する必要がある。
クルーガー氏の言葉を借りると、「適切に活用すれば、AIは関係性を変えるのではなく、強化してくれる」ということだ。
本記事に関連するレポートは下記から入手できる。
フォーカスライト「Quiet Luxury in Motion: The Indulgent Explorer Mindset」(英文)
※ドル円換算は1ドル160円でトラベルボイス編集部が算出
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:AI reshapes luxury travel—but human expertise remains essential
著者: マリサ・ガルシア著




