オリックスが挑む新ブランドでの旅館事業、箱根に新築した第1号旅館の開業を取材してきた【画像】

箱根山の噴火警戒レベルが引き下げとなり、箱根ロープウェイの全線再開から1年。首都圏近郊の温泉リゾート地として賑わいを取り戻している箱根では、2020年の東京五輪に向け、箱根小涌園内の新旅館の開業やプリンスホテル、富士屋ホテルのリニューアルなど、大手旅館やホテルの再開発が進んでいる。

そんななか、オリックス不動産が2017年8月1日、新築旅館として「箱根・芦ノ湖 はなをり」をオープン。2002年に旅館事業に参入し、再生事業を手掛けてきた同社にとって、初の新築旅館となる。これを皮切りに、本格的に自社ブランド「はなをり」での旅館事業を展開する方針だ。

その第1号案件を、国内屈指の宿泊施設が揃う箱根で展開する同社の戦略を、メディア内覧会で聞いてきた。

 

再生事業で手掛けたノウハウが武器

「箱根・芦ノ湖 はなをり」は、箱根ロープウェイの桃源台駅から徒歩2分、芦ノ湖の目前に立つ計154室の温泉旅館だ。ロビーに入ると、芦ノ湖に続くように広がる水盤テラスと、その様子を眺めながらくつろげる足湯カウンターなど、周囲の環境に馴染みながらも特徴的な設備が目を引く。

その景色を背景に、ブルーウェーブ株式会社・箱根芦ノ湖ホテル株式会社の代表取締役で、オリックス不動産株式会社宿泊事業本部長の橘正氏は、「いつか、箱根で旅館を運営したいと思っていた」と、今回の開業に対する強い思いを語った。

同社のこれまでの旅館事業は、既存旅館を既存ブランドのもとに再生する再生事業。その実績は、2002年に取得した「別府 杉乃井ホテル」以降、熱海の「大月ホテル 和風館」や長野の「蓼科グランドホテル滝の湯」など、計8軒に及ぶ。この15年間、これらの施設で蓄積したノウハウを新築の旅館で展開するのが同社の戦略であり、競合がひしめく箱根での差別点だ。

そのノウハウで力を入れるのは、段違いの浴槽「棚湯」を配する開放感のある温泉設備と、地元の食材を使ったオープンキッチン形式のビュッフェダイニング。特にビュッフェダイニングは、同社が手掛ける各施設で高い評価を得ており、「箱根にはないスタイル」(同館・総支配人の藤井育郎氏)と自信を見せる。箱根では、フレンチシェフの総料理長による和食をベースにした新感覚のメニュー提供。箱根周辺の季節の食材を多用し、ライブキッチンなどの提供の仕方や器にもこだわった。

ターゲットは、首都圏在住の女性客。特に30代後半以降の旅行の決定権者。そこから派生する女性同士や夫婦、三世代家族など、具体的な利用シーンを想定し、ハードとソフトを揃えたのも同館の戦略のポイント。価格帯ではミドルアッパー層をターゲットに、8月は2名1室1人当たり1万6200円~(スタンダードツイン山側)で設定する。

訪日外国人の富裕層も念頭に置くが、「まずは日本人旅行者を中心に集客し、箱根の人気旅館と肩を並べられるようにしたい」(橘氏)とし、年間稼働率は75~80%を目指す。オープンまでは大掛かりなプロモーションなどは行なわなかったものの、既存ホテルの顧客を中心にホテルの直販サイトから予約などで、8月はほぼ満室。順調に推移しているという。

宿泊施設が直接販売を強化するなか、同館では直販が4割程度と想定。オンライン旅行会社(OTA)をはじめとするインターネット販売やリアルの旅行会社経由の販売も重視していく。

 

「はなをり」ブランドでの展開を視野に

オリックス不動産では「箱根・芦ノ湖 はなをり」を皮切りに、自社ブランドでの旅館を展開する方針。「はなをり」は(1)その土地土地の美しい風景、(2)歴史、(3)文化、(4)お客様の旅の記憶、(5)スタッフのおもてなしの心、の5つが花の織物のように重なるような旅館を目指して名付けたもので、自社ブランドは「はなをり」の名称で展開する予定だ。

開業する地域は、箱根同様に後背地に大都市圏を備えた人気の温泉地。同一エリアに複数の展開も想定する。

こうした地域は歴史ある温泉地が多く、新旧の競合施設が揃う。このなかで、旅館業に参入して15年の同社は、何を強みとしていくのか。

オリックス不動産の宿泊事業本部・旅館事業部長の森直樹氏は、既存の観光業の固定概念にとらわれない、異業種母体ならではの発想の柔軟さをあげる。

「例えば私どもが手掛けた蓼科などでは、冬の気候の厳しい地域は休業したり、積極的な営業を行なわないという慣例があった。しかし我々は、例えば、冬の雪のなかの露天風呂こそ魅力と捉え、宿までのアクセスを付けたプランなどを作り、稼働率を以前の2割から7割に上げた実績がある」。

森氏は、こうしたマーケティングで成功し、各地域に新しい客層を呼び込んできたことに対する自負を語る。その手腕で、同社が展開するマーケットにも新規客を呼び込み、マーケットを拡大していくことを見込んでいる。

「箱根・芦ノ湖 はなをり」

▼ロビーから続く屋外のパブリックスペース、水盤テラス。真ん中の円形ソファは、その先に見える芦ノ湖に浮かぶような感覚が楽しめるようにデザインしたという。

▼水盤テラスの隣には足湯カウンター。屋内ロビーカフェのドリンクを楽しみながら寛げる。

▼大浴場「棚湯」は芦ノ湖ビューとガーデンビュー(写真)の2タイプで、時間による男女入替制。内湯には温泉とハーブなどを入れる変わり湯、気泡のミルキー湯、外湯には寝湯も用意。サウナもある。棚湯とは浴槽の高さを50センチずつ変えたもので、入浴中の視点が変わることで景色の違いが楽しめるという。

▼ブッフェダイニング「季(とき)しかり」。季節の箱根の食材を用いた新感覚のメニューを、芦ノ湖の景色とともに楽しめる。特徴的なのは「おすすめ八寸」。テーブルの上かごに好みの小鉢を選んで自分好みの八寸をつくるもの。小鉢も「小田原蒲鉾ピンチョス」や「富士サーモンとズッキーニ トマトジュレ」など独創的。

▼客室は全室に、米国のサータ社と共同開発したオリジナルベッドを配備。写真は露天風呂付の和洋室。露天風呂の浴槽は信楽焼の陶器を使用。

▼ロビーエリアは木を多用。箱根の伝統工芸・寄せ木細工を思わせるカーペットなど、箱根らしさを感じさせるデザインも。ちなみに、同館は農漁業や商業が規制されている「国立公園第2種特別地域」に立地する。この地で旅館営業許可を持っていたセミナーハウスの建て替え案件として許可されたため、このエリアにおける貴重な新規開業施設であることもアピールする。

取材:山田紀子

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