民泊大手「Airbnb」の日本トップに聞いてきた -民泊の理解は日本で進んでいるのか?

Airbnb Japan代表 田邉泰之氏

昨年末から議論と論点の整理を進めてきた厚労省と観光庁の「民泊サービスのあり方に関する検討会」。3月末には、ホームシェアリングとマンションの又貸しを別の論点で進めるなどの中間取りまとめがなされ、今年6月には報告書のまとめられる予定だ。

渦中のAirbnbは、3月に行われた内閣府規制改革会議の場で新たな施策を発表するなど民泊ルールの策定に先駆けて、独自で安心安全に取り組む姿勢を見せている。「民泊にはさまざまな形がある」と強調するのはAirbnb Japan代表取締役の田邉泰之氏(写真)。田邉氏に、現状認識を聞いてみた。


「ホームシェアリング」という民泊

「民泊」を一括りにして始まった議論も、ここにきて「家主居住の民泊については、ホームステイ型として規制を緩和する」方向性にまとまりつつある。

Airbnbは、民泊を個人が臨時的かつ非事業的に自宅の一部をゲストとシェアするホームシェアリングと位置づけ、投資性と事業性の高いバケーションレンタルとは性質が異なると主張している。田邊氏は「在宅ホストはグローバルで80%を超えている。新規のホストも自宅貸しが多い」と話し、「日本でも、パリやロンドンなどのように物件数がもっと増えていくと、80%ほどが自宅貸しになっていくのではないか」と見通す。

しかし、「最初に動くのは投資目的の人たちだとは感じている」という実態も把握。Airbnbの理想とは違う次元でマーケットが動いている側面がある現状も認識している。

先行する国では、ホームシェアリングの枠組みで「住居」利用からの変更を伴わない不動産の付随的利用として認めている場合も多い。

たとえば、フランスでは、第2の自宅や自宅以外の不動産物件での民泊は許可制だが、自宅(1年のうち8ヶ月以上居住)では承認や許可なしでもゲストと住居をシェアできるようになった。また、ロンドンでは、自宅および自宅以外でも許可なしで年間90日の短期賃貸できるように規制が緩和された。

「民泊にはいろいろな貸し方がある。それぞれにあった、分かりやすく、守りやすい現実的なルールが必要だろう」と田邊氏。家主居住のホームシェアリングでも、一戸建てと集合住宅とでは状況は変わってくる。また、別荘など第2の自宅の扱いをどうするか。Airbnbが主張するホームシェアリングの枠組みの中でもまだ交通整理が必要な状況だ。


Airbnb的「体験」と「共存」

Airbnb Japan代表 田邉泰之氏

そのホームシェアリングで、Airbnbが強調するのが「体験」というキーワード。ホテルライフと言われるように既存の宿泊施設での宿泊も旅の体験のひとつだが、Airbnbの言う体験とはホストとの関係あるいは地域との関係を含めた「暮らすような旅」のこと。田邊氏は「Airbnbなら、もっとディープな日本を体験できる」と胸を張る。

Airbnbの調査によると、日本のAirbnbを利用した外国人旅行者のうち79%が日本を再訪したいと応えたという。また、「世界的な傾向として、Airbnbのゲストは、従来の宿泊施設の滞在者よりも長期間滞在し、したがって現地消費額も大きくなる」と地域経済の拡大にも自信を示し、これも「体験」的要素が大きく影響しているとする。

ホスト、ゲスト、そして地域との関係で田邉氏は「共存」という言葉を口にする。そのためにAirbnbでは、規制改革会議で発表した通り、グローバルな取り組みとして、新たに近隣住民の苦情を受け付ける窓口を設けることにした。

また、安心安全への取り組みとして、警察との連携で日本語対応窓口をつくるほか、災害や感染症の情報共有の仕組みも構築していく。

Airbnb Japanは、共存のトライアルとして、北海道の十勝エリアで既存ホテルとのコラボレーションを行ったという。カフェが併設されたラウンジを現地のホストとゲストに開放し、Airbnbのコミュニティーに参加していない人も集まったという。「いろいろな情報交換ができるし、たとえば、犬ゾリの体験など新たな体験機会を知る場にもなりえた。こうした取り組みは、いろいろな化学反応が起きるのではないか」と田邊氏。こうした場の提供も「共存」の延長線上にあるものだとし、「Airbnbは日本で独自の進化を遂げるかもしれない」と今後に期待を寄せる。


Airbnbは既存の宿泊施設の敵?

議論の中でいつもクローズアップされるのが「既存の宿泊施設 vs 民泊」という対立の構図だが、「いろいろな国でAirbnbは増えているが、それでホテルの稼働率が下がったという話は聞いたことがない」と田邊氏は話す。ホームシェアリングは、既存の宿泊施設に敵対する存在なのだろうか。

「体験」を売りにしているAirbnbでは、たとえば、サメ35頭に囲まれて泊まる水中部屋、ゴッホの寝室、ヨーロッパのシャトーなどユニークな物件を提供している。旅館でも、特別な体験が可能な部屋を、その旅館の女将がホストとなって、リストに載せているケースもあるという。

Airbnbに集まるゲストが、そうしたユニークな体験を求めていることを前提にすれば、本当に尖った物件でないと生き残れない。体験要素の低いマンションの一室などでは、魅力的な価格であっても稼働率が上がらず、自然淘汰されていく流れも考えられる。いわゆるAirbnbファンが集まるプラットフォームとして収斂していく可能性もある。

田邊氏は、地域コミュニティーとの共存だけでなく、既存の宿泊施設との共存にも期待をかける。「既存の宿泊施設とも何か一緒にできるのではないか。たとえば、一泊は旅館、その後はAirbnbなどということも可能だろう。地域の事業会社や旅館など一緒に旅のトータルソリューションを提供できればいいと思っている」。性質の異なる宿泊体験が組み合わされれば、旅行者にとって新しい旅の価値が生まれるかもしれない。

Airbnbでは、さまざまなパートナーとの協業も検討しているという。田邊氏は「企業や地方自治体と話すと、いろいろなアイデアが出てくる。プラットフォームの使い方はいろいろとある。日本は旅のコンテンツが豊富。インバウンドだけでなく日本人ももっとディープに日本を知ることができる機会をつくっていきたい」と意気込む。


不明瞭なマーケットプレイスとしての位置づけ

IMG_2776民泊議論のなかで、なかなか議論がかみ合わないポイントがある。Airbnbのプラットフォームとしての位置づけだ。「仲介業者ではない」というのがAirbnbの一貫した主張。田邉氏は「我々は、自社のプラットフォームで物件を運用しているところとは違う。場を提供するマーケットプレイス」と改めて強調した。

つまり、「不動産業のように掲載されている物件の管理、媒介、売買、リフォームを行わず、あるいは旅行代理業のように旅の予約管理なども行わない。ホームシェアリングは、あくまでも部屋を貸し出したいホスト、借りたいゲストのコミュニティーが主導となって行われるP2P (Peer to Peer)のビジネスで、Airbnbは個人同士の需要と供給をつなぐ存在」というロジックだ。

マーケットプレイス、いわゆる市場は、ECでの楽天やアマゾンの立場。シェアリングエコノミーであるC2Cのビジネスモデルに立つと、ネットオークションの市場に近い。物件をコントロールしない個人同士をつなぐマーケットプレイスとするならば、理論上どのような物件でもリストされることが可能になる。しかし、この点では「Airbnbのプラットフォームに似たような部屋が並ぶことは好ましくない。体験を提供しているので、その場合は提供者にお話をさせていただくかもしれない」と田邉氏は語る。

検討会のなかでも、こうしたAirbnbの主張に対して構成員からは「介在している以上、仲介ではないと言えないのではないか」との意見も多い。民泊におけるマーケットプレイスの明確な位置づけと管理者としての責任については、まだ議論が煮詰まっていない。Airbnbは、ホームシェアリングのプラットフォームへの規制については、他のインターネット上のプラットフォームと同様の取扱いを求めている。


Airbnbはシェアリングエコノミーの試金石

同じ「宿泊」であっても、ホテルや旅館とは性質が異なり、Airbnbのサービスはどちらかというとアクティビティーに近いところもある。一連の議論のなかでは、旅館業法のもとイコールフッティングを求める声も多いが、宿泊の性質の違いやビジネスモデルの違いを考えると、それが適当かどうかの疑問も残る。

また、旅館業法がイコールフッティングのもとでそのまま適用されると、宿泊者の引受義務が生じてしまい、相互レビューでホストがゲストを拒めるというシェアリングエコノミーの根幹が瓦解する。Airbnbのビジネスだけでなく、シェアリングエコノミーの健全な広がりの面でも影響が出てくるかもしれない。

「個人的にも、C2Cという仕組みのシェアリングエコノミーが大好き」と田邊氏。自分のやりたいことが世の中の数人にだけでも受け入れられれば、それがビジネスとして成立するおもしろさがあるという。日本ではAirbnbをはじめとするシェアリングエコノミーのサービスはまだ少なく、ルールも明確になっていない。「ルールができて、いろいろな企業が参入して、健全な競争のなかで市場がつくられるのだろう」。いずにせよ、「議論はいい方向で進んでいると思う。今年は重要な年になる」という認識だ。

過去の田邉氏へのインタビュー記事はこちら(2014年)>>

Airbnb(エアビーアンドビー)が欧米で人気の理由、日本で本格始動する田邊代表にビジネス展開を聞いた

聞き手 トラベルボイス編集部 山岡薫
記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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