インバウンドの成否を握る「欧米豪市場」、2つの成功事例と地方への誘客のポイントを聞いてきた

東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年に4000万人、30年には6000万人の訪日客誘致を目指す日本。人数目標はもちろん、日本社会が抱える人口減少問題を補う経済効果として期待されているのが旅行消費だ。

国は2016年に3.7兆円だった訪日客の消費額を2020年に8兆円、2030年に15兆円に引き上げようとしている。そのためには、アジアだけでなく、欧米豪市場の取り込みが不可欠。今年9月に開催された「ツーリズムEXPOジャパン フォーラム2017」の「訪日旅行シンポジウム」では、外国人の視点からの提言や、すでに欧米豪市場からの誘致に成功している自治体、民間事業者たちによる先行事例が紹介された。

パネリストにはフランス観光開発機構のクリスチャン・マンテイ/ジェネラル・マネージャ、岐阜県高山市役所の丸山永二海外戦略部長、信州白馬八方温泉しろうま荘の丸山俊郎支配人が登壇し、モデレーターは日本政府観光局(JNTO)の蜷川彰グローバルマーケティング部長が務めた。

中国より一人当たり消費額が多いオーストラリア

JNTOグローバルマーケティング部長 蜷川彰氏

2016年には過去最高となる2404万人の訪日客数を記録した日本。2017年9月15日には昨年より45日早いペースで累計2000万人を突破した。欧米豪は人数シェアでは12%にとどまっているが、注目がその消費力だ。

2016年の一人当たり消費額はオーストラリアが24万6866円で中国を上回ってトップに。上位10か国は中国、ベトナムを除き、オーストラリア、スペイン、イタリア、米国などの欧米豪が占めている。蜷川氏は、「欧米豪は滞在日数の長さを反映し宿泊費や娯楽サービス費が高くなる傾向にある。欧州だけでも6億人のアウトバウンドマーケットがあるといわれるが、日本は、タイや中国など他のアジア諸国に比べ取り込めていない。今後の伸びしろに着目し、新規、富裕層の開拓を強化すべきである」などと語った。

そこで、成功事例として紹介されたのが高山市と、長野県にある信州白馬八方温泉のしろうま荘である。

成功事例1:岐阜県高山市

岐阜県高山市役所の丸山永二海外戦略部長

2016年の高山市の外国人宿泊客数は前年比26%増の46万1000人。9万人足らずの人口に対し、5倍以上の外国人が宿泊している。高山市は1996年からモニターツアーを実施して高齢者や障がい者同様、外国人旅行者の改善点などを直接聞き、施策に取り入れてきた。現在、外国人向けのパンフレットは8言語、散策マップは10言語に及ぶ。

2016年にはヘブライ語のマップを初めて作成し、約1万人に上るイラン人旅行者に対応。ほかにも、飛騨地域限定の特例通訳案内士の養成、消費税免税制度の活用など受け入れ体制の充実ぶりは群を抜き、欧米豪のシェアは全国平均を大きく上回る3割を超えている。

丸山氏は「英語を話せることはもちろん大切だが、市民誰もが国内外問わず遠方からのお客様を歓迎する。一方で、たとえ声を掛けなくてもお客様がストレスなく町めぐりできる体制整備の両輪が鍵になっている」と語った。

成功事例2:信州白馬八方温泉「しろうま荘」

信州白馬八方温泉・しろうま荘支配人の丸山俊郎氏

信州白馬八方温泉のしろうま荘は家族経営の小規模旅館ながら、パネリストとして登壇した支配人の丸山俊郎氏が世界の旅行業者を対象とした「ラグジュアリー・トラベル・ガイド・アワード2016」の支配人部門で最高賞を受賞している。

多言語サイト、SNSを通じたコミュニケーション、昼間限定で水着着用、ビジターOKの貸切温泉、和太鼓、餅つきなどの日本文化体験、丸山氏の母が作ってもてなす郷土料理といった外国人向けの細かいもてなしがクチコミを呼び、クリスマスから3月上旬までのスキーシーズンは連日満室。外国人宿泊客の比率はオーストラリアを中心に7割、平日は95%に上るという。

丸山氏は「アジアに比べ欧米豪のお客様は観光名所だけでなく、日本での滞在そのものを楽しむ方が多い。誘致には、白馬のような雪や山岳景観といったキラーコンテンツに加え、読書をしながらゆっくり過ごせるカフェ、質の高い体験プランなど地域ぐるみの取り組みが不可欠だ」などと提言した。

“何もない”こそ、欧米豪に愛される

インバンドでいま最重視されているのが、ゴールデンルート、大都市集中からの脱却である。では、欧米豪からの旅行者を地方に誘客するにはどうしたらいいのだろうか。

フランス観光開発機構のクリスチャン・マンテイ氏

「地方のダイバーシティ(多様性)を活かし、似通ったデスティネーションにならないことがまず重要である」と指摘したのは、世界屈指の観光大国であり、2016年は8260万人と世界トップの外国人旅行者が訪れたフランスで観光行政のトップとして指揮をとるマンテイ氏である。

「フランスにもアルザス、プロヴァンスといった他国文化の影響を色濃く受けた地方が数多くあるが、それぞれ独自性があるからこそフランスにリピートしてもらえる理由になっている。地方の特色を出しつつ、ワイン、スキーといった専門で世界のトップ3を狙い、さらにイベントを交えながらアピールする複合施策がフランスの成功要因であり、日本にも参考になるのではないか」と語った。

また、高山市の丸山氏は、しろうま荘の丸山氏と同じく地域の連携について言及。高山市は飛騨地域による特例通訳案内士の取り組みだけでなく、ミシュランで評価された地方をつなぐ三ツ星街道、杉原千畝ルートなど県域を超えた広域連携に取り組んでいると紹介した。

さらに、地域の魅力を地元の人が再発見することがインバウンド誘致の一歩になるとも指摘。「高山でも里山サイクリング、地元の食材を使った料理体験が欧米豪からの旅行者の間で人気が高い。何気ない里山の風景、古い町並みなど、日本の田舎には欧米豪の旅行者に好まれる魅力が詰まっている。よく“おらが村にはなにもない”という話を聞くが、何もないということこそが実は観光素材になる可能性を秘めているのではないか。二次交通についても、拡充はもちろん重要だが、長期滞在の旅行者はアクセス方法をきちんとインフォメーションすれば足を運んでもらえる」と話した。

アジアに比べ未開拓だった欧米豪市場の誘致について、深い議論が交わされた今回のシンポジウム。最後にマンテイ氏は「私たち外国人はどこでもいいのではなく、日本だからこそ訪れている。観光産業はグローバル化が大きな柱となっている一方で、どこも一緒になってしまっては意味がないという複雑な課題を抱えている。日本の文化、日本人のアイデンティティを大事にして取り組んでほしい」と提言。モデレーターの蜷川氏は「欧米豪のニーズが高いありのままの日本生活の体験、広域連携、ストーリーのある商品提供、地域ぐるみで儲かる仕組みの確立など、さまざまなキーワードが見えてきた。オールジャパンで取り組んでいきたい」とまとめた。

取材・記事 野間麻衣子

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