世界大手ブッキング・ドットコム本社で、最新動向を聞いてきた、宿泊予約は4割が民泊、レストラン予約も開始へ

ブッキング・ドットコムは、アムステルダムにある本社で同社ビジネスの最新状況を説明した。現在の同社が掲載する宿泊施設の数は、2800万件以上、販売泊数は1日155万泊。宿泊施設では民泊・バケーションレンタルなどオルタナティブ・アコモデーション(宿泊施設の新たな選択肢)にビジネスを拡大し、タビナカ体験の「ブッキング・エクスペリエンス」も展開。直近では欧州でフライト予約も始めた。オランダ本社で発表された各事業の取り組みをレポートする。

ホームズ&アパートメンツ

グローバル・ホームズ&アパートメンツ責任者のエリック・ベルガリア氏

ブッキング・ドットコムは、ホテルや旅館など従来の宿泊施設に加えて、アパートメント、別荘、ヴィラなど、いわゆる「オルタナティブ・アコモデーション」の事業も拡大させている。グローバル・ホームズ&アパートメンツ責任者のエリック・ベルガリア氏は「旅行者の期待は常に変わり続けている」と話し、マーケットニーズに合わせたリスティングを揃えることの重要性を指摘した。

現在、ブッキング・ドットコムが取り扱うオルタナティブ・アコモデーションの掲載数は世界で600万件以上。実に宿泊施設全体の20%強を占めるまでになった。2018年の収益は全体の20%に相当する約28億ドル。ユーザーの約40%が過去12ヶ月にオルタナティブ・アコモデーションを予約しているという。

ベルガリア氏は「世界の旅行者の40%がユニークな旅行を求めている」との調査結果を報告。同社では、プロモーションの意味も含めて世界でユニークな施設を展開しており、日本でも期間限定で増田セバスチャン氏監修の「KAWAII Japanese Room – Addicted to Tokyo」をオープンした。

また、オルタナティブ・アコモデーションは、ユニークな宿泊体験だけではなく、その多くが郊外にあるため、観光客の都市部からの分散化という点から、「持続可能な観光」にも有効という考えも示す。ベルガリア氏によると、「世界の旅行者の51%が、混雑を避けるため、あるいは節約のために、郊外に泊まりたいと考えている」という。

ブッキング・エクスペリエンス

グローバル・エクスペリエンス部門VPのラム・パパトラ氏

ブッキング・ドットコムは、今注目のタビナカ体験でも積極的に事業を展開している。現在のところ、150以上の都市で利用可能で43言語に対応している。ローカルな予約プラットフォームを含め競争が激しい分野だが、グローバル・エクスペリエンス部門VPのラム・パパトラ氏は、ブッキングの強みを「宿泊プラットフォームとして最大のオーディエンスを掴んでいるところ」と話す。

同社では、「コネクテッド・トリップ」としてさまざまな旅行素材のシームレスな予約を進めており、エクスペリエンスもその重要なひとつだ。パパトラ氏は「ブッキングの宿泊ユーザーに、AIを活用して、関連性の高いエクスペリエンスも紹介できる」とテクノロジーの高さも強調する。

ローカルツアーやチケットの予約だけでなく、地上交通もエクスペリエンスのひとつとして強化しており、事前予約制のタクシーは120カ国750都市で利用が可能。さらに、ライドシェアのDidiやGrabともパートナーシップを形成。東南アジアのGrabとは、双方向で予約が可能な仕組みを整えた。さらに、傘下のオープンテーブルに加えて、ブッキングでレストラン約も始める計画だ。

課題はパートナーとの接続。「タビナカ市場は細分化され、小規模なプレイヤーではデジタル化が遅れている」とパパトラ氏。ブッキングとしては、ツールやサポートを提供することでそうしたプレイヤーを支援していく考えだ。

カスタマーサービス

グローバルCS戦略プロジェクトディレクターのパトリック・ハウブリッグス氏

ブッキングでは、OTAでありながら、世界のユーザーとパートナー向けに24時間無休のCSサービスを展開している。その従業員数は世界17ヶ所で8000人以上。日本でも大崎にCSセンターを構えている。グローバルCS戦略プロジェクトディレクターのパトリック・ハウブリッグス氏は「最新のテクノロジーとおもてなしで、ロイヤルティを勝ち取り、リビーターを増やす」とその狙いを話す。

人力によるサポートに加えて、2017年には「ブッキングアシスタント」をローンチ。現在、人力CSの前段階として、問い合わせ利用者のうち10%が利用し、そのうち60%がチャットボットによる自動応答だという。チャットボットは12言語で提供。ハウブリッグス氏は「80%のユーザーが機械による対応でいいと回答しており、問い合わせの対応も変化してきている」と明かす。

また、社内でCS体制を持つメリットは、リアルデータが収集できるところにあるという。ブッキングアシスタントが残した内容は、パートナーも確認することができることから、「CS対応の時間も節約することができ、サービス向上に集中することができるようになる」と強調した。

サステナビリティ・トラベル

CSRグローバルマネージャーのマリアンヌ・ギベルス氏

「旅行者の増加がもたらす悪影響が顕在化してきた。世界にさまざまな旅行体験があるが、みんな同じところに行きたがる」。CSRグローバルマネージャーのマリアンヌ・ギベルス氏は世界の旅行市場の現状をそう説明する。環境への影響、天然資源の過剰利用、そしてオーバーツーリズムによる観光地への負担。ブッキングでは、そうした社会問題の解決にも取り組んでいる。

同社の調査によると、86%がサステイナブルな旅行を希望するが、60%が実現できていないと回答。「コンセプトには賛成できるが、行動ができない。それは簡単な選択ではない」とギベルス氏。同社が行ったA/Bテストでは、体験のリスティングに「サステイナブル」というサインを入れても、何の変化も起きなかったという。「実際に何を意味するのかまだ理解が進んでいない」のが現状。ブッキングとしても、旅行を持続可能に発展させていくために、「この矛盾を解決していく。啓蒙と理解が必要」との考えだ。

その一貫として、サステイナブルな事業を立ち上げたスタートアップを支援する「Booking.com Booster」というプログラムをローンチ。毎年、数社を選定し資金支援を行っている。

実際のところ、本社があるアムステルダムでもオーバーツーリズムの課題が深刻化している。ギベルス氏は、「CSRの取り組みは、コネクテッド・トリップの考え方に関わること。体験でも宿泊でも、アムステルダム中心ではなく郊外に足を伸ばす機会を提案していくことが大切」と付け加えた。

アムステルダムでは、ブッキングが取り扱うユニークな宿泊施設も視察。「Hotel Not Hotel」は館内全体がリビングルームのようなホテル。写真背後の本棚が部屋へのドアになっている。「ClinkNOORD Hostel」は、1920年代のロイヤルダッチシェルの研究所を利用。個室やドミトリーのほか、キッチンやカフェなども備える。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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