スカイマークA380購入計画の本質とは?航空ジャーナリスト秋本氏が語る”新たな改革”へのエール

発注していたエアバス380型機の解約(交渉)が明らかになったスカイマーク(BC)。その後、発表された2014年4~6月期決算では営業損益は55億円の赤字を計上、経営に関して「重要な疑義が生じている」と記載を加えるなど同社は重大な局面を迎えている。

各種メディアの報道のとおり、スカイマークのA380型機の購入は身の丈に合わない無謀な計画だったのだろうか──?

航空ジャーナリストの秋本俊二氏は、この問いに異論を唱える。長年、世界と日本の“空”を見つめてきた秋本氏は、スカイマークのA 380購入計画の本質は「日本の空を変えようとした」ことと指摘。スカイマークに「エールを贈りたい」と語る秋本氏に今回の問題と購入計画の本質を聞いた。

秋本氏が一番強調したいとするのは、今回の問題が露呈してからの各種メディア、専門家の論調が結果に対するコメントしかないこと。契約自体が企業規模にあわない無謀なものだったと結論付ける論調が多くある中、秋本氏は「無謀に見える計画には夢・ビジョンがあったことを忘れている」と指摘する。

スカイマークは日本の航空自由化以来、日本の空に変革を起こそうとしてきた存在。A380の購入計画もそのひとつで、こうしたチャレンジがなければ“日本の空”は規制緩和前に戻ってしまうと警鐘を鳴らす。経営的な問題、先の見通しが甘かった点などはその通りではあるものの「戦略やビジョンに対する評価があっていいのではないか?」との考えだ。

▼スカイマークがA380購入を計画した理由

 狙いは長距距離国際線で“高クオリティ&低価格”を実現すること

IMG_6190A380の解約交渉がスタートしてからの現状はこうだ。同社はエアバス社にA380を合計6機発注していたが、購入は2機として4機のキャンセルを希望した。購入する2機については納入を先延ばしにして支払いを延期する交渉を進めてきたが、まだ話し合いはついていない。交渉を継続する一方で、不採算路線からの撤退や事業規模の縮小などで経営の立て直しを図り、再度利益の出る企業体質に生まれ変わろうとしている。

撤退する成田空港は、羽田に次ぐ第2のハブとするはずだった。滑り出しは好調だったものの、近年は新興のLCCが相次いで成田に乗り入れ、競争が激化。こうした中、成田を撤退し、収益性の高い羽田空港からの路線に集中することを決断する。結果的に成田の発着枠を手放すことになれば、秋本氏は「ニューヨーク線就航というスカイマークの野望が夢に終わってしまう可能性も」と語った。

ーーでは、同社の“野望”とは、どんなものだったのか?

もともと1990年代まで日本の航空業界は大手独占市場だった。当時はJAL、ANA、JASだけの競争だったため、運賃は高止まり。飛行機を利用した旅は、高額消費のひとつだった。そんな時代に終止符が打たれると期待されたのが航空自由化だ。新規参入が可能となり、1990年代後半には、大手より低額で空の旅を提供すべくスカイネット・アジア航空、スターフライヤー、エア・ドゥ、そしてスカイマークが登場した。

それに対して、迎え撃つ大手は新興4社と競合する路線にのみ同レベルまで割引した運賃を設定。結果、2000年代に入ってエア・ドゥとスカイネット・アジア航空の経営が破綻。両社ともANAの協力を得て経営再建に着手し、スターフライヤーもANAと提携することで生き残る道を選んだ。秋本氏は「低価格は大手より“少し安い”程度に戻ってしまった」と指摘する。

唯一、スカイマークだけは大手の傘下に入らず、真っ向から対抗する姿勢を貫いた。現在のLCC同様、航空機材を小型機のボーイング737-800だけに統一してオペレーションコストを下げ、低価格を実現。その後、LCCの参入で価格競争が激化すると、“選ばれるエアライン”を目指してクオリティ競争に舵を切った。新たに導入したエアバスA330-300のキャビンを全席プレミアムエコノミーシートで設計し、高品質な座席を大手と同料金で提供するという戦略に出たのだ。

A380の導入も、スカイマークにとってはそうした戦略の延長線上にあったと言っていい。同社は2014年末にも、A380で成田からニューヨークへの路線を開設する予定だった。ニューヨークだけでなく、当初の計画ではロンドンやパリなど、いわゆる“ドル箱”路線への進出を視野に入れていたようだ。

A380は総2階建てで、1階と2階のキャビンを全席エコノミークラスでレイアウトすると800席以上を設置できる。いくらドル箱路線とはいえ、それだけの利用客を本当に獲得できるのか?その疑問に、同社はとても興味深いビジョンで回答してきた。A380にエコノミー席は置かず、全席をビジネスクラスかプレミアムエコノミーで構成するというのである。アジアなどへの近距離路線を中心に国際線のエコノミークラスは価格低下が進み、この市場に新たに進出してもあまり利益は望めない。それに対して、欧米への上級クラスの価格が高止まりしている点に同社は注目した。

「ヨーロッパまでエコノミークラスで往復すると正規運賃は10万円程度ですが──」と同社の西久保慎一社長は秋本氏のインタビューに答えたという。「それがビジネスクラスだと80万〜90万円に跳ね上がります。ところが、ビジネスのシートは占有面積にしてエコノミーの2.2〜2.5倍。エコノミーが10万円だったら、22万〜25万円で採算が合うはずなんですよ」

秋本氏は、ニューヨーク線でのこの価格が実現すれば「ビジネスクラスの旅客は確実に取り込めるし、エコノミー利用者にとってもちょっと頑張れば乗れるので、夢を与えたはず」と語る。関係者の話によると、機内食の提供やマイレージなど、国際線進出に向けた新たな一手も準備が進められていたようだ。「(日本の国際路線に)革命を起こすまであと一歩だった」と秋本氏は話す。

▼日本の空を変える存在であり続けるための独立性

 経営基盤を再生し、新たなチャレンジを

ここで、スカイマークのHPに掲載されている西久保社長の経営理念を引用したい。

「遥かなる未来に届く事業を創る」

 どんな未来がやって来るのか深く考えてください。

 自分たちの仕事が未来に通用するかを想像しましょう。

 そこで存在できるものこそが今すべき事業です。

 過去をなぞっても新しいものは生まれません。

 未来に届けられる会社を創りましょう。

代表取締役 西久保 愼一

 

IMG_6201今回のA380購入計画は、西久保氏の「過去をなぞっても新しいものは生まれません」というベンチャースピリッツから生まれたことなのだろう。A380の購入を決めたのは、同社が一番好調だったといえる2011年。LCC参入や円高などの環境変化が激変など、見通しの甘さを指摘されればその通りだ。

しかし、長年、日本の空を眺めてきた秋本氏は「既存の航空界に一石を投じようとしたチャレンジ精神は高く評価すべきだ」と強調する。

大手傘下に入ることを拒否し続けるスカイマーク。一方、羽田空港で同社がもつ国内線32枠に関心が高い航空会社は少なくない。事業縮小などで、経営改善を進めながらも、様々な選択肢もでてくるだろう。「(一旦)縮小しても、再チャレンジを」と語る秋本氏は、スカイマークが再生し、新たな改革を見せてくれることにエールを贈った。

(トラベルボイス編集部:山岡薫)

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。

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