巨大OTAの株価下落で考えるトラベル業界の未来とは? 成熟した市場で打つべき「次の一手」を考えてみた【コラム】

こんにちは。ベンチャーリパブリックの柴田です。

アジア太平洋と北米におけるオンライン・トラベル分野の2大国際会議、「WiT(ウェブ・イン・トラベル)」(10月シンガポール)と「Phocuswright Conference(フォーカスライト・カンファレンス)」(11月アメリカフロリダ州)が終わりました。今年は、これまでになかったような不安な空気が感じられたように感じます。ここ数年、右肩上がりで順調に成長を続けてきた世界のオンライン・トラベル市場が曲がり角にきている可能性が見え隠れしはじめたからです。

その不安は、折しもPhocuswright Conferenceが行われている最中に表面化しました。2017年11月7日、時価総額世界最大のOTA、プライスライングループの株価は一気に15%下落。同日、Tripadvisorの株価は一日でなんと23%も下落したのです。(10月27日にExpediaの株価も1日で16%下落しました)

市場に大きな衝撃が走ったこの日の夜、僕はPhocuswrightが毎年開催するVIP招待ディナーに出席していました。そこでは、カクテル片手にソーシャライズする数十人の世界を代表するCEOたちから離れ、プライスラインCEOの Glenn Fogel氏、トリップアドバイザーCEOのSteve Kaufer氏の2人が神妙に話し込んでいる様子が印象的でした。

Tripadvisor、Expedia、Pricelineの株価推移

株価下落の理由は? 株式アナリストが「市場の成熟化」説を議論

株価がここまで大きく下がった理由は、各社が発表した業績結果がウォールストリート(株式市場)の予想を一様に下回ったからです。

株式市場は、常に未来を先読みしようとして反応しますが、翌日のPhocuswright Conferenceではちょうどタイミング良くウォール・ストリートでトラベルセクターを担当する株式アナリストたち(RBC Capital, Susquhanna Financial Group, UBS, Deutsche Bank & Guggenheim Securities)が壇上に集まり、市場を代表して業界がこの先どうなるかを議論しました。

その場で、彼らのほとんどが指摘したのが、“世界のオンライン・トラベル業界では市場の成熟化がおきはじめている”という見立てでした。

欧米を主軸市場として事業を展開してきたこれらのグローバルプレイヤーたちは、これまでこれらの地域にて旅行予約のオンライン化が急速に進むにつれ事業規模を急速に拡大させてきたわけですが、市場全体の成長スピードそのものがいよいよ目に見えて鈍化し始めたのではないかという解釈が展開されたのです。

あるアナリストは、具体的に主要OTAの業績成長率(売上高)は10%〜20%までへと下がるだろうと予測。プライスラインを例にとると、同社はつい1、2年前までは毎年30〜40%もの売上(および利益も)成長を遂げていたわけですが、直近の売上高の成長率は20%を切る状況に。もし、今後もこの成長率が10〜20%へと下がることが明白であれば株価(時価総額)は相応に下がって然るべきということになります。

マーケティングの予算配分見直しを進める世界のOTA

さて、需要の成長スピードが鈍化したことだけが、今回の株式市場の反応だったのでしょうか?

どうやら他の要因もあるようです。1つはマーケティング面での変化です。グローバルOTA各社は、いま新たなユーザー獲得のための各マーケティング・チャネルへの予算配分見直しを進めていると聞きます。

具体的にはサーチエンジンやメタサーチに代表されるパフォーマンス重視型のオンラインマーケティング・チャネルからテレビ広告に代表されるようなブランディング重視型のマーケティング・チャネルへと投下予算をシフトし始めているのです。

この動きは世界的にトラベル業界以外でもおきているようで、アメリカではYelp(日本の食べログのようなレストランなどのクチコミレビューサイト最大手)などのインターネット企業が次々とテレビCMへと資金を投入し始めているとのことでした(この背景から推察すると、アメリカではインターネット市場そのものの成熟化がおきているともみてとれます)。

パフォーマンス重視型マーケティング・チャネルの典型、サーチエンジン上でのマーケティングを例にとると、欧米(おそらく日本でも)では、Google上で旅行関連キーワードの検索ボリュームは市場全体でみると大きく伸びていない状況ではないかと推測できます。

こうなると、新たなユーザーをまとめて獲得できるマーケティング・チャネルは、Facebookに代表されるソーシャルメディアなど別のオンラインチャネルかテレビのようなオフラインチャネルに限られてくることになります。

グローバルOTA各社はFacebookなどのソーシャルメディアでのマーケティングも進めてはいるものの、未だ大きな手応えが得られていようです。その結果、費用対効果としては決して高くないものの大量の新規ユーザーが獲得でき、かつ自社ブランドを浸透させられる力が強いTV広告へ走り始めているのです。

費用対効果が高くない高単価のTVコマーシャルを打ち続けるとどうなるでしょうか?

これまでに比べて業績(特に利益)が伸びにくくなり、その結果、株価(時価総額)が下がるという事態が発生するわけです。

今後のカギは「サービスの差別化」と「テクノロジーの活用」

成長の曲がり角にさしかかったかにみえるオンライン・トラベル市場。主要各社は、この状況を踏まえこの先いったい何を考え、何を実践していくのでしょうか?

市場の成熟化がみえはじめ、その中での激しい競争が繰り広げられた結果、近年各社の提供するサービスはどこも似たりよったりになってきています。いわば、サービスのコモディティ化が進んできているのです。

そうなると、今後はサービスの“大きな差別化”が求められると思われます。

この考え方はPhocuswright ConferenceでもKAYAK CEOのSteve Hafner氏が強調していましたが僕も全く同感です。Hafner氏は“差別化はユニークな新たな資産をもとに イノベーションが産み出されて実現されるはずで、それらの新たな資産はコンテンツかもしれないしハードアセットかもしれない”と述べていました。

コンテンツによる差別化という点では、弊社でも「Travel.jp」で約6年前から旅行インフルエンサーのネットワークを構築しはじめ、いち早くコンテンツ・メディアサービスへ参入しメタサーチサービスのみの運営からの脱皮を図ってきました。その結果として、近年ユーザー数を大きく伸ばすことができた経緯もあり非常に納得がいく意見でした。

一方、こうした今後の各社による差別化の裏には、もちろんテクノロジーが存在すると思われます。

この観点で気になったのは、WiTでもPhocuswright Conferenceでも各社のCEOがしきりに強調していた1つのキーワード“パーソナライズ”というフレーズです。

Expedia、Tripadvisor、TrivagoなどのCEOが口を揃えて“今後力を入れていくのはユーザー1人1人に向けカスタマイズ・パーソナライズされたサービスを提供していくことだ”と強調していました。これらのサービスを実現するためにはテクノロジーが必要で、テクノロジーの最たるものが“AI”(ビッグデータをもとにしたマシンラーニング)になると考えられます。

AIの活用という意味で、印象深いのはやはりテクノロジー・ジャイアントであるGoogleです。

同社のTravel & Shopping部門のヴァイスプレジデントOliver Heckmann氏は、WiTとPhocuswright Conferenceの両カンファレンスに登壇しました。そこでは、同社のホテルやフライト検索サービスで既にマシンラーニングをベースにしたAI技術が導入されていること、Google Translateにおける翻訳の質がAIによって今年大幅に向上できたことなどを明かしていました。

AIを活用したサービスがトラベル業界を含め今後どう展開されていくかを知るにはGoogleの動向を注意深くみるべきとあらためて感じさせられました。

WITで登壇中の筆者(右)

差別化で各社が注力するのは「民泊」と「タビナカ」

サービスの差別化と同時に各社が注力していくと思われるのは、今後、高い成長が見込まれる新たなカテゴリー領域への投資の加速です。僕は、その代表例がやはり「民泊」と「タビナカ」(ローカルツアー&アクティビティ)市場になるかと思います。民泊は言うまでも無い気がしますが、ローカルツアー&アクティビティはこの数ヶ月であらためて市場の大きな成長可能性が浮き彫りになってきたと感じています。

僕が先月から社外取締役に就任することにもなったローカルツアー&アクティビティ分野でのスタートアップ“BeMyGuest”(シンガポール)は、今夏にシリーズAラウンドによる資金調達を終えたばかりにも関わらず業績の急拡大に伴い早くも次のシリーズBラウンドを検討しはじめています。

WIT Japan & North AsiaのBootcampピッチコンテストで優勝した経歴もある香港のスタートアップKlook、ドイツ・ベルリンのスタートアップGetYourGuideは共に6千万ドル(約67億円)、7千5百万ドル(約84億円)という極めて大型の資金調達を発表していることも市場の高い成長期待を裏付けていると言えるでしょう。

今後、高い成長が見込まれる新たな領域という意味では、もちろん新興地域市場を忘れてはなりません。

具体的には中国、インドはもちろんのこと弊社グループ運営のTrip101や前述のBeMyGuestが本拠を構える東南アジア市場が今後台風の目になる可能性があります。今年同地域からトラベル分野にてアジア初の(中国を除く)ユニコーンスタートアップ“Traveloka”(在インドネシア)が誕生したこともそれを示唆していると思われます。

日本では? 求められる新事業や海外進出

曲がり角を迎えたかにみえる世界のオンライン・トラベル市場。翻って、日本の市場は今後どんな動きをたどるのでしょうか?

OTAはこれまで日本の旅行業界の中でも急速な成長を遂げてきた代名詞と位置づけられてきました。しかし、急拡大するインバウンド市場の影で国内のオンライン・トラベル市場も欧米と同じように成長が大きく鈍化し始めてきたと感じ始めているのは僕だけでしょうか。

グローバルレベルでの競争がますます進む中、今後日本においてもイノベーションの創出によるサービスの差別化、新たな事業分野や海外市場への進出といったことが求められるのは必至になると思います。

柴田啓(しばた けい)

柴田啓(しばた けい)

ベンチャーリパブリック代表。大手商社での大手コンビニチェーンの重要プロジェクトなどを経て、2001年にベンチャーリパブリック設立。月間1300万規模のビジット数を持つ旅行検索サイト『Travel.jp(トラベル・ジェーピー)』を軸に、海外オンライン旅行市場への本格進出を図る。 慶応義塾大学法学部、ハーバードビジネススクール卒業。WIT Japan共同創業者、ベンチャー三田会会長、経済同友会メンバーなど経済活動に多数参画。

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。