フランスの「観光×環境」の最前線を取材した、鉄道2時間半区間の航空国内線は廃止、続々と復活する夜行列車

フランスでは2021年7月、「気候変動対策・レジリエンス強化法」が成立した。温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比で40%以上削減する目標を法制化したもので、フランスの環境保護と持続可能な成長に向けた「本気度」を示す取り組みとして注目されている。

この法案は、マクロン大統領が2019年に立ち上げた市民会議での議論がたたき台となっており、業界だけでなく市民レベルでも対策を求める野心的なもの。製品・サービス消費でのCO2排出量の表示制度「CO2スコア」の導入、2030年以降のガソリン車などの販売禁止など環境対策が日常生活にも大きく関わってくる。

先ごろ開催されたエールフランス航空とフランス観光開発機構による共同ウェビナーを取材した。

観光に大きな変化、鉄道で2時間半域内の航空路線は廃止

法案が施行される中で、交通や観光でも大きな変化が起きると見られている。この法案には、鉄道によって2時間半以内で移動可能な国内航空路線(乗換路線として利用者が多い路線は存続)は2022年3月までに廃止することも盛り込まれた。この思い切った取り組みで、フランスは今後、航空と鉄道の乗り換えをスムーズにする「Train and Air」を推進していく。

その一環として、夜行列車が次々と復活。今年5月にはパリ/ニース間が再開。12月にはパリ/タルブ間、パリ/ウィーン間の夜行列車の運行も始まる。この動きはフランスに限らず、ヨーロッパで広がりを見せており、来年にはオランダのスタートアップ鉄道会社「ヨーロピアン・スリーパー(European Sleeper)」が夜行列車に特化した運行サービスを立ち上げる予定だ。

さらに、フランスでは2022年春に、料金も速度も抑えたスーパーローコスト長距離列車「OUIGO Classic Speed」が登場するなど原点回帰の動きも出始めた。現在の計画では、パリ/リヨン間を4時間45分、パリ/ナント間を3時間半で結び、料金は10~30ユーロになる予定。行政施策という上からの要求だけでなく、市場ニーズがなければ、このビジネスは成り立たない。

また、観光面では長距離サイクリングルートの整備も進められており、その総距離は2021年の約1万9000kmから2030年には約2万6000kmに延伸されるという。欧州横断サイクリングルート「ユーロヴェロ」のほか、地方ルート、周遊ルート、MTBルートなどサイクルツーリズムを促進するさまざまなルートが新たに誕生する予定だ。

フランス観光開発機構(アトゥーフランス)在日代表のフリデリック・マゼンク氏は「コロナ禍で観光客が激減しているなか、フランスの観光は大きな切り替えのタイミングに来ている。より持続可能な観光に向けて進化しようとしている」と話し、次世代の観光に向けた取り組みの重要性を強調する。

持続可能な観光についてのウェビナーでフランスの取り組みを説明するマゼンク氏

11月に「観光復興プラン」を発表

フランスでは、「気候変動対策・レジリエンス強化法」の成立を受けて、今年11月にもマクロン大統領のイニシアティブによって策定する「観光復興プラン」を発表する。

フランス観光開発機構などは、このプランを策定するにあたって、世界中の旅行者から提言を求めた。フランス国外から最も意見が寄せられたのは日本。採択された提言は、「汚染を生じない交通手段の開発」「ゴミの管理」「地元の産品や自然文化遺産の活用」「地域的な偏りのないバランスのとれた観光」「幼児期からの『より責任ある観光』に関する教育」など10の基本的な考え方に分けられた。

そのうえで、持続可能な観光発展としての5項目を「観光復興プラン」盛り込む予定だ。

  1. 職業研修を充実させ、観光業の魅力を発信する
  2. 文化、自然、史跡の観光要素の訴求強化
  3. 持続可能な観光発展を評価基準とするホテル格付けの見直し
  4. 環境負荷の低い交通手段の選択
  5. 業界のデジタル化

エールフランス航空もカーボンニュートラルへ本腰

一方、「気候変動対策・レジリエンス強化法」によって影響を受けると見られるエールフランス/KLM航空も環境対策に積極的に取り組んでいる。同航空日本・韓国・ニューカレドニア支社長のギヨーム・グラス氏は「航空業界にとっては厳しい状況が続いているが、脱炭素化への動きはとめない」と覚悟を示す。

エールフランスのグラス氏は企業にSAFプログラムの参加を呼びかけた

同航空は、中期的なサスティナビリティ・ロードマップ 「AIR FRANCE HORIZON 2030」を策定。2030年までに旅客キロ当たりのCO2排出量を2005年比50%に低減し、廃棄物のシングルユース率を2011年比50%に抑制するほか、 地上運航業務のCO2排出をゼロにする目標を立て、最終的に2050年までに カーボンニュートラルを目指す。

目標に向けては、機材の更新、オペレーションの工夫、持続可能な航空燃料(SAF)の活用を進めていく。機材更新では、現行のA318およびA319をA220と、A380をA350とB787にそれぞれ代替。すべて更新されると約25%のCO2排出量が削減されるという。

SAFの活用では、産業間の連携として「コーポレートSAFプログラム」を導入した。航空移動による出張で顧客企業のCO2削減に貢献していくとともに、産業界から社会に対して強いメッセージを発信していく。

また、旅客との連携では、1本の木を2ユーロとして、搭乗便の排出量に応じた額を植樹活動に寄付する「Trip and Tree」を展開。このプログラムにより、これまで約20万本が新たに植樹されたという。

このほか、鉄道との連携では、2時間半未満の国内路線廃止への対応として、航空と鉄道チケットのデジタル統合を2022年春までに進め、シャルル・ド・ゴール駅発のAF便名のTGVをさらに追加することで、航空と鉄道間の乗り継ぎの利便性を高めていく方針だ。

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