廃校を拠点に地域を元気に、小さな町の「無価値を価値化」で関係人口も増加、千葉県東庄町「オンラア未来会議」の取組みを聞いてきた

利根川を挟んで茨城県と向き合い、東には銚子市が広がり、九十九里にも鹿島灘にも近い千葉県香取郡東庄町。東京から約2時間、成田空港からは約1時間と首都圏内ながら、少子高齢化・人口減少など全国共通の課題を抱えている。そのなかで、地元の豊かな資産に目を向け、さまざまな地域課題に取り組んでいるのが一般社団法人「オンラア未来会議」だ。「未来のために、『本気の片手間』で活動しています」と話す代表理事の柳堀裕太さんに人口1万3000人余りの小さな町の地域創生について聞いてみた。

廃校になった小学校を拠点に

「オンラア」とは千葉県東部地域の方言で「私たち」という意味だ。柳堀さん自身も東庄町出身。TVCMプロデューサーの仕事を持ちながら「本気の片手間」で地域創生に取り組んでいる。主要メンバーは10人ほど。それぞれ本業を持ち、二足の草鞋で活動を支えている。このほかに、補助的な役割として30人ほどが参加。その3分の2が町外出身者だという。

柳堀さんは10年以上前から個人的に東庄町を盛り上げる活動してきたが、本業の仕事でスイスの「ロカルノ映画祭」に参加した時、「地域のみんながこの映画祭に誇りを持ちながら、イベントを創り上げている」ことに感銘を受けた。スイスでの感動を糧に地域の活動を続け、2020年には「オンラア未来会議」を立ち上げた。

実際の活動に向けて大きな転機となったのは、同年7月に廃校となった「石出小学校」の運営管理を東庄町から請け負ったことだ。人口減少が進む東庄町では、5校あった小学校を1校に統廃合。石出小学校出身の柳堀さんは「統廃合はされるだろうとは思っていましたが、1校だけになるのはショックでした」と振り返る。

ある調査によると、東庄町の人口は2060年には約5500人まで減少し、労働人口比では、65歳未満と85歳以上の割合が現在の7:3から1:1になるといわれている。柳堀さんは「私たちが東京に行っている間に、地元は大変なことになっている」ことに気づいたという。

旧石出小学校の跡地を活用してアクションを起こそうと思ったのも、次世代への危機感からだった。

「人口が減っても強く生きていける人材育成を」と柳堀さん。地域を「知る」ことで無価値を価値化

そこで始めたのが、「知る」ことに焦点を当てた人材育成プログラム「TO KNOW」。町名の「とうのしょう」にもちなんで名付けた。柳堀さんは、その目的を「今の世代が地域の産業リソースを活かし、たくさんの『知る』を次の世代に渡していきながら、30年後も強く生きていける人材を育てていくこと」と説明する。

オンラアの事業コンセプトは「無価値の価値化」。地元ではそれまで無価値だと思われてきたものを価値化していくこと。「TO KNOW」でも、そのコンセプトが生かされ、小学校をハブとして校舎内外でさまざまな仕掛けをプロデュースしている。

例えば、東京芸術大学と多摩美術大学のコラボによるワークショップを企画し、地元の中学生や工務店の新人スタッフが参加することで、モノづくりへの新たに気付きの場を提供した。また、生産者と消費者の接点を創り出す「農業体験イベント」も実施した。コロナ禍で苦境に立つ地元飲食店を支援するため、ドライブスルーイベントも開催した。

学校の家庭科室では、家族でも職場でもない近い他人同士のコミュニティを強化する「縁食活動」を展開。保健室では高齢者向けに1日美容サロンを開いた。さらに、2022年4月には、3階にコワーキングスペース「ハタラキバ」をオープン。学生やリモートワーカーなどの利用が増えているという。

柳堀さんは「それぞれ企画を立てて、実行するメンバーは、みんな趣味の延長線でやっている感じです。でも、最先端なことをやっているという自信はあります。みんな、成功した時の幸せな風景をイメージしながら、動いている。そのイメージは私たちの間で共有できていると思います」と、これまでの取り組みに手応えを示す。

コワーキングスペース「ハタラキバ」。

関係人口から移住・定住に手応え

空き家問題も全国共通の課題のひとつ。東庄町も例外ではない。柳堀さんによると、東庄町には現在約3000軒の潜在的空き家があり、しかも町には不動産屋がないという。だから、「私たちが不動産屋を立ち上げて、地域の空き家を資源に変えていく」計画を立てているという。目標は今後3年間で100軒を利活用。「そのうちの何軒かを民泊として運営して、利益を上げていく仕組みを作り上げていきたい」と前を見据える。

また、オンラアでは関係人口から移住・定住につながる動きにも注目している。柳堀さん「東庄町に通い詰めるのは地元の人との付き合いが理由になることが多いです。東庄町に居場所を見つけた人にとって、東庄町が第二の故郷になるのが、移住への必勝パターンですね」と明かす。そのうえで、「旧石出小学校に行けば、あの人がいるというのは大きな安心感につながると思います」と続けた。実際、家庭科室は移住者のコミュニケーションの場になっているという。

現在、オンラア未来会議で事務局長を務める榎本祐作さんもその一人。東京でTVCMプロデューサーやウェブサービスのクリエイティブディレクターを務めていたが、柳堀さんとの関係性から東庄町に通い始めた末に移住。現在、「本気の片手間」でオンラアに関わりながら、東庄町を拠点にフリーランスとして仕事を続けている。

「関係人口も想定よりも増えている気がします。移住者は30代半ばで在宅で仕事ができる人が中心。移住者が移住者を呼んでいる」と柳堀さん。2023年には新たに「アート・イン・レジデンス」の取り組みを始める計画。東庄町に住みながらアート活動を行い、地域との新しい関係性を創り上げる環境を整えたいという。

クラフトルームでは、技術を持つ会員がオリジナル作品を展示。手前の革製品は、会員が立ち上げたオーダーメイドの革製品。

個人のメディア化で仲間を呼び込む

オンラア未来会議では、毎週末に会議を行い、出てきた課題を速やかに実践し、検証するサイクルを継続しているという。その積み重ねからコミュニティが形成されるという考えだ。

そのうえで、柳堀さんは「個人のメディア化」に重きを置く。コミュニティの形成にしろ、関係人口の創出にしろ、入り口になるのは「人」だ。「一人一人がコンテンツとなって、それを発信し、そのコンテンツから仲間が増えていければと考えています。将来を見据えれば、地域の子供たち一人一人にメディアになってもらいたい」。地域を知る、地域と関わる人材育成には、その思いも加わる。

柳堀さんは「観光を事業として伸ばす考えはない」と話す。観光目的の箱物を作るよりも、一人一人がコンテンツとなって、国内外に東庄のストーリーを発信していければ、それが結果的に観光促進にもつながるとの考えだ。

東庄町だけでなく、東関東地域という広域に目を向ければ、一人一人のコンテンツの可能性はさらに広がる。成田空港があり、鹿島アントラーズがあり、ブランド豚「林SPFポーク」があり、鹿島神宮があり、銚子漁港があり、九十九里海岸がある。文化、歴史、自然、食の観光要素は豊富だ。

柳堀さんは、映像プロデューサーとして人とお金を差配し、数々のプロジェクトを進めてきた。その経験を今度は地域に注ぐ。「私は、何かを生み出すというよりも、参加する仲間が動きやすい環境をプロデュースする立場です」。その取り組みには地域創生のヒントが詰まっている。

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫

記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

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