グーグルの「脱クッキー」は旅行マーケティングの転機か? 今できる対策と注意すべきポイント【外電】

ウェブ上の「クッキー(cookie)」は、ユーザーがウェブサイトを訪問した際に、そのユーザーのPCやスマホの端末側に保存される識別ファイルのこと。サイト訪問した際のさまざまな情報が記録されているため、インターネットやユーザーのデータ収集に欠かせないものとして、旅行ビジネスでも頼りにされてきた。

クッキーには、ユーザーがアクセスした企業サイト(当事者=ファーストパーティー)が直接発行するものや、実際に訪問するサイトとは異なる第三者(サードパーティ)が発行するものがある。このうち、旅行マーケティング戦略において、自社サービスに関心がありそうな消費者を知る重要な手がかりとなってきたのがサードパーティーのクッキーだ。

分かりやすい例が、ウェブサイトを見ている時、バナー広告の枠内などに表示される別のサイトのコンテンツ。この仕組みを支えてきたのがサードパーティー・クッキーだ。クッキーを使うと、ユーザーのブラウザ履歴を辿ることが可能になり、広告主は、それぞれが興味ありそうな内容を提供する。

だがプライバシー保護の観点から、こうした手法の見直しが広まりつつある。グーグルのウェブブラウザ「Chrome」では、2022年までにサードパーティー・クッキーを廃止する予定(廃止時期の延期あり)を明らかにしており、この手軽で便利な仕組みを利用してきた事業者には痛手となりそうだ。

トラベル業界のあらゆるマーケターが対応を迫られている複雑な問題だが、ユーザーを理解し、パーソナライズする体制を目指すならば、残された時間を無駄にしないほうがよい。

フォーカスワイヤ・プラスがこのほど開催したオンラインイベントでは、データソリューションを手がけるアクシオム社のアイデンティティ戦略担当、グロリア・ウォード副社長が出演。「サードパーティー・クッキー廃止は、むしろ改革を進める好機」と話す対談内容を紹介する。聞き手はフォーカスワイヤ編集長のケビン・メイ氏だ。

Q(フォーカスワイヤ):本題に入る前に、今の旅行ビジネスにおいて、顧客について知ることの意義をどう捉えている?

A(アクシオム社):パンデミック禍は、旅行業界では特に深刻で、今年はようやく旅行する人が少し増え始めたものの、海外旅行やビジネス渡航の動きは依然として鈍い。マーケット激変で、過去の情報もあまり参考にならない。デルタ変異株の影響も懸念される。そこでまず、顧客がいま何を考えているのか、現状を把握することがとても重要になっている。

例えば最近では、飛行機よりもドライブ旅行が人気。私自身は、以前よりも早い段階から旅行をプランするようになり、1年先のことを計画している。こんな風に、顧客の行動様式や嗜好は、おそらく大きく変わっている。常に“今”の顧客を知るために重要なのが、データとアイデンティティ、つまり真の顧客は誰で、何をしようとしているのか。これを、どこまで正確に把握できるかだ。

ブランドや企業によるアイデンティティやデータのマネジメントで重要になるポイントは、マーケティングなど特定の部署だけで取り組むのではなく、組織全体で臨むことだ。顧客とのあらゆる接点や関係性、すべてを情報源と捉えることで、相手の姿がよりはっきりと浮かび上がり、ライバル企業よりも、かゆいところに手が届く存在になることができる。

Q:グーグルがサードパーティー・クッキーを廃止することになり、クッキーの終焉などと騒がれているが、現状についてどう思うか?

A:ブランド各社は、アドテックのエコシステム内でクッキーを利用しており、サードパーティー・クッキーは、顧客対応のパーソナライゼーションやリターゲティングに役立てている。それから様々な効果測定や属性の割り出しにも活用している。見直しの動きは、5年ほど前からで、グーグルより早く、すでにサードパーティー・クッキーをブロックしているブラウザも複数ある。クッキー全体の64%はブロックされているとの調査結果もある。グーグルだけでなく、アップルなども同様に廃止する方針で、ブランド各社がこれまでアドテック分野で顧客にリーチしてきた手法には深刻な影響が出てくる。

ただ、この変化は、決してネガティブなものではない。なぜなら、これまで頼りにしてきたサードパーティー・クッキー自体が、決して最善のデータを提供していた訳ではなく、狙った相手に必ずしも届いていないからだ。各社のプラットフォームごとにサードパーティー・クッキーの定義が異なることなどが理由だ。

むしろサードパーティー・クッキー廃止を機に、もっと精度の高いやり方を真剣に模索するようになり、イノベーションが進むのではないか。実際、自社で本格的にファーストパーティー・データを収集・活用するようになり、好結果を出しているクライアントもある。企業にとって、顧客データは最大の財産。これを自らマネジメントし、活用し、継続してデータを増やしていくことで、その価値はさらにアップし、よりスマートに活用できるようになる。

Q:グーグルが見直しをおこなう公式な理由は? それ以外に、推測される理由は?

A:オフィシャルな理由は、プライバシー保護。一方、ここ数年のグーグルの方針と同じく、グーグルの世界をもっと高い壁で囲い、コントロールしやすくすることが狙いだと思われる。

グーグルはすでに膨大なファーストパーティー・データを蓄積しているし、ブランド各社には、もっとグーグルに依存してほしい。ただブランド側の立場からすると、自社の顧客に関するデータなのに、これを利用するには、グーグルに「レンタル料」的なものを払う必要があるという状況。それよりも自社でファーストパーティー・データを集めて、顧客データを収集・管理するべきではないか。企業側にも十分なデータと情報はあるはずで、これをマネジメントし、目的に合ったメディア選定など、さまざまな意思決定の場面で活用するべきだ。

Q:企業にとってはチャンス。だが、同時に不安もあるのでは?

A:もちろん、今まであったデータの一部が使えなくなることへの不安はある。CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)やGDPR(ヨーロッパのEU加盟国で施行されている「一般データ保護規則」)対策を準備した時は、規則に明確な定義があり、何がダメで、何をやるべきかはっきりしていたが、今回は違う。サードパーティー・クッキーについては、ひとつの決まった正解はなく、代替案の選択肢はたくさんある。その中から自社に合ったものを組み合わせて、対策を練ることになる。

我々がクライアント企業に提案しているのは、まず選択肢のいくつかをテストしてみること。試してみると、意外にも、今までより好結果が出る場合が少なくない。

また、リアルとデジタル、両方を網羅し、オムニチャネルな情報管理をおこなうことも大切だ。例えば、このケビン・メイという人物は男性で、居住エリアはどこか。属性や、これまでに自社ブランドとの間で、どのようなやりとりがあった人なのか。匿名データも含め、あらゆる履歴を駆使して、意思決定に役立てることで、パーソナライズ化や効果測定、ユーザーが関心を持つようなメッセージや広告を届けることが可能になる。

ちなみに(グーグルなどが提供する)第三者データも、目的に応じて賢く活用するのはよいと思う。ファーストパーティーとサードパーティー・データを上手に組み合わせて、最も効率よい方法で、ベストな結果を目指すのがよい。

Q:色々な手法があり、取捨選択できるということは、その分、マーケターは勉強することがたくさんあるのでは? 簡単な方法もあるのか?

A:簡単かと言われれば、答えはNOだ。何か新しいテクノロジーを導入すれば解決する話ではない。長年、コンサルティングしているクライアント企業での経験ですが、これはテクノロジーの問題というより、組織全体の変革であり、ビジネス・プロセス全体を見直す必要がある。

マーケティング分野に限らず、全社を挙げて、ビジネスのやり方を一新することになるので、当然、時間もかかる。そもそもリターゲティングというのは簡単ではない。とはいえ、今はそんな余裕ないからと放置し、あと数か月でサードパーティー・クッキー廃止、というぎりぎりの段階まで待つのはおすすめしない。これはデータガバナンスの確立なのだと考えてほしい。そこから得られる価値も膨大だ。ファーストパーティー・データを自社でコントロールできるようになり、それをもとに戦略を立案・実行できるようになる未来を想像してほしい。

Q:大きな変化であり、混乱も予想されるが、悲観することではないのだろうか?

A:その通り。むしろ、覚醒と呼んでも差支えないのでは。ファーストパーティー・データの活用を始めたクライアントが「そうか、なるほど!」となる瞬間は、我々もやりがいを感じている。ファーストパーティ・アイデンティティ戦略の入り口として、オウンドメディア(自社サイトやブログ、メールなど)とペイドメディア(自社広告)で、ファーストパーティー・タグをつけるところから始めてみるのも一案だ。すると顧客のエンゲージメントや、自社ブランドとのコネクションが分かるようになり、さらに明確に見えてくる頃には、結果も出て、「自社データを使うだけで、ここまでできるのか!」と驚く。

ただし、旅行業界で注意が必要なのは、データの質だ。クライアントだった某大手ホテルの場合、すでにかなり膨大なデータを持っていたのだが、OTAや仲介事業者が集めたデータの中には、使えないものが少なくなかった。売買されているデータの半分ほどは、一見、使えそうな氏名やメールアドレスが入っていても、実は社員のアドレスだったり、内容が重複していたり。玉石混合の外部データに頼るより、まずは自社で正確なデータ構築を目指すべきだ。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:VIDEO: THAT’S THE WAY THE WEB COOKIE CRUMBLES

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