ホテル業界が今できることは? 需要回復期に生まれる新たなトレンドを、営業・流通・マーケティングの視点から考えた【外電】

2020年1月下旬ころ、中国のホテル業界は、今年の春節の国内旅行者数は4億5000万人と予測していた。ところが新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大で突然「停止ボタン」が作動し、あらゆる動きが急停止する事態となった。

春節の旅行者数は、1億5200万人を下回った。2019年は4億2000万人だったので、中国のホテル業界にとってはマイナス64%の需要減だ。

春節の観光需要が激減したことによる経済的な損失は、現在わかっているだけで5500億元(約800億ドル)。中国レクリエーション観光研究センター(CCRTR)推計によると、今年、中国の観光産業が被る損失額は3兆元に達し、2003年のSARS流行時の10倍となる見込みだ。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続く状況が中国と周辺地域、そして世界のホテル産業界に及ぼすインパクトについて考えてみた。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

SARSと新型コロナウイルスを比較すると

まず、SARSと新型コロナウイルスは、同じ疫病とはいえ、かなり性質が異なる。目下の感染拡大のスピード、患者数、死亡者数、流行期間のすべてにおいて、すでに新型コロナウイルスはSARSを上回っている、あるいは、確実に上回る勢いだ。今となっては、SARSなどささいな出来事だったと感じるほどだ。

加えて、ホテル産業の規模は、当時より格段に大きくなっている。中国国内のホテル数を比べると、2019年は、2003年の50倍に拡大している。

このような違いはあるものの、SARS流行時の経験から学べる部分もたくさんある。例えば需要回復に必要な時間の長さや、スピード感などだ。

中国では2003年7月、中国国家観光局(CNTA)は公式に地域間および海外への渡航制限を解除したが、ホテル需要の回復はゆっくりだった。旅客数がようやく上向きに転じたのは2003年下半期に入ってから。さらに前半のロスを取り戻す勢いになったのは、この年の12月。ビジネスが「平常通り」に戻ったと感じるようになるまで、流行の収束から丸々1年かかった。

先の見えない営業休止を余儀なくされているホテル業界では、しばらく自宅待機するホテル従業員や経営者が大勢いる。世界各地へ広がりつつあるなか、混乱とパニックの真っ只中にある人もいるだろう。今、大切なことは、冷静さを保つこと。長期的な戦略に重点を置き、合理的に考えることで、色々な解決策が出てくるはずだ。

ホテルビジネスにおける5つの主要分野を対象に、現在の状況下でも、すぐ行動に移せることを以下に挙げた。自ら動き出すことで、需要回復期への道筋をつかもう。

1.レベニューマネジメント、営業、マーケティング

最適なタイミング:ホテル売上予算と見通しをしっかり確認しながら、適宜、必要な調整を加えていくこと。マーケット回復のスピード予測は、悲観的過ぎてはいけないものの、短期的にも中長期的にも現実的な数字であるべきで、これに沿って営業戦略を見直していく。

予測を自動化しているのか、人が行うかには関係なく、特に留意すべき点は、価格コントロールの原理原則だけでなく、スタッフ、オペレーション、キャッシュフローなど、大きな決定に欠かせない要素も考慮することだ。

自動予測やダイナミック・プライシング・ソリューションを使うと、ホテルのオペレーションと、営業マーケティングやレベニュー管理など、バックオフィスでのマネジメント業務の連携がよりスムーズになる。

流通対策、コミュニケーションと安心感:流通チャネルに対するプロモーションや営業活動は、感染拡大が続く中でも、継続して行うべきだ。同時に、企業としての社会的責任を果たし、政府当局や地域コミュニティ、産業界からのどんな要望にも積極的に応じる姿勢は、対外的なイメージを向上する。

感染拡大が落ち着き、需要の回復期に入ったとき、宣伝活動において力を入れるべきポイントは、衛生面や旅行者が安心できる環境についての情報であり、健康を害する不安なく、実り多い時間を過ごせるかどうかだ。

SARS流行の直後、誰もが旅行することに不安を感じるようになり、需要リバウンドの兆しはなかなか見えなかった。健康と旅行時の安全についての広報宣伝は、こうした懸念の払しょくに大きな役割を果たす。

幸い、アジア太平洋地域には、宣伝活動や広報記事をのせる場はいくらでもある。ブランド各社の公式ウェブサイト、ウィーチャットのブログ、Little Red BookやDou Yinなど中華圏で人気のソーシャルメディア・プラットフォームなど。適切な時期が来たら「すべて問題なし」というメッセージを発信するのもよい。

当面の間は、毎日のチャネルマネジメント業務が普段のルーティン通りにはいかないところが多いだろう。予約を入れる利用者が、どの流通経路にもほとんど見当たらない。こういう時期は、ホテル・ブランドのポジショニングを固めることに力を入れ、キー・メッセージを届けよう。

同時に、ホテル営業チームと流通マネジャーが忘れてはいけないのは、それぞれが日頃から担当しているクライアント企業や流通パートナーとのコミュニケーションをとり、関係を維持する工夫だ。クライアント企業とのつながりをおろそかにしてはいけない。相手の状況を思いやること、そして旅行や予約に関する方針の見直しなど、取引先の新しい動きをしっかり把握しておこう。

こうした努力は、感染拡大が収束した後、ホテルの需要回復をスピードアップし、平常通りの業務に戻るまでに要する時間を短縮するのに役立つはずだ。

適正な顧客:顧客の行動パターンによく注意しよう。マーケティングチームのスタッフ体制が十分であるなら、今後の分析と予測に取り組むべきだ。販売トレンド、マーケットセグメント、顧客プロフィールにおいて、流行の収束後、どのような変化が起きるだろうか。

例えば、今回の危機が去った後、まずは感染拡大の影響が軽微だった地域を中心に、日常的な飲食の消費が回復するのではないか。個人で動く出張者の渡航需要は、大型の会議需要よりも早い段階から回復する。営業やマーケティング部門を率いるリーダーは、こうしたトレンドに対する嗅覚を鋭くし、タイミングよく対応できる体制を整えよう。

現在、ホテル各社は競争状況の分析に力を入れているが、今後は、より深いところまで分析し、宿泊ゲストたちが潜在的に抱えている深層心理や要望、期待、満足度まで探り出すべきだ。

適切なプロダクト:回復期に入った後のマーケットセグメントには、かなり大幅な変化があるはずで、ホテル経営者はこれにうまく対応する必要がある。自社の狙っている顧客セグメントは、本当に適切だろうか。自らの競争力が最も発揮できる顧客層を見極めよう。

財務面では、通常の営業活動から得られる売上について考えるのはもちろんだが、他にもホテル業務の中から、新しい収入源になるサービスはないか、幅広く検討してみよう。例えばフードデリバリー、プロの技で差別化したランドリー、リムジンサービスなど。Eコマースを活用して、バスローブ、ベッド・リネン類、電気製品など、ホテル内で使っている商品をアピールしたり、販売することもできる。

可能であれば、ホテル内に従来よりも除菌を徹底したフロアを設け、厳しい感染防止策を導入するなど差別化したプランを提案するのはどうだろう。

  • AI技術を使ったセルフサービス導入により、他の人との接触がなくなる
  • モバイルアプリで客室内をコントロ―ルできるようにし、操作ボタンに触れる必要がない
  • 特別な研修を受け、審査に合格したハウスキーパーによる客室清掃の実施
  • 新鮮な外気を取り入れた空気の循環システム、床にはエアロゾル感染を防ぐための排気口を設置
  • 一人ひとりの体温チェック

そのほか、宿泊日数の延長サービスや、客室をサービスアパートメントとして提供することも、キャッシュフローの安定的な確保に役立つので、検討してみる価値はある。

適正な価格:自社ホテルの競争相手と市場トレンドにフォーカスしながら、価格戦略を見直し、調整を加えていこう。競合相手がどのように反応するか、相手の営業状況をチェックしよう。

余力がある場合は、価格の割引幅を広げよう。また、近隣にあるすべての競合ホテルについて、自社ホテルと同等クラスの客室レートの動きを追い、供給されている在庫客室や流通ごとの違いを把握したい。

需要が動かない時期は、価格に対する反応が、通常とは違う状況にある。ホテル側には、価値評価やキャッシュフローの状況を踏まえつつ、価格体系を熟考することが求められる。やみくもに値下げしたり、キャンセル規定を厳格化するのは控えたい。

価格決定のベースはサービスの価値であり、価値と価格のバランスが、ホテルの競争力アップと売上拡大のカギになる。

(パート2に続く)

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:COVID-19 and the global hotel industry: A roadmap to recovery, part 1

寄稿者:ユキ・フー氏、エバ・リュウ氏、ジョージ・ユウ氏(IDeaS)

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