利益率が低い旅行業だからこそ「SaaS」導入を、普及の背景とメリット、優先順位と投資効果を考えた【外電コラム】

1990年代末、インターネット利用が普及しオンライン旅行が台頭してから今に至るまで、旅行業は様々な分野での変革と共に進んできた。例えば、消費者トレンド、グローバルな出来事、企業や消費者向けテクノロジーの向上など。

現在は、クラウド技術の登場による変革が進行中だ。クラウドは、これからの旅行市場に欠かせないものになる。クラウドによって、サブスクリプション型の「SaaS(software-as-a-service:ソフトウェアのサービス化)」が可能になったからだ。

SaaS普及の背景

これまでにも9/11同時多発テロ、リーマンショックなど、大きな危機に陥ることはあった。その都度、旅行市場は対策を打ち、やがて旅行者は戻ってきた。

しかしコロナ禍はこうした一時的な危機とは異なる。消費者意識、政府による規制、ビジネスモデル、マクロ経済、投資家の要求には、深く長い影響が及んでおり、パラダイムのシフトが始まっている。今後、あらゆる企業のテクノロジー戦略は、最終的にサブスク型のSaaSへと辿りつくと考えており、トラベル・テック分野でも、次にやってくる大きな変化になるだろう。

そもそも旅行業の利益率は低い。マーケット全体が絶好調だった頃からだ。当然、テクノロジー活用の是非や方法についての意思決定でも、必要な資金をどう確保するかは、今まで以上に厳しい問題になる。テクノロジー予算を用意していた大手企業の中には、その資金を一般業務に充てることで、なんとか事業を継続しているところもある。

中小事業者には、専門分野のオペレーションに欠かせないテクノロジーを持っているところが多い。それでも今すぐに発生する、あるいは何度も繰り返し発生するコスト、長期的に必要になるコストについては、非常に慎重にならざるをえないのが現状だ。

こうしたなか、コストに関する考え方も変化している。特定部門のコストを削減するだけでなく、事業全体でのコスト効率アップへの関心が高まっている。

優先順位は「開発>商品>サービス」

未来は、クラウドにある。クラウドというのは、つまりサブスク型のSaaSのことで、テクノロジーを提供するサプライヤーにとっても、旅行事業者にとっても、最良の選択肢になる。読者のみなさんは、すでにクラウドの長所も短所もよくご存じだと思う。

旅行関連業種でもクラウド・プロバイダーと契約する大手は増えており、最近ではトラベルポートや航空運賃データ業務を扱うATPCOの例がある。大企業がクラウドへの信頼を示すことで、中小事業者の間でも、クラウドって何がいいの? と感心を向ける動きが広がりそうだ。

クラウド自体もかなり進化している。これがSaaS普及の台頭と、旅行関連事業者にとっての利便性アップにもつながっている。一方、新たな課題も明らかになった。API接続によって、誰もが同じ在庫や価格にアクセスできるようになると、旅行会社としての差別化が必要になる。

こうして開発重視からプロダクト重視への転換が始まった。テック系各社は、多彩なAPIを一か所にまとめて提供できるプロダクト構築に取り組むようになった。

後からのレイヤー追加が可能なプロダクトであることも重要だ。具体的には、予約までのカスタマージャーニーをより使いやすいものに改良したり、リッチコンテンツを追加したり、ユーザー体験を向上させ、見た目や印象に手を加えたり。こうして差をつけることで、旅行関連事業者ならではの存在感が生まれるからだ。

要望に応えるべく、旅行系テック企業のビジネスモデルも進化してきたが、その一翼を担ったのがクラウド技術だ。プロダクトを提供する時代から、必要なサービスをサブスク方式で提供するSaaSの時代への移行が可能になったことで、プロダクト開発コストも減らすことができた。見落とされがちだが、プロジェクトマネジメントやプロセス変更、研修などにかかる費用も無視できない。こうしたコストも削減することができた。

早い段階からクラウド利用に移行してきた旅行関連事業者ほど、サブスク契約でテック企業が提供する各種サービスを利用するメリットを実感するようになっている。

コスト、予算、そして投資効果

パンデミック渦中では、ほとんどの旅行関連事業者が生き残るだけで精一杯で、トラベル系テック企業も似たような状況だった。

私が経営するWBE.トラベルの場合、当社のSaaSモデルがコロナ前から認知されていたこともあり、引き続き、クラウドで提供している商品の主要コンテンツや機能を改良。いずれ旅行需要が戻ってきたときに、当社のクライアントが必要とするものをすぐ提供できるようにと考えていた。

例えば、APIを増やし、取り扱い在庫を充実させたり(重複防止やホテル予約確認番号に関する作業もおこなった)、クラウドのおかげで当社でも提供可能になった新サービスの追加をできたので、サブスク会員向けに提供できる内容は、以前より良くなった。新しく増やしたオプションのせいで、クラウド経費は増えてしまったが、これは想定内のこと。ただし、コストが上昇しているのに、売上は横ばいのまま、という状況は異例だ。

この状況を経験したことがきっかけとなり、ビジネスモデルを再度、見直した。クライアントへの請求では、「pay as you grow(ビジネスが増えたら支払う)」仕組みを導入。事業で発生するコストが、事業規模に合った範囲内に収まるようにするべきとの考えで、決済スケジュールも、同様に見直した。

予約が増えるほど、当社が受け取る手数料も増える。逆に、予約が減ったら、手数料も減る。当社の契約条項にはこうした仕組みを反映しており、今後、さらに改良していく。

自社サービスへの投資についても同じ考え方で、やがて取扱い規模が回復するのに伴い、投資分の回収も始まるだろう。旅行関連事業者としては、マーケットが動き出した時、提携しているテック企業もすぐに動けるのか把握しておく必要がある。だからこそ、パンデミック下でも当社では主要プロダクトへの投資を続けてきた。

だがもし旅行テック各社が、2019年と同じ取引や決済方法を強いるなら、2022年には、立ち行かなくなる旅行会社が続出するだろう。

「ビジネスが増えたら支払う」という手法は、SaaSのサブスク型の考え方がヒントになった。当社にとっても、取引先の旅行関連事業者にとっても、これがベストだと考えている。

結論

旅行市場は他と比べて、クラウドやSaaSを導入し、そのメリットをサプライヤーや流通に取り入れる動きが緩慢であるように思う。

その理由は、プロダクトのコントロール不全やコモディティ化など、導入に伴うデメリットが、メリットよりも大きいと認識しているせいではないだろうか。

旅行関連事業者は、お互いに差別化したいと考えている。自社ビジネスを第三者の管理下に委ねることで、将来的に相手の方針に従わざるをえない状況に陥ることを懸念している。これは当然のことであり、実際、多くの事業者が同じように心配している。

当社はソフトウェアをサービスとして提供するSaaS事業に100%注力しており、この事業モデルを推進していくが、各企業の意思決定に「正解」「不正解」はないとも考えている。目指している事業目標や現在のビジネスモデルに最適な選択肢を選ぶことが重要で、自社で決める場合もあれば、提携するテクノロジー企業のアドバイスを参考にすることもあるだろう。

たくさんの選択肢がある時代だ。SaaSプロバイダーも色々あり、同じではない。それぞれの旅行関連事業者が、それぞれにとっての正解を探し出すべきであり、必要ならコンサルタントの助言もある。自社にとって本当に必要なものを選び、サインしているのか、見極めることが肝要だ。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:ALL ROADS LEAD TO SAAS IN TRAVEL

著者:ジョージ・ドゥミトルー(WBE.トラベルCEO)

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