日本の「観光再生宣言」が発表された舞台裏を、日観振の理事長に聞いた、GoTo再開は「現実的な再スタートを」

日本でもワクチン接種が始まったものの、新型コロナウイルス収束の見通しは立たず、観光業界の厳しい状況が続いている。そのような中、日本観光振興協会(日観振)は、3月初旬に「日本の観光再生宣言」を発表。観光産業は『日本の基幹産業であり、日本経済を牽引するとともに、更なる成長が期待される分野』との認識のもと、再生に向けた決意を業界だけでなく広く一般にも表明した。緊急事態宣言下で発表された背景とは。宣言に込められた思いとは。同協会理事長の久保田穣氏に聞いた。

日観振は、日本の観光振興における総本山ともいえる団体。観光事業者や関連企業、自治体や観光協会など全国約700の観光関係者で構成され、地域と民間が一体となって観光振興に取り組んでいる。

観光の役割を再認識してもらうメッセージ

宣言では『今こそ観光業界は、私たちの果たす役割の重要性を再認識し、一致団結してこの危機を乗り越え、日本の観光の再生そして未来に向かってともに歩むことをここに宣言する』とある。久保田氏は、この文言の背景には、「世論の中で、観光が日本経済で大きな役割を果たし、地域経済の下支えになっているという認識が不足していることがある」と話す。

感染症の専門家は「GoToトラベルに感染拡大の科学的エビデンスはない」との見解を示すものの、世間的にGoToトラベルが悪者扱いされる背景には、「観光に対する認識不足があるのだろう」と続ける。

そのなかで、日観振としては、発信力が足りなかったという反省のもと、観光業界の総意として宣言を取りまとめた。久保田氏は「観光が幅広い経済活動の基盤であるというメッセージが伝えられてこなかった。宣言はそれを表す雛形のようなもの。観光の役割を多くの人に理解していただければ、応援していただける」と期待を込める。

宣言を出しても、お題目だけで終わるのではあれば意味がない。日観振では、宣言への賛同者を募集しており、3月18日には800社を超え、企業や団体が賛同の声を上げているという。久保田氏は「オピニオリーダーやマスコミの理解を深めてもらうツールとして、また各県の観光協会などでも使ってもらいたい」と話すとともに、今後も第2段、第3段の働きかけを検討していると明かした。

久保田理事長へのインタビューは感染対策のためアクリル板を挟んで行われた。ワーケーションやDXの推進で経済界や地域とコラボ

日本の観光再生宣言は3つの柱で構成されている。

「観光の灯を消さない」として、ニューノーマル時代の新しい観光のあり方を追求することで、危機を乗り越えていくこと。「観光産業の生産性の向上」とし、観光産業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を進めて、新たな観光需要を創出すること。そして、「観光産業のプレゼンス向上」として、幅広い業種との連携と共創を通じて、持続可能な地域社会を実現していくこと。

このうち、ニューノーマル時代の新しい観光のあり方のひとつとして、久保田氏はワーケーションを挙げ、日本経済団体連合会(経団連)と協力しながら、普及活動を進めていく考えを示す。「受け地がインフラを整備していも、実際に生産性を上げながら働き方を変えていくのは事業者。経済界を巻き込まないと空回りしてしまう」。

日観振は2020年10月、経団連およびワーケーション自治体協議会と「ワーケーションの推進に向けたモデル事業の実施に向けた覚書」を締結した。この覚書に基づいて、経団連会員企業の人事労務関係者向けに、鳥取県や和歌山県など6地域で視察を実施。「ワーケーションで必要な就労規則を考えてもらった」(久保田氏)。これを受けて、3月16日にその視察の報告と今後の取り組みを議論するシンポジウムを開催した。

久保田氏は「地域は熱心だ。首都圏の産業と地域の産業とのコラボレーションで、地域の課題解決にもつながる可能性がある。地方創生の点でも意味のあること。究極的には、2拠点居住や移住・定住にもつながることもあるだろう」との認識のもと、経団連と協力しながら、仕組みづくりと同時に意識改革を進めていきたい考えを示した。

また、DXについては、日観振としては「旗振り役と情報の共有化」としての役割を担う考え。そのうえで、「観光とその他の事業とを結びつけていく。コロナ前から、異業種で観光をうまく利用しようという動きはあった。それを再度動かす支援をしていく」。

さらに、久保田氏は、DXのひとつとしてMaaSにも言及。「運輸系の取り組みというイメージがあるが、決済や災害情報などとも組み合わせた社会共通資本プラットフォームとして観光を有機的に結びつけることができる」と話し、今後の展開に期待感を表した。

GoToトラベル再開に向けて地域から声を

GoToトラベルは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、昨年12月から全国で一時停止が続いており、再開の目処は立っていない。京都市の昨年11月の日本人ホテル宿泊客数が前年同月比で42.8%増になるなど、GoToトラベルの効果は大きく、観光業界では再開を待ち望む声は強い。

その再開に向けて、久保田氏は「現実的なところから再スタートするべき」との考えだ。「まずは地域から地域内での再開の声をあげて欲しい。そうでなければ、全国での再開にはつながらない」と話す。地域の経済界からも声をあげてもらうために、日観振では日本商工会議所との連携も進めているという。

そのうえで、「受け地では、感染者早期発見に向けて戦略的検査も進めるべきではないか」との認識を示す。観光地や事業者は現在でも、徹底した感染防止対策に取り組んでいるが、さらに踏み込み、たとえば、バスツアーや修学旅行などの団体に対して検査を行なうなど「地域での水際対策」を強化する必要性に触れた。

GoToトラベル再開、その先の市場の本格回復に向けて観光業界が解決すべき課題はまだ多い。その解決に向けて、また、今後起こりうる風評被害に対しても、久保田氏は「(観光業界には)乗り越えていくという覚悟が必要だろう」と提言した。

聞き手: トラベルボイス編集長 山岡薫

記事: トラベルジャーナリスト 山田友樹

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