不動産空き室物件に泊まる新サービス「とまれる」、同社代表に戦略を聞いてみた

国家戦略特区内で不動産を活用した民泊マッチングサービスを開始する「TOMARERU (とまれる)」。空室物件オーナーと宿泊者をマッチングする新しい仕組みで「日常を旅する」サービスの提供を準備している。国家戦略特区構想に則った旅館業法の規制緩和によって、これまでにない宿泊のカタチが可能になった。

「まったくゼロからの新しい分野。おもしろいビジネスになるはず」と話す、とまれる代表取締役の三口聡之介氏(写真右)が見据えるのは、2000万人、3000万人が期待される訪日外国人市場でのサービス拡大だ。三口代表に、「TOMARERU」のビジネス展開について現状と未来への思いを聞いた。

▼国家戦略特区の「旅館業法の適用除外」施行で法律クリア

グレーゾーンのままでなく「正面突破でビジネス展開」

「とまれる」の発想の原点は、日本の人口減少にともなって増えると予想される空き家を、今後増加が見込まれる訪日外国人向けの宿泊施設として活用できないかというもの。日本の人口は2050年には9700万人に減少し、現在(2013年)の空き家戸数約820万戸(全体の13.5%)も拡大していくと予想されている。

一方、国は訪日外国人数を2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに2000万人に。さらに、その先には3000万人に増やしていく政策を推進しているが、そのためには既存のホテルや旅館だけでは受け入れ体制が整わないのも事実だ。

そのような状況のもと、とまれる株式会社は株式会社百戦錬磨の100%子会社として2013年8月に設立。国が進める国家戦略特区構想のアイデア公募に空室物件と宿泊者をマッチングする仕組みを提案した。そして、国の成長戦略である観光立国化と不動産価値の向上に資することから、昨年12月に法案が成立し、今年4月から新しい「特区法13条」での旅館業法の適用除外が施行されることになった。

三口氏は「グレーゾーンのままではなく、法律をクリアし、正面突破で事業を立ち上げた」と競合他社との違いを強調する。



▼大阪市の条例案否決でサービス提供が延期に

2015年春に、東京でビジネス開始を見込む 

ところが、事はそう簡単に進まない。サービス開始を2014年秋ごろと見込んでいたが、対象エリアのひとつ関西圏のうち大阪市で「国家戦略特別区域法」の旅館業法の適用除外する条例案が否決されてしまった。条例案は、増加する外国人観光客の宿泊場所を確保するため、ホテル代わりにマンションやアパートの空き部屋に宿泊できるようにするという同社事業に直結するもの。国家戦略と同調する内容で可決の公算が高かったにもかかわらず逆転されたことで、開始が遅れることになってしまった。法律で決まったにも関わらず「安全面を不安視する声はまだ大きい」(三口氏)。

実際のところ、自治体で議論されるべき項目は、安全面ではなく宿泊期間。新しい法律では、7日〜10日以上と定められているが、その期間は各自治体の議論において条例で定めることができることになっている。三口氏は「自治体レベルで、そもそも論に戻ってしまった」と残念な様子だ。

その他の対象エリアは、東京都9区(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区、渋谷区)、成田市、神奈川県、京都府、兵庫県。「早ければ、今年12月の議会でゴーサインが出てくるところもあるだろう。東京は来年春ぐらいになるのではないか」と予想する。


▼エイブルと提携、予想を超えるスピードで物件確保

「計画以上の在庫を取れている」

TOMARERUトップページ

サービス開始は当初計画から遅れているものの、準備は着々と進んでいる。今年5月には、エイブルと業務提携した。「自社で集めると時間がかかりすぎる。スピード感が大事」と三口氏。

関西圏では、すでに約8000軒の物件オーナーから、とまれるサービスについて賛同を得て、仮申込みを受けているという。首都圏については、まだ走り始めたところだが、1万軒の物件確保を目指す。スタート時点で1000軒、数カ月後には3,000軒を確保し、競合他社を抜くという目標を立てていたが、「計画以上の在庫を取れている」(三口氏)現状だ。

また、想定されるトラブルに対する対応策も練り上げている。三口氏は「新しい民泊というビジネス自体がダメだという流れはつくりたくない」と話し、「法的な枠組みだけでなく、民泊事業の自主規制的なルールづくりも必要になってくるのではないか」との見解も示す。安全面やクオリティーについては、基本的にホストである物件オーナーの領域だが、とまれるではトラブル対応の窓口としてコールセンターも設置する予定だ。



▼ホテルや旅館との「共存」も可能

空室物件を”別館”として需給バランス調整も


IMG_7052民泊に対する法的根拠が整ったことで、個人の空室を仲介するビジネスにはグレーゾーンがなくなり、「白」か「黒」かの構図になってきた。とまれるとしては「法律を順守してサービスを展開している」との立場を明確にする。そのうえで、ホストに対しても現行法の認知度を上げていく取り組みにも力を入れていきたい考えだ。

一方で、既存の宿泊施設であるホテルや旅館に対しても、法律に則ったサービスであることを訴えていく。同時に、三口氏は「我々のサービスは、ホテルや旅館にとってもビジネスチャンスになりうる」と話す。

装置ビジネスであるホテルや旅館の条件は限定的だ。オリンピックなど一時的な大規模イベントに向けて、新たな設備投資をするにはリスクが高い。そこで、「ある一定期間だけ、ホテルや旅館が空室物件を借り上げれば、それを別館のよう使うこともできるのではないか」とのアイデアを披露する。

「とまれる」として、ホテルや旅館と話し合いを進めているが、まだ理解は得られていないという。しかし、三口氏は「自治体の条例ができれば、理解度は深まってくと思う」と話し、競合ではなく「共存できる」と強調する。


▼派生ビジネスも模索、「おもしろいビジネスになる」

民泊版メタサーチやスマホ活用の鍵屋など

「とまれる」では、空室物件マッチングビジネスから派生するビジネスも視野に入れている。そのひとつが鍵の受け渡し。パスワードを使って解除できるシステムがまず考えられるが、三口氏は「それが正解だとは思っていない」と語る。欧米では民家シェアリングの際に鍵の受け渡しがすでにビジネスになっているが、三口氏が考えるのは全く別のもの。

たとえば、遠隔地にいるオーナーが宿泊者のためにスマホで鍵を解錠できるサービス、あるいは期間限定で宿泊者がスマホを利用して解錠する仕組みなどをセットにして提供することも考えている。加えて、家具のレンタルサービス、部屋の清掃サービスなどアイデアは広がる。

また、この事業への参入が増え、市場が拡大していけば、既存のメタサーチ的な比較サイトの需要も出てくるだろう。さらに、宿泊施設が客室の稼働をコントロールするサイトコントローラーの民泊版を用意すれば、オーナーサイドの管理はさらに便利になるだろうという。

「我々がやるのは新しい分野。今あるホテルや旅館の部屋をやりくりするのではなく、まったくゼロのものを取る。軌道に乗れば、おもしろいビジネスになる」と三口氏。すでに在庫数は競合他社よりも多い。サービスを開始した時点で一気にマーケットを抑え、「2020年までに、訪日外国人旅行者にとまれるサービスが認知されるようにしていきたい」。

日本で全く新しい宿泊スタイルが浸透していくのかーー。今後のビジネス展開に注目したい。

参考記事>>>

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫

記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

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