カナダの新しい旅のカタチ、アドベンチャー旅行から先住民文化の体験まで現地取材した -中部サスカチュワン地域の事例

緑の森と青い湖は、カナダを象徴する風景のひとつ。その豊かな自然に憧れてカナダを訪れる旅行者は多い。アルバータ州とマニトバ州に挟まれ、ほぼカナダの中央に位置するサスカチュワン州も、カナダらしい広角のプレーリー(平原地帯)が広がるが、日本人にはまだ馴染みのない旅先だ。カヌー、釣り、トレッキングなどのアウトドア、そして先住民文化の体験。コロナ禍を経て、旅のニーズに変化が見られるなか、サスカチュワンがカナダの新しい旅先として選ばれる可能性はあるのか。現地を取材して、その潜在力を探ってみた。

森と湖でカナダらしいライトアドベンチャー体験

サスカチュワンに行く前に、あるカナダ人に「サスカチュワンって、どういうところ?」と尋ねてみたら、「ワイドオープン(開放的)」という答えが返ってきた。その言葉を文字通り実感したのが、サスカチュワン州の中部、オッター湖の湖畔に立つ「トンプソンズ・リゾート」を訪れた時だ。

サスカチュワン州最大の都市サスカトゥーンから、小型機でラ・ロンジェへ飛び、そこからさらに水上飛行機に乗り換えて、リゾートのあるミニシぺまで約2時間。水上飛行機から、緑の森といくつもの青い湖がチャーチルリバーで連なる風景を俯瞰すると、広大なカナダの懐に踏み行った感覚だ。

水上飛行機は貴重な移動手段奥地だが未開の地というわけではない。オッター湖や周辺の湖には、トンプソンズ・リゾートをはじめロッジが点在する。実は釣りのメッカで、夏には、水上飛行機で湖をホッピングしながら、大物を狙う本格的な太公望も多く訪れるという。また、チャーチルリバーや周辺の湖を2~3週間かけてカヌーで巡るアドベンチャートラベラーにも人気の場所だ。一方で、州内の高校生などが課外授業で訪れる場所でもあることから、アドベンチャートラベル上級者向けだけではなく、「釣りやカヌーをしたことがない人でも、旅のスタイルやレベルに応じて楽しめるところ」と現地のチャーチルリバー・カヌー・アウトフィッターのオーナーは話す。

白亜の教会は、入植したキリスト教徒によって1849年に建てられた。トンプソンズ・リゾートでのアクティビティは、湖をボートで移動しながら楽しむ。トンプソンズ・リゾートの系列「ツインウォールズ・ロッジ」に移動し、そこでまた別のボートに乗り換えて、ガイドとともに、さらに奥地へ。「ジムズ・キャンプ」に着くと、そこを拠点に森の中へトレッキングに出かけた。

サスカチュワンらしい平地の森をしばらく歩くと、前方からゴーという轟音が聞こえてきた。視界が開けると、目の前に猛烈な勢いで流れ落ちる滝。「ミストイヤック・フォールズ」は、高さはなく、幅も狭いが、水量はすごく、近寄ると怖くなるほどの勢いで湖から湖に流れ込んでいた。「ナイアガラ・フォールズ」と比べるとスケールは比べものにならないが、これもカナダらしい滝。森と湖が創り出す自然の造形美は雄大で美しい。

ミストイヤック・フォールズは、湖から湖に流れ込む滝とは思えない圧倒的な水量。

別の日、ボートで釣りに出かけた。狙うのはノーザンパイク(カワカマス)。ガイドの案内で、オッター湖の中ほどでボートから釣り糸を垂れた。しかし、同行者は全員釣りはズブの素人。最初は、岩場に糸が引っかかったり、隣の糸と絡み合ったりと、素人らしく右往左往し、ガイドを困らせたが、やがて一人が釣り上げ、1時間ほどすると全員が釣果をあげた。ガイドは「ちょっと小さいね」と言うが、同行者の顔には笑顔が浮かぶ。

釣りの素人でも、ガイドが手伝ってくれる。その後、近くの陸上に移動。ガイドが、釣ったばかりのノーザンパイクを捌き、唐揚げに料理してくれた。缶詰のコーンとビーンズ、ポテトと玉ねぎの炒め物、そして揚げたてのノーザンパイクのランチ。シンプルで素朴な料理だが、白樺に囲まれた静寂の森の中で食べていると、カナダ観光局の言う「レジェンダリー・エクスペリエンス」の意味が分かった気がした。決して豪華ではないけれど、ここでしか味わえない贅沢な体験だ。

簡易コンロを持ち込み、料理。塩胡椒だけでも十分おいしい。脈々と受け継がれる土着性、先住民文化が教えてくれること

オッター湖周辺は、先住民文化が色濃く残る場所でもある。トンプソンズ・リゾートでも、多くの先住民の人たちが働いている。ボートツアーの途中に、そのなかの一人、シークワンさんに両親の自宅に招待してもらった。湖に面し、森に囲まれた質素な一軒家。前庭には、立派なムースの角が、魔除けのように飾れていた。ムースは昔から先住民の人たちにとって貴重なタンパク源だったという。命への感謝。ここには、脈々と続く土着性が漂っている。

先住民の自宅訪問。ローカル体験は旅の醍醐味。何気ない会話を楽しんでいる途中、お父さんが動物の皮で作ったホーンを取り出し、動物の鳴き真似を見せてくれた。「ムースの鳴き声はオスとメスとで違うんだ」。先住民には独特の狩猟法があったという。繁殖期になると、メスの発情する声にオスが集まる習性を利用して、メスの鳴き真似をすることで、オスを誘き寄せて仕留めた。だから、「私たちにとって、その違いを知ることはとても重要なこと」だと教えてくれた。

素人に鳴き声の違いは分かりづらい。その夜、トンプソンズ・リゾートで、オッター湖で生まれ育った語り部のエイブルさんからも興味深い話を聞くことができた。

「ここの先住民は、この土地とつながりを持って生きてきた。文明社会の中で暮らしているが、土地とのつながりは今でも強い。湖には多様な魚が生息し、陸にはムース、カリブー、ビーバー、シカなど多様な動物が生息し、ベリーも多種多様。この土地は生きていくものに必要なものすべてを与えてくれる。都会に出て、2日もすれば、ここに戻りたくなる」。

エイブルさんによると、キリスト教の伝道師が入植するまで、先住民は話し言葉やペインティングで物語を伝承してきたと言う。今でも、周辺の岩々には、先住民が描いたペトログリフが残る。「先住民の間では、そこに精霊が宿ると信じられていた」と教えてくれた。

一方、エイブルさんは、先住民たちが歩んできた負の歴史も語ってくれた。エイブルさん自身も、その両親も、またその両親も、キリスト教会が立てた寄宿学校に入校させられ、同化政策(コロナイズ)のもとで教育を受けてきた。カナダでは、この強制措置について、最近になってある事件をきっかけに議論が再燃し、反省と謝罪をもってその歴史と文化が見直されているところだ。

「今は自由になった。私たちは、先住民の文化に誇りを持っている」。エイブルさんは、ゆらゆらと燃える焚火を見つめながら、静かにそう語った。

先住民の伝統的なパン「バノック」を自作しながら語り。中央で立っているのがエイブルさん。サスカトゥーンで楽しむ先住民体験と地産地消

サスカチュワン州最大の都市サスカトゥーンにも、先住民の歴史を伝える施設がある。街の中心から15分ほどのところにある「ワヌスケウィン史跡公園」。6000年以上も前から先住民の集会の場となっていたところだ。ここが、ユニークなのは、当時の重要な食糧だったバイソンの狩の場所でもあったことだ。サスカチュワン川に落ち込む崖にバイソンを追い込む狩猟。その様子は「バイソン・ジャンプ」と呼ばれている。

現在でも発掘が続けられている「生きた史跡公園」として内外から注目を集めている。教育的な機会だけでなく、伝統の音楽やダンスを定期的に披露。周辺のトレッキングやキャンプ、伝統料理をモダンにアレンジした料理が楽しめるディナーイベントなども提供している。

ワヌスケウィン史跡公園は学びの場。

サスカトゥーンには、地産地消にこだわった食体験も多く揃う。「オドラ(Odla)」は、自家農園直送の新鮮食材を扱うユニークなレストラン&マーケット。地元生産者を支援しながら、自家農園の旬の食材を中心に考案した独創的な料理を提供している。

家族経営でジントニックを生産している「ブラック・フォックス・ファーム&蒸留所」も地元志向の強いところだ。原料の90%は地元サスカトゥーンの自社農場で栽培され、すべてのスピリッツ製品が自前で発酵・蒸溜。蒸溜所や周辺に広がる農場には、オーナー夫妻のジンに寄せる強いこだわりが感じられる。

ブラック・フォックス・ファーム&蒸留所でジンを試飲。芳醇な香りが口に広がる。

また、「クロスマウント・サイダー・カンパニー」は、100%地元産のリンゴを使用したアップルサイダーを製造・販売。現在は、「FLATLANDER」というブランドで5つのフレイバーを販売している。敷地内には1500本以上のリンゴの木が栽培されており、その風景の中、ピクニック気分でアップルサイダーを楽しむことができる。

サスカトゥーンのダウンタウン。

先住民にしろ、食にしろ、サスカチュワンにはその土地に根ざした文化が豊かだ。地域が豊かであれば、おのずとサステナブルなコミュニティが形成され、旅行者は、その地域を訪れることで、高邁な意識を持たなくても、そのサステナブルな生活に自然に参加することになる。コロナ後の新しい観光のカタチ。サスカチュワンは、そのひとつの答えなのかもしれない。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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