【対談】スカイマーク佐山会長が明かした再生の舞台裏、航空専門家・秋本俊二氏と語った復活への道のりと「第三極」を守る意義

スカイマーク佐山会長(右)と航空ジャーナリスト秋本俊二氏

スカイマーク佐山会長 × 航空ジャーナリスト秋本俊二氏(前編)

2016年3月28日に民事再生手続きを終えたスカイマーク。それから約1年が経過、2017年3月の搭乗率は90%を超え、搭乗者数は16ヶ月連続で前年同月比増、定時出発率と欠航率もトップクラスになるなど、運航品質を向上させるとともに業績も急速に改善させている。

今回、民事再生の立役者スカイマーク代表取締役会長の佐山展生氏と作家で航空ジャーナリストの秋本俊二氏との対談が実現。話は民事再生申立ての舞台裏から成長に向けた未来図にまで及んだ。

「マラソンで言うとまだ10km地点」と言う佐山氏。「第三極の航空会社は絶対に必要」と話す秋本氏。二人が語るスカイマークとは――?

第三極の航空会社を守る意義を感じて再生支援

対談の模様。右がスカイマーク佐山展生会長

秋本俊二氏(以下、敬称略) 佐山さんは投資ファンドのインテグラルでこれまでいろいろな業種を見てきたと思いますが、その経験から航空業界は特別なものでしたか?

佐山展生氏(以下、敬称略) 業種によって同じものと違う部分がありますね。経営という観点から言うと、従業員が楽しく一生懸命働いているかどうかが大切。それは業種に関係ない。航空業界は多くのお客様に毎日利用していただているので安全が一番です。国土交通省といろいろなやり取りをしていかなければならない点も他業種とは違いますね。

秋本 航空に興味を持っていたというよりも、企業再生に熱意を持っていたということですか。

佐山 そうですね。インテグラルという投資会社は業種を絞っていません。みんなといい会社をつくって、収益を上げていく仕組みづくりが仕事です。我々がスカイマークを支援しなければ、実質大手2社だけになってしまう。第三極の航空会社を守ることに意義は感じていました。

また、破産すれば、2000人ほどの従業員が仕事を失うことも頭に浮かびましたね。これは全力で支援をしなければいけないと。

秋本 スカイマークの再生で、まず話題に上がったのがJALあるいはANAとの提携でしたね。

佐山 2014年12月9日にスカイマークの西久保さん(当時社長)と有森さん(当時常務取締役)に「どこかの航空会社となにかしらの提携があれば、投資します」と言いました。その後、スカイマークはANAとの交渉に入ります。

私は、両社は提携するのだろうと思っていたのですが、2015年1月13日に、井手さん(当時会長)、西久保さん、有森さんがインテグラルに来られて、ANAとの交渉はまとまらなかったとの報告を受けました。それ以来連絡がなかったので、他の投資家を探しているのだろうと思っていたんです。

秋本 それでも支援に動かれた。その決断は早かったですね。

佐山 早いどころか、駆け込みのような感じでした(笑)。

2015年の1月23日ことですが、井手さんに電話をしてみると、「明日から清算の準備に入る」と言うんです。1月末の資金繰りが苦しいのは分かっていたし、そこで資金が入らなければ破産することも分かっていた。

2015年当時を振り返る佐山会長

スカイマークはA330やA380を発注していましたが、井手さんたちと話しているなかで、B737だけだったらビジネスは回ると確信していました。だから、「清算はないですよ。すぐに民事再生の申し立てをしましょう」と言ったのが、その日の夜8時くらい。10時には両社で電話会議をしました。

翌日、羽田のスカイマーク本社にインテグラルから5名、弁護士、会計士が集まり、3日間缶詰状態で経営状態を精査しました。そのときに、24日の夜の時点では、「29日の民事再生には間に合わない」ということでした。

それでも、共益債権と再生債権の仕分けをして、どれくらいの債権を払わなければいけないのか、民事再生をした場合の客離れや退職者数を想定し、申し立て後の収益の予想や何便飛ばせるかをシミュレーションしてみたところ、26日には「90億円の融資があれば乗り切れる」という結論に達しました。

でも、正直なところ、その時点で再生に100%の自信はありませんでしたね。どんなことが起こるか分かりませんから。長年の経験から「いけるだろう」と。

秋本 現在、インテグラルとスカイマークでのお仕事の割合は?

佐山 90%がスカイマークの仕事ですね。頭の中は95%ですが(笑)。

秋本 実際にスカイマークの経営に携わるようになって、航空業界は面白いですか?

佐山 面白いですね。投資ファンドのインテグラルを立ち上げましたが、実際に投資先の経営に関わったことはなかった。

今回はじめて、自らの時間のほとんどを割いて、スカイマークの経営に関わっている。新鮮な体験ですね。2015年9月29日に新体制になって以降に学んだことは、それ以前のキャリアで学んだこと以上。経営に対する理想はありましたが、事業会社の経営に実際に携わったことはなく、お客様商売も初めてだったので深い経験をさせてもらっています。

不安から希望に、社員の表情もいきいきと

秋本 当初、社員たちには相当な不安があったでしょうね。

佐山 民事再生の申し立てを行った後に、地方の空港施設や全支店を回って、社員に説明したのですが、「人間はこんなに不安そうな顔になるんだ…」と思いましたね。

鹿児島空港支店でのことですが、ある社員が「人員削減や給与カットがあるのですか」と質問してきたのです。私はそれまでも「それはしない」と言ってきたのですが、「まだ伝わっていない」と認識しました。

それ以来、「A330とA380を契約解約して、B737に統一すればビジネスは回るので、むしろ辞めてもらっては困る」とまず説明するようにしました。東京では、羽田空港で社員のご家族も呼んで説明会を行いました。

そのとき、勇気づけられたのは、スカイマークの応援歌を手がけてくれた歌手の大黒摩季さんがビデオメッセージをくれて、その歌を歌ってくれたんです。大黒さんもちょうど病気からの再生を頑張っているときでした。それは感動的な光景で、今でも思い出すと、うるっときますね。

秋本 ご家族への説明会はすごく効果があったのではないですか?

佐山 おっしゃるとおりですね。いくら社員が家で「大丈夫」だと言っても、民事再生なんて初めとのことだから、納得できる説明ができるはずがない。直接説明したのは、よかった。皆さんの表情も、説明会のはじめと終わりとでは全然違いました。

また、政策投資銀行から来た市江社長が説明会で社員に向かって、「私は銀行を辞めてきました。骨を埋める気持ちで来ました」と宣言したのも大きかった。それで社員のなかに安心感が生まれたのではないかと思っています。

秋本 私も新生スカイマークを利用したり、取材もさせてもらいましたが、社員の顔つきも変わっていきましたよね。「こんなに生き生きとするんだ」という印象を持ちました。

佐山 やはり心持ちは顔にでますね。誰でも一番見えていないのは自分の顔。自然にしている顔は自分では見えない。最初はその不安な心持が表情に出ていましたが、方向性が見えてきて、結果が出てくると表情が変わってきましたね。

以下は、スカイマークにより2015年3月に公開された動画。音楽は大黒摩季さんが担当。

スカイマーク - TAKE OFF SKYMARK CheerUp ↑ Ver.(Youtube:約6分)

  

前編はここまで。後編では、第三極の航空会社として前進するスカイマークの未来について。国際線への意欲やANAとの関係性が熱く語られた。

後編>>

【対談】スカイマークが描く未来図とは? 佐山会長が語った国際線への意欲からANAとの関係性まで

取材・記事 トラベルボイス編集部 / トラベルジャーナリスト 山田友樹

写真 フォトグラファー 赤崎えいか

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