日本型IR(統合型リゾート)理解の3つの基本ポイント - 公共政策とも言える巨大新市場を考える

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統合型リゾート(IR)を知るシリーズ 連載第3回

2020年代の開業が想定されている統合型リゾート(IR)による、日本の観光産業の変化を分析する本シリーズ。日本の誘致動向、ホテルやMICE施設などの量的変化を追った連載1回、2回に続く第3回は、観光産業に与える質的変化を分析する。

巨大VIP市場が誕生

IRによって想定される観光産業の質的な変化はどのようなものか。1つ目がVIP市場である。IRを契機に、日本でもVIP市場が本格的に立ち上がることは間違いない。

プライベートジェットが所狭しに駐機するラスベガス・マッカラン国際空港。各リゾートがVIP客のリストを持ち、プライベートジェットを手配することで彼らをラスベガスまで呼び寄せている。日本にIRができた場合、日本の空港でもこのような光景が頻繁に見られることになる。

ただ、日本はプライベートジェットの利用があまり進んでいない。

羽田空港でさえ、プライベートジェット用のラウンジは簡素で、駐機場も空港の端。ラウンジから機体にたどり着くだけでも簡単ではない。しかも、プライベートジェットの運航は、繁忙な商用機のダイヤの合間を縫って行われている。VIP客がプライベートジェットに望む移動の快適性、時間の短縮性、スケジュールの柔軟性は大きな課題だ。

また、VIP客用の飲食店や観光スポットは、プライバシーを確保しながら、嗜好に合わせた独自のサービスを提供する必要がある。豪華な建物や最高級の料理だけでなく、非公開エリアへの入場、人間国宝との交流といった特別感がタイムリーに求められる。これまでは数少ない人が対象で何とかオペレーションできていたかもしれないが、国内3カ所のIRが自分たちの顧客リストを駆使し、世界中から日本にVIP客を呼び込んでいる。その行動範囲はIRだけにとどまらず、近隣はもとより日本全国に広がるだろう。

オペレーションの熟度は一朝一夕には上がらない。数年後のIR開業を見すえ、VIP客へのサービス開発は不可欠。VIP市場へのアプローチは、一般消費者の市場とは、まったく違ったものとなる。

IRリテラシーの重要性

では、IRという超巨大市場に対し、観光産業に関わる各社は、今日から何をしていけばよいのか。第一歩は、IRを理解し、日々の情報を自社のビジネスに結び付けて解釈するところから始まる。基本的なポイントは以下の3つだ。

1)日本のどこにIRができるのか

2)いつ頃IRが開業するのか

3)どこの企業がIRの運営を担うのか

発表される情報も、3つのポイントに沿って以下のように分析できる。

「和歌山県がIR誘致に関する有識者会議を開催した」


→大阪府・市や長崎県に続き、和歌山県も行政としてIRの誘致に正式に乗り出している。近隣に有力候補である大阪があるが、地元有力議員の影響力も考慮すると、和歌山はIR候補地のひとつとして無視できない、ダークホース的な存在。※1)の要素

「政府が秋の臨時国会にカジノ管理委員会の国会同意人事案を提出する方向」


→当初5月までだった国会同意人事予定が政治的な配慮で延期。ただ、臨時国会に同意人事案が提出されることで、半年遅れでカジノ管理委員会が発足し、他のプロセスも進む。後ろ倒しになったことで、やや進度が遅れ気味だった横浜や北海道が追いつく余地が出てきた。※1)の要素。

一方、半年の遅れは2025年の大阪万博前のIR開業を望む大阪府市にとっては極めて大きな痛手だ。万博前開業はより厳しく、2026年以降の開業となるだろう。※2)の要素

「メルコリゾーツと横浜F・マリノスがパートナーシップ契約を締結。」


→横浜市において正式なIR招致は表明なされていないが、メルコリゾーツは横浜でのIR運営をにらみ、地域貢献の実績づくりや地域関係者とのネットワークづくりを進めている。横浜への進出に対する同社の本気度が伺えるニュース。※3)の要素

観光産業ならではの知恵や提案を提供

次のステップは、前述のようなIRを取り巻く動きを理解した上で、具体的に自社の事業方針を立て実行していくことになる。「IRの開業までまだ5年以上。現行の中期経営計画の期間外だ」などと、後回しにしてはならない。不動産の取得や建物の建設、事業分野/地域の拡大など行うのであれば、5年程度などすぐに経ってしまうからである。

IR事業者と共同でIRを開発していくならば、まさにこの先数か月間が鍵。IR開発のプロセスの最初の関門である自治体による事業者選定が、早ければ2019年の年末、あるいは、2020年の初頭より開始されるからである。この選定に応募するためには、IR事業者は日本の企業と「コンソーシアム」を組まなければならない。IR事業者とコンソーシアムを組もうとする事業者は、自治体による事業者選定が始まる前に組んでおく必要がある。

IR事業者は、観光産業側からの事業提案を期待している。IR整備法には、魅力増進施設や送客施設といった、IRへの来訪者に日本の魅力を伝え、日本各地に周遊観光させるための機能を盛り込むことが法令で定められている。具体的にどのような機能するか。自治体や国の事業者選定では、魅力的な提案が鍵になる。

これらは他国にはない日本独自の要件。日本政府も「民間企業による創意工夫」を尊重するとして、具体的な内容は事業者側に委ねている。世界各国でIRを開発してきた経験豊富なIR事業者も、魅力増進施設や送客施設は未知の世界。まさに、日本市場に精通した観光産業側からの提案が求められている。

コンソーシアムに参画しない場合も、IRで必要な物品やサービスのサプライヤー、輸送や旅行手配などの関連事業を行うことも考えられる。IR事業者の意見も聞きながら、来るべき時に備えて事業を再編成していくことも重要だろう。IRはこれまで日本が経験したことのない新たな観光産業。各社の経験や能力をベースに想像力を働かし、知恵や提案を出し合うことが重要だろう。

「日本型IR」の実現に向けて

IRの法制化での議論において、政府は繰り返し「日本型IR」について言及してきた。具体的には、MICE誘致戦略の中核、多様なエンターテイメントやアクティビティ提供、日本の旅のゲートウェイ、さまざまなニーズを生み出す宿泊施設といった機能だ。これらの機能を有する「日本型IR」がカジノ収益を活用して一体的に整備され、国際競争力のある他滞在型観光を実現することで、2030年に訪日外国人客数6000万人、旅行消費額15兆円を目指す青写真である。

民間事業者の資金、自由な発想を活かし、魅力的で高い経済効果を有する施設の実現が期待されるIRは、観光産業の飛躍のために進められている公共政策といっても過言ではない。

*この記事は、IR専門家のアドバイスのもと、トラベルボイス編集部(IR取材チーム)が執筆したものです。

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