DMMが旅行業に参入する背景とは? 狙う分野や差別化ポイントを責任者に聞いてきた

先ごろ発表された、DMM.com(DMM)が旅行事業を開始するというニュースは、ビジネス界で大きな注目を集めた。成長企業の新たな分野への投資、異業種への参入という視点で注目された旅行事業の狙いはどこにあるのか? 新たに今秋スタートする「DMM TRAVEL」に事業計画段階から携わり、事業責任者として陣頭指揮をとる笠原鉄平氏に同社が目指す「DMMらしい旅行ビジネス」について聞いてきた。

参入の背景は?旅行業が新たなビジネスを生む可能性

笠原氏がもともと所属するのは、世界で新規事業の立ち上げを計画・立案する「グローバル事業部」。海外進出を目指すさまざまな企業とのつながりが強い。DMMトラベルは、こうした企業とのパイプを利用し、ビジネス渡航で発生する周辺の需要を狙う。

笠原氏は、DMMトラベルとして旅行業を開始することについて「旅行業登録をすると『旅行業に進出』と捉えられがち。しかし、DMMとしては、その意識は薄く、既存の事業が持つ強みを加速させるため、旅行商品も取り扱えるようにライセンスを持っておく、というイメージに近い」と語る。

今回の事業の大きな狙いは、旅行業というツール(手段)を持つことで、グループ内の40以上のサービスとの新たなビジネスが生まれる「可能性」。その結果、旅行業登録が必要だったというわけで、チャレンジ事業として舵を切った。

例えば、DMMはベルギーのサッカーチームを所有しているが、笠原氏は「そこに人を送り込む場合なども、旅行というツールを持っていると強みになる」と話す。グループ内の事業を拡大するための旅行業という位置づけでスタートするため、「他の旅行会社が考える旅行とは異なる旅行の提案をする。既存マーケットを荒らすつもりはない」(笠原氏)という。

「プラットフォーム」でも異なる意味合い、既存OTAとは別の道を

OTAをはじめ、テクノロジーをフル活用したプラットフォーム型の旅行ビジネスは急速な伸びを見せている。DMMの旅行業参入にあたっては、こういったテクノロジーを前面に出したビジネスになるのではないか、という憶測もあった。

笠原氏は「DMMもプラットフォームだ」としたうえで、オンラインで全てが解決するOTAなどのプラットフォームとは意味合いが異なる点に言及する。「スタディツアーとかヨガのツアーとか、『特殊な商品ならDMMトラベルが最も豊富だ』と認知され、多くの人がサイトを訪れてくれるというアナログなプラットフォームこそDMMトラベルが目指す姿」(笠原氏)。オンライン上で旅行を販売するものの、目指すのは既存のオンライン旅行会社(OTA)のような商品ラインナップではないようだ。

笠原氏は「ビジネスが絡む旅行の中心的存在になりたい」と夢を語る。そのためには「DMMトラベルだけで1から10までやるつもりはない。面白いものができるのであれば、既存の旅行会社やランドオペレーターの力も借りて進めていきたい」と他社とのパートナーシップを意欲的に組んでいく考えだ。

具体的な事業は?ビジネスとスタディの分野に特化

では、具体的な事業や商品はどんなものなるのか?

DMMトラベルが狙うのは、ビジネスとスタディ(学び)の分野。笠原氏は「ビジネスとスタディといった部分に特化した旅行商品は多くない。そこをピンポイントで狙っていく」と強調する。

また、これまでアフリカでの事業を担当してきた経験から「スタート時には世界各地の商品をラインアップするつもり。アフリカでの需要も高い」という。例えばルワンダで行われたICTのイベントには20社以上の日本企業が参加している事実があるが、これら企業やビジネスパーソンに対して、現地の旅行商品を販売している旅行会社はあまり多くないと感じている。

出張をはじめビジネスで渡航する場合、オンラインで航空券やホテルを予約するためのツールは豊富で、行くこと自体のハードルは下がっている。だからこそDMMトラベルがフォーカスするのは、「行った先で何ができるのか」という旅行の本質の部分だ。笠原氏は、ビジネスで移動する人の旅行先での体験を膨らませていくことが、DMMトラベルの商品の特色となるだろうという点を強調した。

ビジネスと並ぶ軸のスタディに関しては、ターゲットは企業経営者などビジネスにおけるアッパー層に設定。学生のスタディツアーは以前から問い合わせが多く、スタディツアーのプラットフォームというのが1つの軸としてある。学生には学びを、経営者にはキャリアを、との考えで、DMMトラベルのテーマは「学びを、キャリアを加速する」とした。

「富裕層向け商品」と呼ばないで

DMMトラベルはスタートに向けて新規スタッフの採用も行っているが、まずは小さな規模のチームでスタートする予定だ。DMMにはチャレンジを励行する企業風土があり、DMMトラベルも「小規模のチームで走り出してから見つけていくことも多くなる」(笠原氏)という。

大手旅行会社が手を出さないような小さな部分でも、小規模チームらしい小回りの良さとスピード感により、既存旅行会社では造成しにくい内容の旅行商品が生まれそうだ。例えば「現地レンジャーと過ごし野生動物に触れるアフリカ旅行」や「経済成長著しいケニアのビジネスをすべて網羅する旅」といったツアータイトルは「十分あり得る」(笠原氏)という。

DMMトラベルの商品は、一般的に体験型旅行と呼ばれるものになりそうだが、この類の旅行商品は高額になりがちだ。その価格設定から「富裕層向け」などと呼ばれることもある。

笠原氏は、今回の事業では、そうした言葉について否定する。「富裕層向け商品は高級ホテルに泊まり、ビジネスクラスで移動するイメージ。それとは異なり、DMMトラベルが販売する商品の価格は、旅行先で体験するコンテンツの希少性に対する価値だ」と力を込める。

高級ホテルやビジネスクラスは要望があれば手配はするが、笠原氏が「個人ではできない体験をツアーに必ず1つ入れたい」と、希少体験を最前面に打ち出していく構えだ。

DMMは、すでに英会話事業の関連で、今年2月に第2種旅行業登録を済ませている。また、DMMのグループ会社で即時買取アプリ「CASH」を運営し、後払いの導入で話題を呼んだバンク社も旅行に参入した。

笠原氏は「これらの事業とDMMトラベルの事業は競合しない。むしろDMMトラベルの商品をCASHで扱ってもらうこともあり得る」と、グループ内での旅行業が互いに絡み合う相乗効果にも期待を寄せる。さらには、リゾート関連全般を担うグループ会社が沖縄県で開業させるエンタメ性の高い水族館や、チームラボとともに新豊洲にオープンした体験型デジタルアートテーマパークとの親和性も高いだろう。

現在は、第2種旅行業登録を第1種旅行業登録に切り替える準備を進めており、今年秋をめどにDMMトラベルの事業をスタートさせる。

聞き手 トラベルボイス編集部 山岡薫


記事 高原暢彦

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