誰もが自由に旅を楽しめる社会を目指す「アクセシブル・ツーリズム」、その可能性を国連世界観光機関(UNWTO)職員がわかりやすく解説 【コラム】

こんにちは。国連世界観光機関(以下、UNWTO)アジア太平洋地域部門シニアオフィサーの熊田順一です。

自由に旅を楽しめない方々が世の中には沢山います。誰もが自由に旅を楽しめる社会を目指しUNWTOは「アクセシブル・ツーリズム」を1991年の総会から提唱してきました。

旅をする上で「自由がない」とは、タビマエ(旅行前)・タビナカ(旅行中)・タビアト(旅行後)において、場所・商品サービス・情報にアクセスができないことを指します。タビマエの情報収集や予約の際、タビナカの移動、滞在、観覧や参加の際、タビアトは帰国後の情報発信等のシーンにおいて旅人と観光地やサービス提供者がシームレスに(切れ目なく)繋がっている(アクセスしている)状態がグローバルスタンダードとして求められ始めています。

また2006年12月に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」では「障害者が観光サービスを含む文化的な生活の享受やスポーツ活動に参加できる機会を確保する」ことが取り決められています。

日本も2007年に署名し、2014年2月から同条約が発効しています。ツーリズムにおける障害者の方々の権利については2006年12月に採択された「障害者の権利に関する条約」の第30条第1項と第5項に以下の条文がありますので抜粋して紹介します。

第30条第1項

締約国は、障害者が他の者との平等を基礎として文化的な生活に参加する権利を認めるものとし、次のことを確保するための全ての適当な措置をとる。

(c) 障害者が、文化的な公演又はサービスが行われる場所(例えば、劇場、博物館、映画館、図書館、

観光サービス)を利用する機会を有し、並びに自国の文化的に重要な記念物及び場所を享受する機会をできる限り有すること。

第30条第5項

締約国は、障害者が他の者との平等を基礎としてレクリエーション、余暇及びスポーツの活動に参加することを可能とすることを目的として、次のことのための適当な措置をとる。

(c) 障害者がスポーツ、レクリエーション及び

観光の場所を利用する機会を有することを確保すること。

(e) 障害者がレクリエーション、

観光、余暇及びスポーツの活動の企画に関与する者によるサービスを利用する機会を有することを確保すること。

WHO(国連世界保健機構)によれば、現在、世界人口の15%にあたる10億人の方々が障害を抱えていると報告されています。また世界の高年齢化は2009年の時点においては人口の10%にあたる7.3億人が60歳以上であり、2050年までにはその割合は20%に到達すると推定されています。今後、身体に何らかの故障や慢性的な病気を抱えながら旅をする高齢者は増える傾向にあります。

UNWTOではPersons with disabilities(障害を抱えた人々)を「他の旅行者と一緒に旅行サービスを同等なレベルで受けることが困難な状況にある方々」と定義づけています。長い間において、「身体・精神・知能・知覚上の障害を抱えている方々」はもちろん、「高齢者や小さな子供」、「介護・育児に携わる方々」、「大きな荷物を持って移動をしなければならい旅行者」「訪問地の母国語が判らない旅行者」等の比較的に短い期間の課題を克服してかなければならない方々の状況も含めて、その困難をいかに克服すべきかを考えています。

その困難な状況が発生する背景も多岐にわたっています。階段やスペースといった物理的な事、各国の法律や地域慣習に基づく課題、先入観や偏見による心象的バリア(外国人は根っから苦手)等がそれにあたります。

各地におけるそれぞれの課題をどう解決していくかは、その地域で暮らす方々だけでなく、そこを訪れる方々の両者の視点や感情そして需要を把握し、取り組みを進めることが重要です。そのプロセスの中で、内外に開かれたアクセシブルなコミュニティーの基盤や考え方が創られ、そこに住む困難な状況にある方々の課題も一緒に解決されていくのだと考えます。ツーリズムと普段の生活の関係を補完的な関係と位置付け、地域課題を解決していくチカラがアクセシブル・ツーリズムへの取り組みにはあります。

日々のお仕事や、通勤路の途中、旅先で少しだけ想像を巡らせて頂ければと思います。もし目が見えなかったら検索した情報はどう入手するのでしょうか。観光の際に耳が聞こえなかったらどうなるのでしょうか? あまり歩くことができなかったら、あの展望台からの素敵な景色は観えるのでしょうか? もし介護や育児に携わっていたら家族で一緒に旅行をするにはどうしたら良いのでしょうか? もし言葉が理解できなかったらこの場所に辿りつけるのでしょうか? 小さな子供だったらステージは大人の背中越しにステージは見えるのでしょうか? この資料の文字の大きさは年長の上司とって読み易いでしょうか(笑)?

日本全体で観光に携わる皆さんが、そう考え始めることで、きっと日本のツーリズムは、さらに磨きがかかり、思いやりのある良い方向に動き始めるのだと思います。磨きをかけていくことで日本のツーリズムが今の世界を、より素敵な世界へと変えていけるのだと思います。国際観光に携わり20年以上になりますが日本で観光業に携わる皆さんのお客様への対応は、世界に胸を張って誇れるだけの「優しい気持ち」が常に添えられてお客様に届けられていると感じます。

2020年パラリンピック大会に向け、またその後の誰もが心豊かにいつまでも楽しく暮らせる社会づくりを目指して、その気持ちを形にすべくUNWTOと一緒に考えて頂きたいと思います。

「アクセシブル・ツーリズム」チェックリスト(UNWTO)
熊田 順一(くまだ じゅんいち)

熊田 順一(くまだ じゅんいち)

国連世界観光機関アジア太平洋地域部門シニアオフィサー。明治大学卒業後、株式会社日本交通公社に入社。訪日旅行担当、JTBワールドバーケーションズなどを経て、訪日旅行サイト「JAPANiCAN.com」開設・事業推進を行うなど一貫して訪日インバウンド事業に携わってきた。2014年7月から観光庁・JATAの推薦でUNWTOアジア太平洋部門シニアオフィサーに着任。マドリッド勤務は間もなく3年目。

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