次世代の富裕層が求める旅とは? 米ニューヨーク・タイムズ紙のアジア責任者が語る「世界の新潮流」と「テクノロジーの役割」を聞いてきた

単なる高額旅行から本物の体験へ--。ラグジュアリートラベルに今、大きな変化が訪れている。ニューヨークタイムズ紙アジア・太平洋地域エグゼクティブ・ヴァイス・プレジデントのヘレナ・フア氏は、その変化に「世界のビジネスに根本的な変化をもたらしたテクノロジー」が大きく関わっていると話す。

専門スタッフがパーソナルタッチで、旅行のコンサルティングからプランの組み立て・手配、サービスを提供するラグジュアリートラベルに、テクノロジーはどう影響しているのか。ツーリズムEXPOジャパンの「ラグジュアリー・トラベル・セミナー」から、フア氏の基調講演内容をまとめた。

テクノロジーが旅行市場で果たした役割

フア氏は冒頭、LCCやブティックホテル、民泊などの新規参入により、旅行業界の競争はこれまでになく激化していることを指摘。特に、今や時価総額600億米ドルとなったUberや300億米ドルのAirbnb、210億米ドルのエクスペディア、60億米ドルのトリップアドバイザーの成長を示し、テクノロジーがビジネスに根本的な変化をもたらしたことを強調。

今後、旅行業界はこうした競争のなかで、「テクノロジーがもたらす機会と課題を再検討し、自分たちの価値を示すビジネスモデルをもう一度、考えなくてはならない」と提言する。

では、この競争の勝者はテクノロジー企業なのか。フア氏は「勝者は旅行者」と断言。「これまでにないほど世界を旅するのが容易になり、手ごろになった」のが理由で、これはラグジュアリートラベラーにとっても、「パーソナルな旅をするチャンスが広がった」。これによって、ラグジュアリートラベルにも大きな影響を及ぼしたという。

高額から本物、体験への志向のシフト

では、ラグジュアリートラベルのトレンドはどういうものか。フア氏は、自身が今年8月に行なった日本への業務渡航を引き合いに説明した。日本にはこの8年間で50回以上の業務渡航を行なっているが、今回はこれまでにない体験ができたという。

旅行をアレンジしたのは、提携先のジャパンタイムズ代表取締役会長の末松(神原)弥奈子氏。同氏の故郷である広島に招待され、ラグジュアリーリゾートでの滞在や福山の神勝寺などに加え、地元の学校や公園、さらには常石造船所のクルーズ船造船の様子や注目の複合施設「ONOMICHI U2」などに案内された。

フア氏はその経験を、「今までの日本の旅行では見たことのなかった、現地の本物に触れられた。ガイドをしてくれた人の人生を追体験した気持ちになり、広島の街が良く分かった。人々の温かさと美しい場所に触れたことが本当に素晴らしかった」と振り返る。

そして「日々の生活や多忙な仕事から離れるには、旅行先にどっぷりと浸るくらいの体験をしなければ、帰宅したときに満たされない気持ちになる」と、旅行者の思いも代弁。だから本物志向の体験型旅行にシフトしており、ラグジュアリートラベルも変わらざるを得ない時に来ていると話す。

変化が著しいのが、中国市場。成熟しつつあるこのマーケットでは、従来の高級ホテルや高級ブランド店での買物などの高額旅行から、「その土地の文化、歴史などに興味を持った一段上の旅行を求めるようになってきた」とフア氏。「中国の富裕層の旅行者はこの市場の一角と捉えてきたが、最近の振る舞いを見ると市場全体と言えるようになった。ラグジュアリートラベルのトレンドセッターになっている」と見る。

ラグジュアリーは多様化

現地に触れる体験を求め、旅行先が従来の観光地から住宅街へと広がっていく。その流れを促した要因としてAirbnbが取り沙汰されるが、フア氏は「それだけではない。旅行全体がその流れにある」と、社会全体の変遷を指摘。

「製造業が衰退するなかで、各国は街をブランド化した商品にしようとマーケティングを行なってきた。今では多くの旅行会社が地域を扱うようになり、現地の文化体験や自分が希望する旅のプランニングなどが、簡単にできるようになっている」という。

旅行者の居住地への浸食に住民が反発する地域も。講演中にはその影響として自社記事を紹介

旅のパーソナル化が進む中、ラグジュアリートラベルの多様化も進む。フア氏は「ラグジュアリートラベルが何かを考えさせられる時代になった。洗練されたサービスを受けることをラグジュアリーと捉えるかもしれないし、息をのむような絶景やエクスクルーシブな体験、人のいない場所に行くことが贅沢と思うかもしれない。プライベートツアーや最近ではグランピングなども出てきた。ある人にとってはラグジュアリーなことが、別の人にはそうでない場合もある。人によってラグジュアリーの定義が異なる」と言及する。

ただし要素としては、「体験」「本物であること」「地元の人と接点を持つ」「自信に繋がる」「自分設計」などの旅が、ラグジュアリートラベルに含まれていると語る。

次世代の富裕層が求めるもの

最後にフア氏が変化を指摘したのが、人々の旅行に対する期待値の増幅。その要因も、やっぱりテクノロジーだ。「SNSによって旅行の魅力が高まった」とフア氏。SNSで休暇の記憶が共有され、旅行者が受ける情報量が増えることによって「旅行者はもっと旅行に期待するようになる」という。

では、どんな期待値が高まったのか。その1つがスピード。SNSによってスピード感が変わり、旅行者がオンラインの世界で効率を求めるようになった。また、「次世代の富裕層の旅行者はオンラインのネットワークの中で、自分の地位を押し上げてくれるような体験を求めるようになる。同時にそれを、デジタルの世界で共有することが同じくらい重要になる」とフア氏。そういう意味で、SNSは旅行体験のすべての要素に影響を与えたという。

さらに、パーソナル化の要求もさらに度を増すと展望する。現在、オンラインの世界ではSNSから検索結果まで、個人化が進んでいる。そのため、旅行者はその他のサービスもパーソナル化がされることを期待するようになると見る。

ニューヨークタイムズ紙アジア・太平洋地域エグゼクティブ・ヴァイス・プレジデントのヘレナ・フア氏

このように旅行者に変化を与えてきたテクノロジー。次に影響を与えるのは何か。VR、AR、AI、ロボットなどの先端テクノロジーがあげられるが、フア氏は次のテクノロジーは、人々の期待値を上げると同時に、従来の仕事の仕方を大きく変えるものになると指摘。

「覚えておいてほしいのは、すべての旅行関係者がテクノロジーがもたらす機会と課題を今一度、検討すべきということ。そこから恩恵が得られる位置づけを獲得できるようにしなければならない」と提言した。

さらに「今、権限持っているのは旅行者」であることも強調。この状況で今までと同じ結果を出すためには、大きな努力をする必要がある」と語りかけ、講演を締めくくった。

フア氏の講演は、テクノロジーが世の中を変え、そのなかで生活する旅行者の根本に影響していることを提示。それは、ラグジュアリートラベラーにとっても例外ではない。旅行関係者がそれを認識することは、トレンドを読み、次のニーズにこたえるための基本条件であると伝えている。

記事:山田紀子

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