なぜ、割安料金で予約したホテル・航空券のキャンセル料は高いのか?

ホテルコンサルタントの堀口洋明です。

ホテル・旅館向けの価格戦略を考えていく上でちょっと気になるニュースが入ってきました。キャンセル料についての訴訟です。

以下、ニュースの引用です。

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「全日空の割引商品「旅割75」で購入した航空券のキャンセル料は高すぎで無効として、佐賀市の弁護士が全日空を相手取り、キャンセル料の全額8190円の返還を求めて、佐賀地裁に提訴」

需要に応じて販売方法を調整するというレベニュー・マネジメントの考え方を使った価格設定を行うという意味でホテル・旅館業界も同じですので、この裁判の行方は気になるところです。

「旅割75」とは、75日前までの早期に予約することで、正規料金と比べて大幅な割引になる運賃です。例えば8月9日現在で10月25日の羽田→那覇間はなんと1万2900円。この時期の普通運賃が4万6090円ですから、割引率は72%となる計算です。

大幅な割引には条件があります。

  •  75日前までの予約
  •  搭乗日より74日前から取消手数料(キャンセル料)が63%

>>> 詳細はこちら

同様の早期予約型運賃はJALも提供しており、ANAに限ったことではありません。「スーパー先得」は、55日前までの予約なら最大84%割引になりますが、キャンセル料は運賃の約50%となっています。 詳細はこちら

どうしてこのような料金を提供しているかというと、やはり「需要に応じて販売方法を調整する」レベニュー・マネジメントを行っているからです。航空会社は普通運賃から旅割・先得のような大幅割引運賃まで様々な種類を持っていて、この割合を需要に応じて調整しています。需要が低いときは割引型運賃の割合を大きくすることで搭乗率を高め、一便あたりの売り上げを大きくする狙いがあるのです。

※ 時期によって同種類の運賃でも料金が変わりますが、主として運賃種別の割合を調整することで需要に対応しています

※ 旅割のページにも「ご利用いただける座席数には便ごとに限りがあります(期間・路線・便によっては設定のない場合がございます)」の但し書きがあります

複数の料金を用意しているとは言っても、同じ席で同じ時間に同じ出発空港から到着空港まで移動する訳ですから、普通に考えると予算に余裕があるお客様でも安い運賃を選ぶでしょう。

それでは航空会社側の利益を損ねてしまいますので、運賃ごとに条件を変えています。この条件のことをレベニュー・マネジメントでは「フェンス」といいます。航空会社の場合、フェンスは主に予約時期、キャンセル料、変更の可否となっています。

早く予定が決められるけれど料金には敏感なプライベートでの旅行には、キャンセル料が高いことを承知してもらって早期予約型の運賃を。

 

予定が変わりやすく料金よりは変更の融通をつけることを好むことが多い出張利用には、料金が高めなことを承知してもらって普通運賃を。

このようにフェンスを設定することで値崩れを防ぐ訳です。

▼ホテル・旅館の場合、キャンセル料が機能していないことも

条件フェンスなしで格安宿泊料金を提供するケースが

宿泊業の場合は、残念ながら十分にレベニュー・マネジメントが理解されていないこともあって、ホテルや旅館によってはフェンスを設定せずに安い料金を提供していることもあるようです。

フェンスを用いることで早期予約型商品など複数の商品ラインナップを提供することができます。これは消費者に様々な選択肢を提供することですから、消費者にも企業にもプラスであるはずです。

ところが、今回訴訟に至っているのには、どうもキャンセル料に対する認識の違いがあるようなのです。

記事中には「少なくとも搭乗日の60日前までであれば代わりの乗客を容易に確保でき、全日空には損害が生じず、キャンセル料はいらないはずだ」との記載があります。

実は宿泊業界の抱えている大きな問題のひとつに「キャンセル料が機能していない」事が挙げられます。キャンセル料の意義は以下の通りでしょう。

  • 損害防止 : ホテル・旅館や航空会社など在庫の繰り越しができない業態では、キャンセルが生じた場合に商品の再販が事実上不可能となる。安易な予約を防ぐ為にキャンセル料を設定することで、損害の発生を防止できる。

※ ただし「損害」を、「商品提供に必要となる原価(ホテル・旅館の場合は料理の材料費など)」と捉える消費者もいる為、ホテル・旅館からの啓蒙が必要でしょう

  •  事務手数料 : 予約→キャンセルという2つの事務処理を行う必要があり、この手数料としてキャンセル料をとるという考え方がある。

宿泊業界のキャンセル料問題には大きく2つの側面があります。

  •  キャンセル料を徴収できない
  •  徴収時期と割合が実態に即していない

キャンセル料を徴収しやすいのは、圧倒的に「先払い」のケースです。

先払いのお金からキャンセル料を差し引いてお客様に払い戻すので、取り漏れる事がありません。ところが電話予約や、今でも増加傾向であるインターネット予約では「後払い(ホテルに来てから払う)」が多く、キャンセル料の連絡が取れないなど徴収が困難な事が多いのです。

それなら先払いにすればいいのですが、予約システムがカード決済に対応していなかったり、インターネットでのカード決済は手数料が高かったりという課題があります。この課題は徐々に解消してきています。宿泊業界でもカード決済による先払いは徐々に普及していくだろうと予想しています。

キャンセル料の徴収時期と割合は、宿泊約款でそれぞれのホテル・旅館が取り決めることになっています。多少の違いはありますが、多くのホテル・旅館で同じような規定です。

※ 約款とは、多量の契約(宿泊の場合は宿泊予約が該当)を円滑に締結する為に、あらかじめ作成した契約条項を指す。宿泊約款を消費者が了承し予約する事で、予約は「宿泊を提供する契約をホテル・旅館と消費者が結ぶ事」と見なされる

キャンセル料が損害防止の目的から設定されるとすると、「代わりの予約を受注できる時期」を過ぎた場合にキャンセル料が必要になります。

ところが団体が30日前に取り消されても、代わりの団体を獲得する事は非常に困難です。団体は概ね半年〜3ヶ月前には予約が決まっているのです。

個人予約でも、レジャー目的のお客様の予約は早く概ね40〜20日前が予約のピークです。出張のお客様のピークはレジャー目的のお客様より予約が直近で、概ね14日〜当日までがピークとなります。

となると、よく見られる約款で定められた時期にキャンセルが生じても、出張目的のお客様は代わりの予約を獲得できますが、レジャー目的のお客様は代わりを獲得するのが難しいのです。

WS000021※ 上図は予約が入る時期と稼働率(持っている客室数に対して販売できた客室数の割合)の推移を表す「ブッキングカーブ」というグラフ。リゾートホテルでは40日前には予約の約80%が入っていることがわかる。

もともと、このような問題があるホテル・旅館なのですが、最近はこの問題に拍車がかかっています。それは、「インターネット予約サイトを通じた団体予約の増加」が原因です。海外や中小の旅行代理店、イベント関係の方などから、団体に相当する数の予約が入り直前でキャンセルされるというケースが増えているのです。

インターネット予約サイトは個人予約が前提なので、キャンセル料の規則も個人向けのものが掲載されています。つまり、これまでの団体予約に比べてキャンセル料がかかる時期が遅くなります。悪質なケースではキャンセル料の支払いを拒否する例も出ています。

キャンセル料のもう一つの意義である「事務手数料」は、ホテル・旅館の方が見落としがちな問題です。インターネット予約が普及した今、以前より気軽に予約する方が増えているのか、変更・キャンセルの頻度が上がってきているようなのです。

私のクライアントホテルのデータでは、通知された予約のうち最終的に残るのは50~70%程度となっています。それだけ変更・キャンセルが起きているのです。

2014年4月に内閣府より公表されたサービス業の生産性のレポートによると、飲食・宿泊業の生産性の日米比較ではアメリカの50%程度となっています。

キャンセル料の問題ひとつからもこのような低い数値が出てしまう理由の想像がつくでしょう。いずれにしてもキャンセル料は、企業側と消費者側の認識・理解にまだまだ隔たりがあるといってよいようです。

しかしキャンセル料の事例など、産業構造的に経営にマイナスの影響があれば、結局は消費者に不利益を与えてしまうことになってしまいます。キャンセル料についての啓蒙や、ホテル・旅館側のキャンセル料の仕組みの再考が必要な時期に来ているようです。

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堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

ホテルコンサルタント。長崎大学卒業後、国内のリゾートホテル、シティホテル、ファンド系ホテルチェーン本部勤務を経て2007年に株式会社亜欧堂を設立。国内系・外資系、シティホテル・ビジネスホテル・リゾートホテルといったホテルの業態を問わない経験を持ち、「ホテルマネジメントをサポートする」をコンセプトに、国内ホテルを中心にコンサルティングを提供中。著書に「ホテルの売上倍増実践テクニック100(オータパブリケイションズ)」など。

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