農泊で地域と事業者の化学反応は起きるか? その後の「とやま遊水会地域協議会」×「アクトインディ」を追いかけた

JTBは昨年12月、農林水産省が推進する「農山漁村振興交付金(農泊推進対策)」における「農泊多分野連携推進事業」を活用して、農泊地域と地域外の多分野の事業者を結びつけるマッチング会を東京で主催した。そこでマッチングしたひとつが、富山市水橋の「とやま遊水会地域協議会」と子どもとおでかけ情報サイト「いこーよ」を運営する「アクトインディ」。漁業体験の提供で地域を活性化させたいという想いと、子どもたちによる本物の仕事体験を事業化させたい想いは、その後どのように融合したのか。富山で行われた事業化に向けた動きを追いかけてみた。

「箱物」に頼らない観光による地域活性化を議論

とやま遊水会地域協議会は、富山市水橋での農泊を推進していく目的で水橋漁民合同組合によって立ち上げられた。水橋はホタルイカの群遊地として知られており、漁期の2月〜5月にかけて港は活気を見せるが、新鮮な地魚が楽しめる観光施設「きっときと市場」を持つ新湊などと比べると、外から人を呼び込む力がないのが現状だ。大規模な海岸公園の造成構想もあるが、莫大な予算が必要となるため進捗しておらず、「箱物」に頼らない現実的な観光での地域活性化を模索している。

地元住民のあいだでは持続可能な地域創生に向けた問題意識が共有されており、地域活性化の取り組みに関する議論を定期的に実施。現在は港にある「旧とやま市漁協水橋支所」の再活用について話し合いが継続しており、1階はフリースペース、2階はレストランに改修し、屋上では夏にビアガーデンを行う方向で調整が進んでいるという。

このほか、定期会合では住民から水橋の観光による地域興しの声も上がる。

「海岸線のサイクリングコースやマラソンコースの中継地点としての価値を出していけばいいのでは」

「水橋は角川書店の創設者である角川源義の出生地であることをもっとアピールすればいいのでは」

「釣った魚を自ら捌いて食べられる、学びのような場所があれば」

「いろいろやっても一過性の自己満足で終わってしまう。通年で人を呼び込めるものを考えるべき」

「地元の学生も巻き込んで、次世代の地域づくりを」

参加者のあいだで危機感への濃淡はあるものの、「住んでいる地域をよくしたい」というベクトルは同じ方向を向いている。

山、川、海のエコシステムでの仕事体験を模索するアクトインディ

アクトインディが運営する「いこーよ」はファミリー向けのお出かけ情報サイトだが、旅行情報の提供だけでなく、地域の体験から地域と継続的につながりを持ち、地域での消費を増やす関係人口の創出にも力を入れている。プログラムの開発から実地検証を行い、プログラムが商品化されれば現地送客を支援し、最終的に地域で自走できるようにフォローしていく。今回のとやま遊水会地域協議会との打ち合わせは、この一連の流れの入り口にあたる。

アクトインディは、日本財団の「海と日本PROJECT」の一環として、伊豆や茨城県大洗などで、親子で海について学び、海を体験する「海にいこーよ」を展開し、現地に多くの親子を送客した実績がある。

しかし、アクトインディの山部大輔氏は、「富山水橋の案件は少しチャレンジング」と話す。ひとつは、関東以外での取り組みのため集客に工夫が必要なため。もうひとつは、あらたな挑戦として、水橋での漁業体験だけでなく、山と川の仕事体験を組み合わせたプログラムを構想しているからだ。富山は、立山連峰などの山々、そこから流れ出る川、そしてその川が流れ込む海が地域的にコンパクトにまとまっていることから、エコシステムの中での仕事体験の着想を得たという。

水橋漁民合同組合で「お仕事体験」でできること、できないことを整理し、可能なプランをつめていった。

課題を整理し、実現可能な海の仕事体験をすり合わせ

体験のプログラム化に向けては課題を整理する必要がある。プログラムの中心と位置づける海の体験で、まず課題として挙がったのが漁業方法と開催時期。アクトインディは、集客の面からも「親子の夏休みお仕事体験」として売り出したい考えだが、水橋での漁期の中心は1月から6月頃にかけて。特に3月から6月はホタルイカのシーズンで忙しくなる。夏は基本的には陸での作業が中心になるという。

水橋側としては、水橋の独自の漁法である「藁網定置網」を体験してもらい、水橋の漁業文化も紹介したい考えだが、夏の時期は漁獲量が少ないうえに、船上にとどまる時間も長いため、カゴ網での収穫を提案。カゴ網であれば、あらかじめ設置してあるカゴを海上で引き上げるだけ。夏でもタコなどの漁獲が期待でき、数カ所に仕掛けてあるので、いずれかのカゴで漁獲が期待できるという。水橋漁民合同組合の安倍久智組合長は「カゴであれば、朝の9時から10時の出航でいいのでは。夏は昼になると風が強くなる」と提案し、体験の方法と時間が具体化した。

漁船を遊漁船として利用するためには、開業申請が必要となる。水橋漁民合同組合ではすでに1船12人(12歳以下は半人扱い)の乗船の許可を遊覧船として取得しているが、開業申請を取得した後に、釣りやカゴ網漁のみ可能になる。現在、開業申請中(2020年1月現在)。さらに、今後の課題として、定置網漁体験をどのように具体化していくか検討しているところだ。

このほか、アクトインディは、漁場に出る前に水橋の漁業文化や山と川との生態系のつながりについて学ぶ座学の機会を提案することで、水橋側の希望も組み込むことにした。それに対して安倍組合長は、「藁網」の編み方を教える機会を設けたいと応えた。藁網はホタルイカを追い込むこの地域の伝統的な定置網のこと。製作するには時間も手間もかかるが、化学繊維の網とは異なり、藁は使用後そのまま海底に沈み自然に分解されるため、極めて環境に優しい漁法だという。

時期については夏の開催で固まったものの、両者は2020年特有の問題に頭を悩ませた。今年7月24日から8月9日まで開催される東京オリンピックだ。アクトインディは「このビッグイベンドが親子の旅行需要にどのような影響があるのか読めない」と明かす。それでも、7月23日からの4連休は地元のお祭りのため対応が難しいという水橋の事情も考慮し、五輪閉会式の8月9日(土)と10日(日)を仮押さえにすることで、企画の詳細を詰めていくことにした。

漁業体験で利用される予定の二隻の漁船。

商品のストーリー化に向けて山と川の仕事体験を模索

「富山では山と川がきれいに保たれているから海の恵みが豊富というストーリーでプログラムを造りたい」と希望するアクトインディ。山と川の仕事体験については、水橋漁民合同組合の手を離れ、富山市農林水産部農業水産課の田中輝昭氏からアイデアを受けた。

田中氏は、富山市婦中町の牛嶽神社付近での簡単な林業体験、神通川での河川清掃、鮎のつかみどり漁獲体験などを紹介。ただ、地元協力者からは、費用や人的負担などについての課題の声が上がっているという。また、天候不良の場合の代替についてもさらに詰めていく必要があるようだ。

山部氏は「アクトインディの役割は、ストーリーと演出を加えて、都市の人間と地域とを継続的につなげていくこと。手弁当ではなく、しっかりと事業として自走できるようにサポートしていきたい」と強調。今後、富山市や地元協力者とのすり合わせを続けていくことを確認した(2020年1月現在)。

山と川のお仕事体験については市役所の田中氏とすりあわせ。

アクトインディは、富山での打ち合わせを経て、1泊2日プランと1日プランを構想。1泊2泊プランでは山川海すべて、1日プランは海だけを想定する。参加者は11:00に現地集合。山ではみんなで協力して間伐材一本を切る活動や竹林整備を体験。山から川の場所まで30分ほど移動し、ランチを挟んで14:00頃から河川清掃や鮎の追い込み体験。鮎の追い込みは仕事体験ではなく、レクリエーション的なアクティビティとして組み込む。ここで山から川、川から海につながるストーリーを説明する。翌朝、9:00から10:00にかけて、漁法や漁業文化の座学とカゴ網漁体験。さらに、参加者をチームに分けることで、チームビルディングの活動も組み入れたい考えだ。

あくまで仮想プランだが、昨年12月の東京での農泊多分野連携推進事業マッチングから始まった水橋漁民合同組合とアクトインディとの化学反応は、今年1月の富山での実地視察と具体的な内容の落とし込みで、今夏に向けて形になりつつある。

取材協力: 株式会社JTB

記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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