JALとANAが航空流通とマーケティングを議論、航空券予約の近未来と注目の市場トレンドとは? ―WIT Japan 2017

このほど開催されたオンライン旅行の国際カンファレンス「WIT Japan 2017」。そこで注目されたセッションのひとつに、「航空配分とマーケティング:機会/Airline Distribution & Marketing: The Opportunities」があった。登壇者は、日々、ライバルとしてしのぎを削るJALとANA、さらに世界の航空券比較メタサーチの日本トップが登壇。WIT創始者Yeoh Siew Hoon氏のモデレ―ションにより航空業界のキーパーソンとなる3名が繰り広げた日本市場の航空券流通・販売のトレンド、将来有望なビジネスなどについて議論をまとめた。

モバイル利用が浸透するも、決済サービスは別

スカイスキャナージャパンの絹田義也CEO

まず、航空券流通で目立つ最近のトレンドについて、スカイスキャナージャパンCEOの絹田義也氏は個人旅行(FIT)の増加に加え、特に日本で顕著な事象として「モバイル利用の増加」と指摘した。スカイスキャナー利用者がモバイルを利用するセッション比率は、全世界平均が61%であるのに対し、日本市場は70%。モバイルでの購買が急速に定着しつつあると見ている。

モバイル利用の拡大は、航空2社も実感している。JALの場合、特にレジャー市場で目立ち、モバイル経由の予約は前年比で倍増の勢い。モバイル対PCサイトの予約比率は、すでにモバイルが半分以上を占めている。JALのWeb販売部海外Webグループ長・藤田亘宏氏は、「個人向けにパーソナライズすることが可能なデバイスで、ワン・トゥー・ワン・マーケティングに適している」とモバイルの役割に期待する。

ANAのモバイル比率は明らかにならなかったが、自社直販ウェブサイトの比率は、国内線では半分以上。国際線ではまだ3割以下という。

JAL Web販売部海外Webグループ長の藤田亘宏氏

しかし、日本のユーザーの予約・購買行動を見ると、変化のスピードが緩やかな部分もある。例えば、日本と中国のモバイル利用者と比較した場合、最大の違いは、決済にもモバイルを利用するかどうか。「日本では、決済にはクレジットカードや銀行、デポジット、コンビニエンスストアなどが長い間、利用されており、今も根強く支持されている。対する中国は、(メッセンジャー・サービスを利用した)モバイル決済の時代へと一気に移行した」(絹田氏)。

中国のWeChatなどに相当する日本の人気メッセンジャー・サービスといえばLINE。だが、その利用方法は「圧倒的にコミュニケーション・ツール。販売よりプロモーション。カスタマーサービスにも、少なくとも私の部署では利用していない」(ANAマーケティング室インバウンド・ツーリズム推進チームリーダー石井伯彦氏)、「スタンプを楽しむなど、販売支援のプロモーション」(JAL藤原氏)というのが現状だ。

航空2社はメタサーチとアンシラリーに注目

ANAマーケティング室インバウンド・ツーリズム推進チームリーダー石井伯彦氏

すっかり定着した観のあるオンライン旅行販売だが、ユーザー側から見ると、まだ課題は多いようだ。スカイスキャナーが昨年、ダイヤモンド・ビッグ社と共同で「地球の歩き方」ウェブサイト上で実施した調査によると、回答者の80%が「インターネットでの買い物は非常に便利」と答える一方で、「便利だが、情報を探すのに手間がかかる」(50%)とも指摘。さらに「予約した商品が自分にとってベストだと自信がある」と回答した人は25%にとどまった。

つまり多くのユーザーは、”実はもっとよいディールがあったのに、見つけられなかったのでは?”という気持ちに揺れている。

一方、航空会社側から見て、ベストな流通チャネルは何か?

JAL藤原氏もANA石井氏も、「常に新しい流通パートナーを探している」と前置きしつつ、今、最も注目している流通チャネルとして「メタサーチ(旅行比較サイト)」を挙げた。藤原氏は、「大規模な予算があり、テクノロジーに投資するとしたら何を選ぶか?」との質問にも「メタサーチと直販」を挙げ、もっとも期待しているマーケットについても「メタサーチ」と答えた。

藤原氏は、ダイレクトマーケティングが増えている現状を歓迎しつつも「直販だけで座席を100%売り切るのは不可能だと思っている。メタサーチなのかOTAなのか。販売チャネルを選ぶのは航空会社ではなく買い手側。どんどん変化する潮流に対応するべく、我々は常に新しいパートナーを探している」。

ANA石井氏は「航空会社にとって、流通に関する最大の課題はコスト」と話し、今後の課題についても、「流通コスト」を挙げた。GDSコストが年々増えるなか、「メタサーチは航空会社にとって頼りになるソリューション」(石井氏)。一方、中国市場向けには最近、アリババ系旅行サイト「フリギー(Fliggy)」と提携しており、これも力強いパートナーになっているという。

またANA石井氏は、大規模なテクノロジー投資の事例として、IATA(国際航空運送協会)のNDC(新流通規格)を挙げ、「航空会社がアンシラリー・サービス取扱を強化するのに役立つ新しい流通の形であり、大きな変革につながる」との期待を示した。

昨今、航空会社にとって重要な収入源になりつつあるアンシラリー(運賃以外の各種の付帯有料サービス)は、CarTrawler社の調査によると、世界全体での市場規模が405億ドル。アンシラリー比率が最も高いスピリット・エアラインズでは、旅客収入の43.4%を占めている。フルサービスのネットワーク・キャリアとしてやってきた日系2社は、どう舵を切るのか。

ANAの場合、「アンシラリー収入は、長い間、ANAカード関連が中心だったが、昨年から内容を拡充し始めたところ。まだ比率は非常に小さい」と石井氏。しかし今後については、よりフォーカスしていく考えだ。JALでも「(アンシラリーは)社内で議論を重ねているテの一つ」(藤田氏)。LCCではなく、フルサービス・キャリアという自負もあるが「収益についても考えないと」(同氏)と認める。

音声認識技術の活用は「時期尚早」

航空流通・マーケティングにおけるこれからの課題(チャレンジ)はなにか。

スカイスキャナー絹田氏は、「エンドユーザーとサービス提供者、ネットの両端が直接、スムーズにやり取りする環境が、今はまだ整っていない」と指摘。オンラインでの快適な旅行ショッピングを実現することがチャンレンジであり、使命だと話す。

JAL藤田氏は「ネットの入り口(ファネル)の重要性アップ」を挙げ、その理由として「例えばSNSの果たす役割が急速に拡大している。旅行サービスに関連した新しい機能も続々、登場しており、旅行の予約や決済ソリューションなどでも、SNSを選ぶ時代がくるかもしれない。この辺りが一番、これから大きく変化するチャレンジではないか」と予測している。

逆に、これから最もビジネス・チャンスが期待できる分野は?

スカイスキャナー絹田氏は「(音声認識など)新しいテクノロジーも重要だが、状況を理解し、把握するための大前提として、やはりデータにこそ価値がある」と主張。一方、音声での検索や予約など、最新の音声認識技術については、各社とも、日本市場では時期尚早との意見だった。

同じく最先端技術として話題のロボットについて、JAL藤原氏は「実はペッパー(ソフトバンクの人型ロボット)の活用を考えたことがあるが、まず重すぎる。さらに自分でシートベルトを締めたり、座ることができないのが難点」とほほ笑む。

ANA石井氏は、最も期待する分野として「(海外パートナー獲得などによる)マーケットの拡大」と「ラグビーワールドカップと東京五輪2020」を挙げ、訪日インバウンド旅行にも大きく期待。JAL藤原氏は「モバイル・エクスペリエンスの向上。よりパーソナルで提案力のあるサービス」を挙げた。

最後に、「10年後を見据えた場合、最大のビジネス・チャンスでありながら、まだ航空会社では取り組みが進んでいない分野は?」との質問に、ANA石井氏は「航空機の自動運転化。日産やトヨタは積極的に取り組んでいるが、航空機の自動運転は限定的なまま。安全の実現にもつながれば」と話した。JAL藤原氏は「宇宙旅行の流通とマーケティング」を挙げ、スカイスキャナー絹田氏も宇宙旅行に一票を投じた。

スカイスキャナーが「スペーススキャナー」に改称する日がやってくるのか。

取材・記事 谷山明子

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