日本の旅行会社がグローバルOTAと戦うための活路とは? i.JTB三島執行役員に、今後のJTBの展開も含め聞いてきた

国を挙げてのインバウンド誘致に乗じ、日本人の国内旅行や海外旅行でも存在感を増す外資系オンライン旅行会社(グローバルOTA)。オンライン旅行業界の国際会議「WIT Japan2017」では、JTBのオンライン戦略企業i.JTB 執行役員の三島健氏が、海外OTAに対する危機感について「100%(感じている)」としながらも、オンラインに店舗網など旅行会社の持つオフラインのリソースを活用することで、これまで以上に利便性を感じてもらえるサービスを提供したいと明言した。

エクスペディア・ジャパンやホテル・リザベーション・サービス(HRS)など、世界で台頭するオンライン旅行関連企業の日本代表を務めた経験をもつ三島氏が、i.JTBに活躍の場を移してから1年。日本の最大手旅行会社のビジネスを目の当たりにして感じた、海外OTAとの違いや強み、対抗し得る活路を聞いてきた。

“つながり”の強さが優位点

三島氏が海外OTAとの違いとして指摘するのは、航空会社や宿泊施設など旅行商材となるパートナーやデスティネーションとの関係性。「JTBに限らず、従来型の旅行会社に当てはまる」多様なお客様のニーズを充足させるために必要な多面的な協力体制があり、「単純にOTAは入ってくる事ができない(領域)」と話す。

また、従業員数でみると、例えばエクスペディアは全世界で2万人、JTBは2万6000人のうち、国内でのスタッフがその大多数を占めている。エクスペディアを見ると、かなりの人数がプロダクト職。つまり、見方を変えると旅行の各素材やデスティネーションに対する人的な知識・経験やコミュニケーションでは、JTBには海外OTAにはないネットワークが存在する。加えて、国内の店舗網や、法人営業のオフィス、海外オフィスなどを有し、「情報を得るためのインフラやハブが至るところにある」とも語る。

ただし三島氏はこれらの強みが、OTAに対抗しうる価値として消費者に提供できているかというと、「まだ十分ではない」と認識。人的ナレッジについても、「それが紙ベース、個人ベースになっていて、グループとしてのナレッジになっていない」と続ける。

各部門が持っているコンテンツもデジタルでの管理がされておらず、グループの他の事業での活用も十分ではないと見る。ただし三島氏は、「展開する能力はあるのに、それが活用し切れていない。ということは、逆に言えばやれることが多くある」と、今後の可能性を強調する。

i.JTB 執行役員の三島健氏

消費者に向き合い、マーケットを知る

従来型の旅行会社が持つ強みは、なぜ、活かしきれていないのか。三島氏は、消費者に対する理解不足にあると指摘する。

OTAもサプライヤーとのパートナーシップを重視するが、同時に消費者も重視する。もちろん日本の旅行会社も消費者を重視しているが、その比重を三島氏は「OTAはサプライヤーと消費者が5対5の同じくらいだが、誤解を招くかもしれないが感覚的には日本の旅行会社は9対1くらい」と表現。「それがOTAと、ものすごく違う部分」と、その感覚の違いを強調する。

この差は何か。それは顧客に対する気持ちの軽重ではない。「お客様を呼び込む原則が違う」からだ。JTBは売上の85%が店舗営業だが、従来型の旅行会社は人の流れを踏まえた場所に店舗展開をし、その導線から来店する消費者に対して、多様な商品群を用意する。そして、そこから始まるコミュニケーションを重視する。

しかしOTAの場合、消費者との接点はないオンラインの平等条件のなかで、自分たちのサイトに消費者を呼び込むことが必要だ。そのため「お客様を理解しようとして、テクノロジーとマーケティングを駆使し、データ分析をもとにプラットフォーム・ビジネスをグローバルで動かしている」と三島氏。つまり、「そもそもの発想の仕方が違う」。

三島氏はこれまでの経歴を振り返り、「私はBtoBでもBtoCでも、プラットフォームをどう活用してお客様に訴求するかということに時間を使ってきた。マーチャンダイジング的にお客様のニーズに沿った商品を適切なタイミングや数量で訴求することよりも、お客様にきちんとしたプラットフォームへ来てもらい、お客様が求めているものをどのように効率よく提供できるかに時間と労力を使ってきた」と、オンライン事業のキモを説明する。

日本の旅行会社のリソースを、OTAの発想で最大限活用すること。それが、三島氏がグローバルOTAに対する危機感を下げた根拠の一つなのだろう。

JTBの今後の展開は

オンライン旅行業界におけるグローバル戦略は、プラットフォームの買収でオンラインの仕組みとともにブランドとユーザーごと獲得して巨大化していく手法が主流だった。しかし最近は、エクスペディアが欧州の鉄道予約「シルバーレイル」を、ホテル客室卸のホテルベッズがBtoB地上手配のGTAを買収するなど、旅行の各種コンテンツの取得に移行しつつある。

三島氏はこの動きを指摘しながら、「既にJTBは国内でそれができている」とグローバルのトレンドに先行していることを説明。「送客獲得も大切だが、送客の先の素材を持つ必要がある。JTB全体でデスティネーションマネージメントをしようとしている」と、その狙いを語る。

それを「デジタルでどう展開するかの課題はある」としつつも、「コンテンツを作り、繋ぐための人材、チーム、パートナーシップもある。戦略的な動きを実行しようとする強い思いがあれば、面白いことができるはず」と目論む。

JTBは2018年度から、15の事業会社を本社に統合する大再編を行なう。これにより、「これまで個別だった事業会社が1つになって運営されるインパクトに期待したい」と三島氏。5月末に行なわれたJTBの2016年度の決算会見で代表取締役社長の髙橋広行氏は、訪日分野のオンライン事業に関しては、国内における圧倒的な在庫力や着地型商品群を武器に、グローバルOTAに匹敵する事業を展開することを表明している。

新たな発想のもと、日本発のオンライン旅行ビジネスがどう展開されるのか。JTBの今後の事業展開に注目したい。

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫


記事:山田紀子

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