観光庁の予算と人事のタイミングはこうなっている ― 新事業のネタ仕込みは2年前から【コラム】

東洋大学国際地域学部・准教授の矢ヶ崎です。
前回のコラムでは、「観光庁」の成り立ちと組織編成をみてきました。今回は、観光庁の仕事のサイクルと人事の仕組みについて解説します。

役所は、年度のサイクルに加えて、議会のスケジュールに沿って動いています。国の役所は国会のスケジュールが最重要です。このことが、民間から見ると役所の仕事のサイクルを少しわかり難くしているようです。

前回のコラム>>>

 

事業の開始は本予算執行から ―概算要求提出が最優先事項

まず、その年度に実施する事業は、国会が国家予算を決定していれば、4月に開始し翌年3月に終了します。予算を決める国会が長引いた場合には、事業実施のタイミングが遅くなることもあります。会計年度終了から次年度予算の執行までの間に空白期間が生じないように臨時の予算を組むこともありますが、本予算の執行をもって大概の事業の開始です。

新年度早々には、翌年度に実施する事業の大枠を決めてしまいます。そして、その事業を実施するための予算折衝の準備に入ります。8月中に、観光庁内で来年度の事業の大枠と希望する予算を策定して、国交省全体と調整した上で財務省に提出します。全省庁が8月末までに予算の概算要求を提出します。国家公務員が夏休みを十分にとることができないのは、これが理由なのです。

財務省は各省庁からの概算要求を厳しく精査し、来年1月に政府の予算案として国会に提出できるように準備します。政府予算案が固まるまで、各省庁は職位の各レベルごとに財務省の担当主査・主計官に説明を重ね、重ね、重ねていくわけです。この説明は業務の中でも最優先事項に相当し、24時間いつでも呼ばれれば財務省に飛んでいきます。飛んでいきますが、先に呼び出されていた国交省の他部局が待っているので、たいてい廊下で順番待ちです。

国交省の場合、各局ごとに企画官と呼ばれる立場の人がいて、この人を中心に予算業務が進んでいきます。企画官は課長直前のポストで、各課の課長補佐を束ねています。まずは課長補佐級で折衝を進め、その後、課長、それ以上の幹部と折衝レベルが上がっていきます。なお、国交省では、一つの課に数名いる課長補佐の中で一番上位のキャリアのことを総括補佐と言うことがあります。総括補佐は、課の運営の要です。


新事業提案の仕込みは "前々年度" がおすすめ

人事異動時期をざっくりと把握すると、通常は4月と7月です。

4月の異動は、国家公務員一般職(プロパー職員)や外部に出向していた職員達が戻ってきたり、新しい職員が出向に出たりというタイミングです。

7月は主に国家公務員総合職(キャリア)の異動時期です。が、7月と決まっているわけではありません。通常国会が通常通りに6月中に閉会したら、その後にキャリアの異動が行われるということです。今年のように会期延長の場合には、各省庁がいつキャリアの異動を実施するか知恵を絞らなければなりません。

予算と人事についてはこのような動きをしますので、民間の皆さんは、何か新しい事業を役所に提案しようとしたら、事業実施年度の前々年度のうちにネタを仕込んでおくことをお勧めします。担当の課長補佐が4月に異動するかもしれませんし、担当課長は次年度の事業と予算の大枠を作って7月に異動するかもしれません。ちなみに、キャリア職員は1年〜2年のサイクルで異動します。


予算配分は財務省の方針が前提 ―重視される「国内観光振興」

上記は通常の本予算で実施する事業のことです。予算が必要ない事業実施はいつでもご提案できますし、実施も可能です。なお、本予算以外に補正予算というのがあります。これは、当初予算を補う形で組まれる予算のことです。予備費で対応しきれないような社会経済情勢の変化や財政需要が発生した時に組まれます。この補正予算は本予算とは性格が異なります。

予算は当初見積もりとの乖離を嫌いますので、原則使い切らなければなりませんが、補正予算の場合には特に残すことはご法度です。このため、やる気のある主体に金をつけていくというバラマキ系になる嫌いがあります。

また、観光分野における本予算に関しては、インバウンド振興は国策、国内観光振興は自治体と民間企業の役割、海外旅行振興は旅行会社が頑張ればよい、といった財務省の確固たる方針があります。最近では、政権が地方創生を重要視しているために国内観光振興にも予算がつきやすくなっているようですし、補正予算でも国内観光振興にも予算がつくことが多いです。


観光庁の特徴は「バリエーション豊富な人材」にあり

なお、観光庁の大きな特徴の一つに、民間企業や自治体からの出向者が多いことがあります。職員を出している民間企業は多岐にわたっており、交通事業者、宿泊事業者、シンクタンク、金融会社、外食産業、化粧品メーカー等に加えて、弁護士さんもいます。身分を国家公務員に移して仕事をする官民交流という仕組みが人事院にあり、これを使って観光庁で仕事をする人も多数います。私も、観光庁へは官民交流の制度で行きました。それまで勤めていた会社をいったん退職し、身分を国家公務員とした上で課長職を勤めていました。

自治体からは出向の形でやってきます。100数十名の観光庁職員のうち、1/3はキャリア、1/3はプロパー職員、1/3は民間や自治体からの人々といった割合でしょうか。昨今では民間企業や自治体からの人々が増えているようですが、彼らは派遣元が優秀な人材を送ってきますし、2年間はしっかり観光庁にいる人たちですので、文字通りの「戦力」です。


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