観光大国フランスの観光商談会を取材してきた、世界有数の観光客誘致策と地方DMOの観光戦略とは?

フランス観光開発機構(アトゥーフランス)は今年3月中旬、南仏マルセイユで「ランデブー・アン・フランス2019 (RDVF2019)」を開催した。これは、フランス最大のBtoBトレードショーで、日本で日本政府観光局(JNTO)が主催する「Visit Japanトラベル&MICEマート」に相当するインバウンド旅行イベント。今年はホスト都市となったマルセイユを含むプロヴァンス-アルプス-コートダジュール地方の観光プロモーションも兼ねるとともにその観光戦略も説明された。世界有数の観光デスティネーションが描く観光客誘致策とは。日本市場への取り組みとは。2日間にわたったRDVF2019を取材した。

年間9000万人を超える旅行者を受け入れる観光大国フランス。BtoBトレードショー・ワークショップは世界各国で行われているが、RDVF2019はその市場規模を反映して世界最大級のインバウンド旅行イベントとなっている。今年の参加数は、フランス国内のセラーが788社で、世界73カ国からバイヤー915名とジャーナリスト35名が集まった。日本からは53社57名が参加。セラーとバイヤーによる商談件数は約2万6000件に及んだ。

この規模感を表すために昨年9月に開催された「Visit Japanトラベル&MICEマート」と比較してみる。日本政府観光局(JNTO)が発表した数字によると、海外からのバイヤー数は32カ国から353社、海外メディアは18カ国から21社、国内セラー数は573社・団体、商談件数は1万7670件。単純に比較することはできないが、RDVF2019は商談件数ではVisit Japan 2018の約1.5倍、セラー数では約1.4倍、バイヤーの参加国では倍以上の規模になる。しかも、RDVF2019はレジャー市場に特化しており、MICE関連の商談は含まれていない。

RDVF2019の会場では、2ヶ所にカフェも設置。参加者は商談の間に休憩をとった。

RDVFは、ホスト地方・都市にとってその魅力を世界のバイヤーにアピールする絶好の機会ともなる。RDVF2019に合わせてフランス全土で実施されたファムツアーは60本で参加者は560名。実にRDVF2019に参加したバイヤーのうち60%が各地を視察したことになる。そのうちホスト地方のプロヴァンス-アルプス-コートダジュールで実施されたファムツアーはテーマ別に26本、マルセイユのシティーツアーは、サッカー日本代表の酒井宏樹選手が所属するオリンピック・マルセイユのスタジアムツアーなど5本が設定された。

また、RDVF2019会期中のイベントも趣向が凝らされ、ウェルカムレセプションの会場はマルセイユ都市開発の象徴のひとつ「欧州文明博物館(MuCEM)」。2日目の夜はマルセイユの町を見下ろせるファロ宮殿を貸し切り、「The Time Travel Night!」をテーマに音楽とパフォーマンスでマルセイユの今昔を表現するとともに、南仏自慢の料理をアピールした。

広域連携でプロヴァンスをブランディング

RDVF2019では、ホスト地方であるプロヴァンス-アルプス-コートダジュールを広域に統括するプロヴァンス地方観光局のブランディング戦略も発表された。プロヴァンス地方観光局は日本版DMOで言う広域連携DMOの立ち位置。そのもとに、ブッシュ・デュ・ローヌ県観光局など県を統括する組織(日本版地域連携DMO)、さらにマルセイユ観光会議局など各都市の観光プロモーションを担う組織(日本版地域DMO)がパートナシップを組み、国際観光客の誘致に向けて統一したブランディングを展開する。

プロヴァンス地方観光局局長ロイック・ショブロン氏

プロヴァンス-アルプス-コートダジュールを訪れる観光客数は年間約3000万人。そのうち海外からのインバウンドは約600万人。宿泊者数は合計で年間2億1800万泊人にもおよぶ。プロヴァンス地方観光局によると、2018年の日本人宿泊数は10万5000泊人。フランス国内で発生したテロの影響で、2016年の日本市場は急激に冷え込んだものの、2018年は前年比25.5%増とV字回復し、2019年も同程度の伸び率を見込んでいるという。

プロヴァンス地方観光局が国際市場で掲げるブランディングテーマは、歴史建築、アート/風景、花、ガストロノミー、スポーツ、音楽、ショッピングの7つ。それぞれのタグラインの頭に「More than」を付け、期待を超える観光を印象づける。ただ、プロヴァンス地方観光局局長のロイック・ショブロン氏は、市場によってそのプロモーション戦略は異なると話し、「長距離市場であれば、有名な観光素材をより多くプロモーションし、短距離市場では新しい素材を紹介していく」方針を示す。また、アピールする素材だけでなく、「たとえば、カナダ人旅行者は気さくでくだけた雰囲気を好むが、日本人旅行者に対しては礼儀正しく、敬意をもって接することが大切になる」と話し、受け入れ側は「おもてなし」を各マーケットの特性に従って柔軟に変えることが大切だとした。

ブッシュ・デュ・ローヌ県観光局局長イザベル・ブレモン氏

美食大国フランスらしく、7つのブランディングテーマのうちガストロノミーへの力の入れ具合が強い。ブッシュ・デュ・ローヌ県観光局局長のイザベル・ブレモン氏も「日本人旅行者には、ガストロノミーを含め伝統的なプロヴァンスの観光素材をアピールしていきたい」と話す。日本を含め各国が海外からの旅行者誘致のキラーコンテンツとしてガストロノミーを押すが、プロヴァンスではさらに踏み込み、2019年はガストロノミーイベントと紐づけたプロモーションを展開している。

そのイベントとは、プロヴァンスのガストロノミーに焦点を当てた「MPG2019 (マルセイユ・プロヴァンス・ガストロノミー2019)」。今年3月から12月まで開催され、マルセイユを中心としたブッシュ・デュ・ローヌ県一帯でシェフによるトークイベント、料理教室、食の見本市などさまざまなイベントが開催される。RDVF2019期間中には、そのローンチイベントも実施。マルセイユにある世界各国のレストランが集結し、自慢の料理をふるまった。「MPG2019はガストロノミーだけでなく、それに関わるプロヴァンスのライフスタイルも紹介するもの」とブレモン氏。土地と食との関連性を特徴づけるテロワールを通じて、観光デスティネーションとしてのプロヴァンスを売り込んでいく。

MPG2019のイベントではマルセイユで活躍する日本人シェフ上村一平さんの和食も出展

日本市場の課題はパリからの分散化

プロヴァンス地方への日本人旅行者数は回復を見せているが、課題もある。マルセイユ観光会議局局長のマキシム・ティソ氏は「パリやモンサンミッシェルに集中している日本人をどのようにプロヴァンスまで誘致するか」を課題として挙げ、日本/フランス間の航空ネットワークは拡大しているものの、フランスへのゲートウェイはパリのみのため、地方分散化への取り組みが引き続き重要との認識を示す。その問題解決に向けては「近道はなく、地道にマルセイユの基本情報を伝えていくことに尽きる」との考えだ。

マルセイユ観光会議局局長マキシム・ティソ氏

マルセイユは2013年に欧州文化首都に選ばれたことをきっかけに、再開発プロジェクト「ユーロ・ビジネス・メディトラニアン」が加速。かつて倉庫街だったウォーターフロントは大きく変貌した。現在では、RDVF2019のレセプション会場となったMuCEMや「プロヴァンス美術館」、大通りに入れば、「レ・テラス・デュ・ポー」や「レ・ドック・ヴィラージュ」といった最先端ショッピングモールが並ぶほか、隈研吾やザハ・ハディド設計の斬新な建築も林立する。

「こうした変貌を知っている日本人はまだ少ないのではないか」とティソ氏。競合デスティネーションが数あるなかで、どのようにプロヴァンスやマルセイユの存在感をアピールしていくのか。観光局の力量が試される。

このほか、プロヴァンス地方観光局のショブロン氏は、「日本は安全性に最も敏感なマーケット」との認識を示したうえで、「フランスは小さな国だが、多様性がある。ある場所で発生した事象が国全体に及ぶことはない。我々としては、このことを伝え続けていかなければいけない」と強調する。最近では、黄色いベスト運動が日本のメディアでも大きく取り上げられ、デモや暴動の映像が流れた。ティソ氏も「それよる風評が怖い。正確な情報を発信していく必要がある」と力を込める。

ただ、フランス観光開発機構によると、黄色いベスト運動によって、パリでは観光客が減少。現地観光局は、特別予算を準備してダメージの大きなマーケットにプロモーションを実施する予定にしているが、対象となるのは中国やスペインで、日本市場についてはほとんど影響が見られないため対象外になっているという。黄色いベスト運動は2018年11月から週末に断続的に発生してきたが、2018年の渡仏日本人数は前年比18.5%増となった。日本人は依然として安全性に過敏なのか。今後、黄色いベスト運動の日本市場への影響について詳細な動向分析が必要になってくるだろう。

変貌したマルセイユのウォーターフロント。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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