JTBの「ブラックフライデー」販売動向を聞いてきた、海外旅行のオンライン予約はセール前の2倍、 円高を知らない若年層が市場をけん引

JTBは、2025年11月18日~12月2日にかけて毎年恒例の「ブラックフライデーセール」を開催した。国内外の通常価格よりも割安な旅行商品を展開。最大5万ポイントを付与するキャンペーンも実施するなど販売促進を強化した。

日本でも定着してきた「ブラックフライデー」。この期間の海外旅行の販売状況から見えてきた新たなトレンドなど、同社ツーリズム事業本部事業推進部国内海外政策担当部長の川原政彦氏に聞いた。

内容重視型の商品の売れ行きが好調

米国の感謝祭(11月の第4木曜日)の翌日の金曜日に行われる大規模なセールイベントが起源の「ブラックフライデー」。日本では11月23日の勤労感謝の日前後から行われるようになり、今ではすっかり定着した。通常よりもお得な価格で消費者の購買意欲を喚起する仕掛けは、その後のクリスマス商戦への呼び水になる。

JTBもブラックフライデーセールでお得な旅行商品を取り揃えた。川原氏は、そのなかでも2025年は「価値あるものを提供した」という。「JTBでは、これまでもタイムセールなどを実施し、お手頃な値段の商品を提供する機会があったが、今回は価値をお安くという考えで展開した」と説明した。例えばホテルの場合、通常は値段設定が高いLグレード(上から二番目のランク)のホテルを仕入れの工夫で手の届きやすい価格で提供した。

その施策の背景には、最近の購買傾向の変化があるという。川原氏は「コロナ禍後は、価格訴求の需要が圧倒的に高かった。しかし、昨年あたりから、『せっかく海外に行くなら、商品の中身を吟味しながら選ぶ』という傾向が強くなった」と説明。いわゆる航空券とホテルだけのスケルトン型よりも、価格は高くなっても、さまざまなメリットが組み込まれた内容重視型の商品の売れ行きが好調だという。

ブラックフライデーセールでは、ハワイの「ハイアット・リージェンシー・ワイキキビーチ・リゾート・アンド・スパ5日間」商品の販売が好調だった。ワイキキビーチの目の前にあるホテルの滞在でありながら価格を抑えつつ、価値として滞在中の「ルックJTBプレミアム・ルアナ・ラウンジ」の利用、「OLIOLIチョイス」のオプション選択、ハイバス(HiBus)やオリオリモビ(OLIOLI mobi)の移動手段などを組み込んだ。

「海外旅行市場は若年層が牽引」と川原氏

円高を知らない若年層が市場を動かす

JTBは、ブラックフライデーセールを店舗とウェブサイトで展開。基本的には同じ商品を販売したが、今年の傾向としては、ウェブサイトでの販売が、ブラックフライデーセール前との比較でおよそ倍に伸びたという。

川原氏は、その理由の一つとして「若年層、特に20代の反応が非常に良く、若者の購買チャネルとしてウェブが好まれた」ことを挙げる。円安が海外旅行の復活が遅れている要因の一つと言われて久しいが、川原氏は「円高を知らない若い世代は、今の為替レートがデフォルトになっているのではないか。今回のブラックフライデーセールでその傾向を感じた」と明かした。

また、若者の購買傾向として、例えば欧州では添乗員同行・現地係員ツアーの商品が好まれるという。川原氏は「価格は高くなるが、効率的にめぐりたいというコスパやタイパを重視する傾向が強いのではないか」と分析。そのうえで、ブラックフライデーセールを通じて「マーケットを動かしていくのは若年層ということを再認識した」と付け加えた。

需要喚起に向けて、「押し活」がヒント

JTBのブラックフライデーセールで海外旅行の人気方面は、ハワイ、グアム、シンガポール。重点的に販売を強化したことが功を奏した。川原氏は「いずれの方面も、セールの効果が数字にも表れている。例えば、ハワイでは若者が増え、グアムではLグレードの『デュシタニ・グアム・リゾート』の販売が好調だった」と振り返る。

欧州では、フランス旅行の商品販売が最も多く、英国、スペインが続いた。全体的に街での滞在型が好まれたという。

ブラックフライデーセールで申し込みのあった20代の出発日の傾向を見ると、予約ベースで85%が2025年度内で、なかでも2月と3月が多くを占めた。20代前半に限ると、77%が2月と3月となっており、学生の春休みシーズンでの需要の高さが見受けられるという。また、川原氏は卒業旅行について「市場が縮小しているという認識は持っていない」と話す。

このほか、ブラックフライデーセールではウェディング商品も展開。人気チャペルでの挙式・フォトプランを中心に1プラン最大5万円引きで販売した結果、海外や沖縄ではフォトウェディングの需要が拡大した。ラグジュアリーフォトプランの販売も好調で、ウェディングの予算とさほど変わらない金額でフォトウェディングを実施する需要も増えているという。

ブラックフライデーセールでは、仕入れに力を入れ、価値と価格を工夫した。川原氏によると、コロナ禍直後は日本の海外旅行需要が急激に萎んだこともあり、日本の海外でのプレゼンス低下によって、仕入れも苦労した。しかし、最近は数は戻り切っていないものの、日本人旅行者の現地消費額が高いことから、「日本市場に再び期待する現地事業者は増えてきている」と話す。

川原氏は、ブラックフライデーセールに限らない海外旅行市場のトレンドについても言及。米国ではロサンゼルス・ドジャースをはじめとするMLBの観戦が旅行の目的になっていることから、「海外旅行の需要喚起に向けては、“押し活”がヒントになるのではないか」と指摘する。

目的があれば手間もお金も惜しまない傾向は若年層以外にも広がっているとしたうえで、「旅の目的については、商品を提供する側も考え、そこにしっかりとした価値をつけて提案していく必要がある」と今後を見据えた。

取材・記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

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