長野県白馬エリアを中心に観光開発やまちづくり事業を手掛けるズクトチエは、オリエンタルランドの100%子会社でコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)事業を担うオリエンタルランド・イノベーションズ(OLI)を引受先とする、総額8800万円の第三者割当増資を2026年9月に実施した。
OLIが地方を拠点に観光施設の企画・開発から運営までを一貫して手掛ける地域事業会社へ出資するのは今回が初めて。ズクトチエは調達した資金をもとに、白馬エリアを中心とした観光施設の再生・開発投資や人材採用を強化し、地域に眠る遊休資産の有効活用を加速させる。
なお、本件はOLIによるマイノリティ出資であり、OLIからの役員派遣はなく、ズクトチエの経営体制に変更はない。
「再投資が回る持続可能な観光地」へ
今回の増資により自己資本を拡充したことで、ズクトチエはこれまで資金面の制約などから着手や事業化に時間を要していた案件について、迅速な意思決定と開発を進める体制を整える。さらに、OLIの施設運営ノウハウや人材育成の知見を取り入れ、事業基盤の強化を図る。
ズクトチエ共同代表の和田寛氏は、白馬エリアが持つ山岳景観や雪質、スキー場の規模感といったポテンシャルは世界トップクラスであると強調する一方で、町全体の魅力向上を阻んできた構造的課題を指摘する。
「白馬全体として『世界水準のオールシーズンマウンテンリゾート』を目指しているが、単一のスキー場の成功にとどまらず、地域全体へと面的に広げていく必要がある。これまで観光事業者が十分に収益を上げられず、再投資が進まない悪循環があった。利益を地域内に留め、再投資や住民の生活へ還元することで、次世代が白馬で稼ぎ続けられる持続的な経営体制を地元主導で築いていく」(和田氏)。
和田氏は「白馬岩岳マウンテンリゾート」の開発も手がけてきた
食品製造へも領域拡大
ズクトチエグループは、既存施設の再生や新築、M&A、事業承継など多様な手法を用い、白馬村、小谷村、大町市にまたがる「HAKUBA VALLEY」エリアを中心に約20の施設・事業の運営や再生に携わってきた。2022年7月の同社設立以降だけでも、新規に手掛けた施設・事業は11件にのぼる。
主な実績として、青木湖畔での「ao LAKESIDE CAFE」や絶景サウナ「Hakuba Zekkei Sauna “ao”」の開業、白馬八方エリアにおける泊食分離の受け皿となる「白馬八方 山吹食堂」の展開などが挙げられる。また、白馬岩岳エリアでは、40年以上親しまれてきた「ロッジいとう」のオーナー住居を維持したまま宿泊部門のみを長期賃借して再生した「B&D HAKUBA IWATAKE」や、老舗宿を再生した「THE GAKUSUI HAKUBA IWATAKE」など、既存の地域資源を生かした再生モデルを確立してきた。
青木湖畔の「ao LAKESIDE CAFE」は新たな観光スポットに
直近では、地域ブランド「白馬ハム」の製造・販売事業を承継。宿泊・飲食・観光施設にとどまらず食品製造分野へも参入し、地域内での付加価値向上と循環を図っている。さらに、ホテルと白馬乗鞍温泉スキー場を運営する白馬アルプスホテルに対しては2023年から経営支援を実施。2026年4月からはホテル部門をPlan・Do・See ALPSへ賃貸することでホテルの魅力向上を図るとともに、スキー場事業へ経営資源を集中させる事業再編を実現した。
OLI初の地域観光ベンチャー出資、全国への横展開を視野に
出資元のOLIにとっては、地方の現場で観光まちづくりを牽引するベンチャー企業への出資は初の試みとなる。同社社長の麻畠万暉氏は、出資の背景と狙いについて、「ズクトチエは地域の可能性を実際の事業として具現化できる稀有な企業であり、そこに私たちが培ってきたサービス品質の向上や人材育成、持続的な事業運営の知見を掛け合わせることで、新たな滞在の選択肢を生み出せる」と説明した。
地域観光の可能性を語る麻畠氏また、日本の観光産業の課題についても言及。「日本の観光地は施設の老朽化や人手不足といった課題に直面しているが、観光市場そのものには大きな可能性が眠っている。重要なのは、宿泊や食事、様々な体験をつなぎ合わせ、その地域で過ごす滞在時間全体の価値を高めることだ」と話した。
なお、今回の投資はOLIが独立して手掛けるCVC事業としての意思決定であり、オリエンタルランドのテーマパーク事業とは切り離した新規事業創出の一環として位置づけられている。
麻畠氏は「白馬から始まるこの挑戦を日本各地へ広げ、日本の観光をもっと魅力的なものにしていきたい」と話し、今後の横展開に期待をかけた。



