ワーケーションは日本に根付くか? フランス観光開発機構の代表に聞いてきた、観光大国の観光政策から働き方・休み方の慣習まで

バケーション大国のフランス。毎年7月、8月は多くの人が1ヶ月近くの長期休暇を取り、バケーションに出かける。一方、日本では、政府主導で「働き方改革」あるいは「休み方改革」が推進されながらも、なかなか浸透してこなかった。しかし、コロナ禍で「ワーケーション」という働き方であり休み方が注目を集め始めている。

観光先進国であり、休み方上手なフランス人の「休み方」や「旅行感」をみると日本の課題も見えてくる。日本に長年暮らし、日本の社会にも精通しているフランス観光開発機構(アトゥー・フランス)在日代表のフレデリック・マゼンク氏に聞いてみた。

「ワーケーションは、最初のプランニングが大切」

コロナ禍の日本で、にわかに脚光を浴びる「ワーケーション」。地方の観光戦略でも耳にすることが多くなり、ホテルや旅行会社でも「ワーケーション・プラン」を造成するところも多く出てきた。Wi-Fi環境をアピールし、長期滞在割引の提供やコワーキングスペースとの連携などを打ち出す事業者が多い。いずれも、休暇中に働く環境として必要なサービスだろうが、実際のところ「ワーケーション」に求められるニーズへの模索は続いている。

「フランスでは、バケーションの取り方は大きく2つに分かれる」とマゼンク氏は話す。ひとつは、バケーションの期間、全く音信不通になる人。毎年、1ヶ月間、仕事から完全に離れ、バケーションから戻ってくると全力で仕事をする。「その人のライフスタイルとして組み込まれているため、社内の人間も毎年のこととして、緊急事態以外、邪魔をしないようにする」。

もうひとつが、同じように長期休暇を取るが、たとえばその期間、毎週水曜日の午前中だけは仕事をすると決めている人。バケーションに入る前に、仕事と休暇のパターンを決め、バケーション中のオンとオフのメリハリをつける。「最初から計画しているので、家族の理解も得やすいし、自身にとってもやりやすい。自分もそのタイプ」だという。

マゼンク氏は、通常の夏であれば、3週間ほどバケーションを取り、フランスに帰国するが、今夏はコロナ禍。分散して夏休みを取り、近場を旅行した。そのうち、伊豆の河津と熱海に4日間の家族旅行に出かけたが、旅行前から金曜日の午後だけは仕事をすると決めていたという。「基本は休暇。ワーケーションは最初のプランニングが大切」と話す。

フランスは、7月と8月に長い休暇を取るが、実は年間の労働時間はドイツよりも長い。OECDの統計によると、2019年のフランスの就業者一人あたりの平均労働時間は1505時間、ドイツは1386時間(日本は1644時間)。有給を含め、バケーション以外の期間の休みが少ないためだ。

日仏両方の社会に精通したマゼンク氏の話は示唆に富むフランスでは「ブレジャー」も当たり前

出張にレジャーを組み合わせる「ブレジャー」もフランス人にとっては当たり前のことのようだ。マゼンク氏自身にとっても、家族同伴で出張に出かけ、仕事が終わったあとにレジャーとして家族と合流する「ブレジャー」は珍しいことではないという。もちろん、家族の旅行費用、仕事後のレジャーは自己負担。

アトゥーフランスは、日本で商談会を開催するとき、現地フランスから観光サプライヤーが訪日するが、出張案件であるイベントの前後で地方へのショートトリップを設定する。もちろん自己負担だが、多くのサプライヤーがそれに参加し、参加しない人も自身で計画して日本旅行を楽しんでいるという。

「誰も損をするものではない」とマゼンク氏。前乗りあるいは延泊しても会社が負担する航空運賃が高くなるわけではない。出張者本人にとっては、知見や経験が深まり、受け入れ側としては、滞在時間が伸び、消費額も増えることになる。「その時の状況にもよるが、ほとんどのフランス人はブレジャーをしているのでは」と明かす。

旅行はライフスタイルの一部

日本とフランスとでは、社会システムも企業文化も異なるが、日仏をよく知るマゼンク氏は「一番大きな違いは、旅行がライフスタイルの一部になっているかどうかではないか」と話す。

フランスが、インバウンド観光に力を入れ始めたのは19世紀のことだという。イギリスの貴族が南仏にバカンスに訪れ始めたころのこと。戦後の1940年代後半には、海外でのプロモーションを本格的に始めた。当時から観光がフランス経済のなかで重要な産業として認識されていた。今でも観光はGDPの約7%~8%を占めている。

日本とは観光産業の歴史の長さも深さも違う。だから、コロナ禍で日本の国内旅行でさえ見られる他地域からの旅行者への拒否反応は、「フランスでは考えられない」という。ロックダウンによる移動規制は別として、受け入れを拒絶する心理的な壁は、国内旅行者だけでなく、海外旅行者に対してもない。「彼らは地域の観光産業を支える人達だからだ」。

多くの人がバケーションで訪れるコート・ダジュール(筆者撮影)国も恒久政策で国内旅行を後押し

フランスは、国の政策として、インバウンド市場だけでなく、国内旅行市場の需要喚起も継続的に行っている。

日本では、コロナ禍で打撃を受けた観光/旅行産業を支援するために「GoToトラベル」キャンペーンを時限的に展開しているが、フランスでは、毎年、一定規模以上の企業で、レストラン、ホテル、交通機関、レンタカー、観光施設などで使用できるホリデーバウチャー「Chèque-Vacances」が配布されている。この原資は国と企業から拠出される資金。経済状況によって、金額は変わるが、休みを取り、旅行に出かけるモチベーションを高める取り組みを長年続けている。GoToトラベルのような起爆剤的の政策ではなく、恒久的な観光政策としてだ。

また、フランスには「ソーシャル・ツーリズム」という制度もあるという。国や自治体が、税金を使い、低所得世帯の子供をキャンプなどに行かせるもの。現在、800軒の宿泊施設が参加し、毎年320万人ほどが利用しているという。マゼンク氏は、「どこにも行かないのは教育的にもよくないという考え方がフランスにはある」と説明する。1年間の海外留学を義務化している大学もあるようだ。

旅行がライフスタイルだけでなく、教育の一部にもなっているフランス。あくまでも「余暇」として観光や旅行が位置づけられている日本。日本でもワーケーションやブレジャーが「文化」として根付く日は来るのだろうか。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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