日本の観光が抱える4つの最優先課題とは? 「責任」果たす観光産業を議論した観光フォーラム基調講演を聞いてきた

インバウンド旅行者の拡大基調が定着する中、日本の観光産業も真剣に「責任」と向き合うタイミングが来ている。ツーリズムEXPOジャパンで開催されたグローバル観光フォーラムでは、国連世界観光機関(UNWTO)のタレブ・リファイ事務局長が日本の観光従事者を前に「(観光の)成長とともに責任が生まれる」と明言。日本の観光関係者に社会的責任と持続可能な環境整備を訴えた。

フォーラムでは、世界の観光リーダーたちが観光への取り組み姿勢のあり方を議論。ここでは、その基調講演として語られた世界のリーダー2名の話をまとめた。日本の観光が抱える4つの最優先課題も必読だ。

国連世界観光機関(UNWTO)事務局長 ―誰もが旅行を楽しめる環境を

リファイ氏は、世界全体での海外旅行人口が12億人となるなど、観光産業が持つようになった巨大な影響力を認識することを提言。世界をよりよい方向へと動かす義務を自覚すること、またこれを実現するためには、持続可能な観光産業を目指す必要があるとする。

国連による「持続可能(サステナビリティ)」の定義では、「持続可能な社会、持続可能な経済、持続可能な環境」と3つの観点から、地球および人々に対する責任を求めているという。リファイ事務局長は「デスティネーションの環境保全をまず連想するかもしれないが、環境面だけでは不十分。人々がアクセス可能な場所であり(アクセシビリティ)、雇用があり、貧困から人々を救済する仕組みがあり、経済のトリクルダウン効果をもたらす―こうした経済、社会的な面での持続可能性が揃った形での環境保全を追求すること」と解説した。

一方、サステナビリティを脅かす難題が複数あるのが世界の現状。リファイ事務局長はその一つとしてアクセシビリティの問題を取り上げた。

「世界中の美しい場所を楽しむという誰もが持っているはずの権利を奪われたままの人たちがいる」と指摘。現在、世界人口の約15%、10億人の人々が、体に障がいを抱えているほか、高齢化社会の進行で、世界人口に占める60歳以上の割合は、2000年の11%から、2050年には倍増の22%に達すると予測。誰もが楽しめる(アクセシブルな)旅行を実現することは、旅行者本人だけでなく、観光産業のビジネスモデルとしても理に叶った取り組みであり、大至急、取り組むべきだと話した。

国連世界観光機関(UNWTO)タレブ・リファイ氏

UNWTO、伊勢志摩のバリアフリー整備を評価

リファイ事務局長は、アクセシビリティに取り組んだ模範的な事例として、今夏、G7サミットの舞台となった伊勢志摩で、バリアフリー化などの整備が進んだことを紹介。UNWTOでは、この取り組みを「Good Practices in the Accessible Tourism Supply Chain(アクセシブル・ツーリズムのサプライチェーンに取り組んだ模範的な事例)」として取り上げたという。

またアクセシブル・ツーリズムに取り組む際、心がけるべきポイントを提案。まずサービス提供者やデスティネーション側が、特定のアクセス補助が必要な旅行者に「これまでとは違う旅行を楽しんでもらおうと強く決意すること」(同事務局長)、さらに施設の建築やサービス立案の第一段階から、何が必要か、という視点を常に持つこと、VRなどテクノロジーを積極的に活用すること、旅行の一部ではなく出発から到着まで、すべての場面で車いす対応などのアクセス補助を実現すること、と訴えた。

2017年は、国連が「International Year of Sustainable Tourism for Development(持続可能な観光による発展の国際年)」に定めるなど、国際社会もかつてないほど観光産業の果たす役割に注目していると指摘。こうした機会に、観光に従事する一人ひとりが野心的になり、自分の業界のことだけに専念するのではなく、観光産業がこれからの社会を動かすとの気概を持つよう、会場の参加者に呼びかけた。

世界ツーリズム協議会(WTTC)理事長、テロ事件や気候変動のリスクに世界規模で対応を

続いて基調講演を行った世界ツーリズム協議会(WTTC)のデイビッド・スコースィル理事長は、世界の旅行・観光産業が長期的に成長するための課題として「持続可能(サステナブル)な産業であること」、頻発するテロ事件を念頭に置いた「セキュリティ対策」、日本の新幹線を成功例に挙げつつ「長期的なインフラ投資」の3つを挙げた。

「サステナビリティ」では、「2035年の世界の海外旅行人口は、現在の倍の20億人と推計している。国内旅行者も加えると、旅行人口規模は数十億人。当然、経済・社会的なインパクトや、環境に及ぼす影響も甚大。負の影響を最小化し、観光が引き続き、長期的に発展できるよう、対策を講じる必要がある」と話す。

昨年、国連が採択した「持続可能な発展のゴール(Sustainable Development Goals)」や、昨年12月、COP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で合意された「パリ協定」などを紹介しながら、サステナビリティが今やグローバルな課題と指摘。世界のGDPの10%を占める旅行・産業界も率先して取り組むべき問題であり、対応を誤れば死活問題になると訴えた。

一方、世界各地で脅威となっているテロ事件は、旅行・観光産業がこれまで継続的に訴えてきた「旅行の自由」実現にも暗雲をもたらしていると指摘。過剰に反応し、査証の規制強化などの動きに走る国が出ている状況を憂慮した。

スコースィル理事長は、フランスやトルコへの旅行需要に影響は出ているものの、世界レベルで見ると、今年の世界の観光産業の成長率は3.1%増と、昨年と同じペースを維持し、世界経済の成長率2.3%を上回っているとも指摘する。テロの脅威には、業種や国境を越えた横断的な取り組みが有効で、旅行・観光産業界もこの議論に積極的に関与するべきと話した。

WTTCでは、セキュリティの向上を目指す組織「グローバル旅行協会連合(Global Travel Association Coalition)」を、UNWTO、IATA、ICAO、ACI(Airport Council International)、CLIA(Cruise Lines International Association)、PATA、WEF(World Economic Forum)と共に設立している。

WTTC(世界ツーリズム協議会) ディビッド・スコースィル氏

日本の観光が抱える4つの最優先課題とは?

日本の今後について、WTTCでは今後10年間で旅行・観光産業のGDPが年率1.7%増、雇用機会は同0.6%増。2026年までに、観光産業が日本のGDPに占めるシェアは9%となり、雇用全体の8.4%を創出するとの推計を明らかにした。

スコースィル事務局長は、日本政府が掲げる2020年までに4000万人、2030年までに6000万人の外客誘致目標を歓迎しつつ、長期的にインバウンド市場を拡大し、海外からの投資も呼び込むために、解決すべき課題として以下をあげる。

  • 1. 人的資本の拡充
  • 2. 大都市における宿泊施設の不足
  • 3. 成田、羽田空港の受け入れ規模拡大
  • 4. 外国人旅行者の訪問先を日本全国に分散

人的資本については、受け入れ客数を大幅に増やすためには、これを迎える側も、相応に拡充する必要があり、語学や各種スキルのトレーニングが必要と指摘。また宿泊施設の不足緩和には、歴史ある旅館やAirbnb(エアビー&ビー)といった新旧の資源を適切な法整備を進めつつ活用するべきで、成功すれば、旅行者を地方へ拡散する効果もあると話した。また成田と羽田の両空港での滑走路の増設と、ターミナルの拡張も急務。最後に、外国人旅行者が、大都市を出て地方に足をのばし、日本的な体験を楽しむようになることが、日本の将来にも様々な新しいチャンスをもたらすと期待を示した。

取材・記事 谷山明子

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