世界の観光産業は、メッセージアプリ「WhatsApp」を戦略的に活用している。現在、WhatsAppのアクティブユーザー数は180カ国以上で30億人以上にのぼる。
ロンドン・ノース・イースタン鉄道は先ごろ、乗客とのコミュニケーション用にWhatsAppチャンネルを開設。エア・インディアは、2024年にWhatsApp上に旅行アシスタントを導入した。また、旅行情報プラットフォームのHolidayPiratesも、旅行のヒントや限定コンテンツなどのメッセージを共有するためのWhatsAppチャンネルを追加した。
WhatsAppを戦略的に活用
WhatsAppを運営するMeta Business Messaging Groupの北米クライアントセールス責任者のクレイグ・グッドフレンド氏は、「ユーザーは、友人、家族、企業とチャットするためにWhatsAppを日常で使用している。だから、企業にとっては顧客が望む場所でつながることが重要になっている」と話す。
WhatsAppは、SMSの代替としてスタートしたが、現在では音声通話に加え、テキストメッセージ、写真、動画、位置情報、文書の共有機能も提供している。
HolidayPiratesは、マーケティングにWhatsAppを活用し、旅行のお得情報、旅行記事、業界ニュースを購読者に直接提供している。同社CMOのミラ・ジェノバ氏は「2024年3月にWhatsAppチャンネルに切り替えて以来、登録者数は8倍の62万5000人を超えた」と明かす。加えて、「現在、トラフィックの4%以上がWhatsAppチャネルを通じて発生しており、高い投資収益率(ROI)に貢献している。オーガニックグロースは予想を上回り、メッセージ送信後、数分以内に多くのクリックが発生するなど、即時のエンゲージメントが見られる」という。
HolidayPiratesにとって、WhatsAppは、単なる補助的なコミュニケーションツールではなく、エンゲージメント戦略と顧客管理の「中核的な要素」になっている。ジェノバ氏によると、WhatsAppが効果的な理由は、即時性、高いユーザーエンゲージメント、パーソナライゼーションというその仕組みにあり、「メールや他のCRMツールと比較して、WhatsAppはクリック率が高く、セキュリティも優れ、ROIも高い」という。
MakeMyTrip(MMT)CMOのラジ・リシ・シン氏は「このプラットフォームは現在、ファネル全体で重要な役割を果たしており、メッセージ主導のコマースとパーソナライゼーションが、顧客体験とパフォーマンスの両方を向上させている」と話す。MMTは旅行の旅程全体を通してWhatsAppを統合し、インスピレーション、発見、予約、タビナカのエンゲージメントまでカバーしている。
2025年のGlobal Startup Pitchで「ピープルズ・チョイス・アワード」を受賞したReplyr.aiは、ユーザーがAIエージェントと対話できるチャットプラットフォームとしてWhatsAppとを連携。ホテルのプロパティマネジメントシステムやアクティビティ予約プラットフォームなどとも接続している。同社創設者のディラン・タン氏は「WhatsAppを使っていない企業は取り残されるだろう」とまで言い切る。
また、タン氏は「マレーシア、インドネシア、シンガポール、香港などでは、ホテル、ツアーオペレーター、宿泊施設などにWhatsAppでメッセージを送信するのは、友人にテキストメッセージを送信するのと全く同じくらい普通のことだ。旅行者に別のアプリをダウンロードしてもらったり、ヘルプデスクを利用してもらったりするのではなく、我々は彼らがすでにいる場所で対応している」と話す。
観光産業でのWhatsAppの未来
Metaは、WhatsAppを企業と人々がつながるための「最良の方法」を考えている。グッドフレンド氏は「最近では、WhatsApp内で企業のウェブサイトの閲覧、飛行機や電車の予約が可能になっている。将来的には、AIが企業の効率性や拡張性を高めていけるような方法も検討していく」と話す。
WhatsAppは旅行・観光事業者のプラットフォームへの参入に期待を寄せている。一方、企業側も統合の価値という点で将来性を感じている。
HolidayPiratesのジェノバ氏は「WhatsAppでリアルタイムで価値を提供することで、他のチャネルでは真似できない方法で顧客ロイヤルティを高め、トラフィックが増加するのを目の当たりにしてきた」という。HolidayPiratesは、この成功をもとに、よりターゲットを絞ったチャネルを模索している。
Metaのグッドフレンド氏は「現在、私たちは、あらゆる旅行会社がWhatsAppを簡単に利用できることに重点を置いている」と話す。
一方で課題もある。HolidayPiratesにとっては、エンゲージメントとリテンションが最大の課題だという。ジェノバ氏によると、ダイレクトメッセージとは異なり、WhatsAppチャンネルをフォローしているユーザーの通知は自動的にオフになる。つまり、ユーザーに通知を有効にしてもらい、重要な情報を確認するために定期的にチャンネルを訪問してもらう必要があるという。
また、セグメンテーションとターゲットを絞ったコンテンツ配信機能が不足していることも制約になっているという。現在の仕組みでは、HolidayPiratesは、お気に入りの旅行先やお得な情報など顧客の嗜好に基づいてオーディエンスをセグメント化することができない。
Replyr.aiにとって最大の課題は、Metaのルールに従って構築する必要があることだ。タン氏は「自動化、メッセージフロー、承認に関して、プラットフォーム側で制約が存在する。ポリシーに違反することなく『AIエージェント』を設計するには、非常に独創的な発想が必要となる」と話す。
WhatsApp以外の方法も模索
活用する事業者はSMSの代替手段として、WhatsAppだけに頼っているわけではない。Replyr.aiはドバイに拠点を置くTelegramとも連携。台湾、日本、タイなどの市場ではLINEのようなローカルメッセージングプラットフォームとの連携も検討しているという。
HolidayPiratesは、最新のメッセージングプロトコルであるリッチコミュニケーションサービス(RCS)に注目している。同社は、旅行者のスマートフォンにインタラクティブなコンテンツやお得な情報を配信するために、この技術の可能性を探る目的でソフトローンチを実施している。
旅行プラットフォームのTravel Pursuitは2022年にTelegramチャンネルを開設。マリオット、ハイアット、シャングリ・ラ、シェラトンなどのホテルも中国のメッセージングプラットフォームWeChatを活用している。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:MESSAGE RECEIVED: WHATSAPP’S ROLE IN TRAVEL INDUSTRY

