フランスで活躍するサッカー酒井選手に聞いてきた、「暮らす」という視点でみた「マルセイユの魅力」とは?

ワールドカップ・ロシア大会ではサッカー日本代表で不動の右サイドバックとして出場し、現在ではフランスのオリンピック・マルセイユで主力として活躍する酒井宏樹選手と、マルセイユで地元食材を活かした和食レストラン「旅の夢(Tabi no Yume)」を営む上村一平さん。二人とも地元では有名な日本人だ。そして、二人ともマルセイユを気に入り、家族とともに南仏のライフスタイルを楽しんでいる。酒井選手は日本からドイツを経てマルセイユに。上村さんは熊本からマルセイユに。二人が見るマルセイユの魅力を、「暮らす」という視点から聞いてみた。

酒井選手「明るい太陽」、上村さん「太陽の町」

酒井選手がドイツのハノーファーからフランス1部リーグオリンピック・マルセイユに移籍したのは2016年夏のことだ。今年で3シーズン目を迎える。移籍にあたっては、家族も同伴することからマルセイユの生活環境をいろいろと調べたという。「フランスでも治安が悪いところ、と書いている本が多かったので、行く前は少し心配しました」と当時を振り返る。

しかし、実際にマルセイユに来てみると、事情は全く違った。「トラブルは何もないし、なによりもこの明るい太陽は、ハノーファーにはありませんでした。いつも晴れているという印象です」と酒井選手。南仏の気候のよさが普段の暮らしでも豊かさを加えているという。

試合でアグレッシブなプレイを見せる酒井選手だが、インタビューではとても穏やかに答えてくれた

マルセイユに和食レストラン「Tabi no Yume」を開業して15年になる上村さんもマルセイユを「太陽の町」と表現し、「海がきれいで、山が白く、気候が何よりも最高」と続ける。石灰岩で形作られた白い山々は、プロヴァンス地方の地質的特徴で、遠くから不毛な山頂あたりを眺めると、年中雪をかぶったように見える。マルセイユから車で30分ほど海岸線を走ったところにあるカランクも石灰岩の断崖絶壁が独特の景観を作り出していることで観光客に人気の場所だ。

実はこの二人、酒井選手がマルセイユに移籍してから親しい間柄になった。上村さんは「ある日、酒井選手が一人でふらりと私のお店に立ち寄ってくれたんですけど、サッカーにはあまり興味がなかったので、『背の高いおにちゃんが来たなあ』という程度の印象でしたね」と振り返る。酒井選手は酒井選手で自分がサッカー選手だとは告げずに、「これからマルセイユで仕事を始めます」と自己紹介しただけだったという。

それ以降、酒井選手と家族にとって上村さんの「Tabi no Yume」は異国の地で本物の和食を楽しめる憩いの場となっているようだ。「月に一回ほど伺いますね」と酒井選手。上村さんは「お世話になっていますし、お世話もしています」と笑う。上村さんよると、酒井選手は特に魚料理が好きなようで、「だから彼にはマルセイユはぴったりですね」と言う。食べること自体も好きで、「特にマルセイユに来てからは食に興味を持つようになったみたいですね。おいしいレストランを教えてほしいとよく聞かれます」と明かす。新鮮な海の食材と確かな腕を持つシェフが多いマルセイユ。旅行者だけでなく、地元に暮らす人たちにとっても食事は豊かな生活の大事なワンピースだ。

上村さんは、マルセイユを代表するシェフとしてMPG2019 (マルセイユ・プロヴァンス・ガストロノミー2019)のローンチイベントに出展した

「オリンピック・マルセイユは地元の人たちにとって特別な存在」

酒井選手はオリンピック・マルセイユの中心選手として年間約60試合を戦う。フランス各地でのアウェイゲームも多く、シーズン中は「ほとんどオフがない状態」。遠征先でもホテルとスタジアムとチャーター機の往復で、試合が終わるとすぐにマルセイユに戻ってくるという。「だから、正直なところマルセイユの町を観光したことがないんです」と笑う。時間がないというだけでなく、あまり人の多いところには行かないようにしているという。「オリンピック・マルセイユはマルセイユの人たちにとって特別な存在なんです。その選手が町を歩いていると、ちょっと大変なことになってしまう」。

その酒井選手の「仕事場」となるスタッド・ヴェロドロームは、旧港の南、マルセイユの中心プラド通りの先にある。収容人数は約6万人。流線型の屋根が美しいスタジアムだ。スタジアムツアーも提供されており、観客席に入れるだけでなく選手用のベンチに座ることも可能で、選手のロッカールームやリカバリールーム、記者会見場まで見学する。また、スタジアムショップも併設。もちろん、背番号2の酒井選手のレプリカユニフォームも入手することができる。

「チームとの契約が切れたら、いろいろなところに行ってみたいですねえ。たとえば、牢獄としても使われていたイフ島の要塞はぜひ行ってみたい」と酒井選手。シーズン中に日本から家族や友人がマルセイユを訪れることもある。酒井選手は町の観光に同行することはできないが、「マルセイユの旧港を見下ろせるノートルダム・ド・ラ・ガルド寺院はよかった」とよく聞くという。

「ヒロキはマルセイユの親善大使」

フランス国内では、ショッピングや知人に会うために、たまにパリに行くという。「飛行機も頻繁に飛んでますし、TGVもあるので気軽に行ける」ようだ。「住むのはマルセイユ、買い物はパリというのが最高ですね。移籍クラブを選ぶとき、プレイスタイルや規模もそうですが、やはり家族がいるので、どういった町かも大切です。マルセイユに来てみると、総合的に見てここよりも上があるかどうか・・・」。

酒井選手の友人でもあるマルセイユ観光会議局局長のマキシム・ティソさんは、「当初は『なぜ日本人プレイヤーを獲得したんだ』と言われていましたけど、今ではオリンピック・マルセイユには欠かせない選手」と地元の声を代弁し、「今は、ヒロキは日本でのマルセイユの親善大使のような存在になってますね。このままずっとマルセイユでプレーしてくれればいいんですけど・・・」と続けた。酒井選手は5月の全4試合にフル出場。ファンが選ぶ5月の月間MVPを受賞した。

実は酒井選手のほかにもフランス国内でプレーする日本人サッカー選手は多い。日本代表にも選ばれる昌子源選手は今シーズンからトゥールーズに移籍し、W杯ロシア大会でゴールマウスを守ったキーパーの川島永嗣選手はRCストラスブールに所属。また、なでしこジャパンの主将を務める熊谷紗季選手は2013年からオリンピック・リヨンで活躍する。オリンピック・マルセイユにはかつて日本代表ミッドフィールダーの中田浩二さんも2シーズン在籍していた。サッカー選手はメディアで取り上げられるケースが多いため、所属チームだけでなくホームタウンの露出にもつながる。酒井選手のように主力として活躍していればなおさらの話だ。

マルセイユは夢の実現に一番近い場所

酒井選手も上村さんと一緒に、マルセイユの観光促進に一役買ったことがある。2017年にフランス観光親善大使に就任した「くまモン」が同年夏にマルセイユを訪問し、二人とともにマルセイユの観光情報を発信した。「これからもお世話になったマルセイユに恩返しができるように日仏関係の発展に貢献していきたいですね」と上村さん。日本独自の魚の神経締めの技法や魚の扱い方などをフランスでもっと広めていくことが夢だという。

酒井選手は「このチームでヨーロッパチャンピオンズリーグに出たいですね」と話す。ヨーロッパチャンピオンズリーグはヨーロッパ各リーグの上位チームが出場し、クラブナンバーワンを決めるもので、サッカー選手憧れの舞台だ。「日本代表としてワールドカップも経験させてもらいました。チャンピオンズリーグに出ることができれば、サッカー選手としての夢がすべて叶う。僕にとって、マルセイユはその夢に一番近い場所だと思うんです」 。

オリンピック・マルセイユではもちろんのこと日本代表でも今後の活躍が楽しみだ

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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