災害に強い観光地づくりとは? 熊本地震が九州観光に与えた影響から考える備え、識者の分析と議論を取材した

JTB総合研究所(JTB総研)と地質の観点からソリューションを提案する応用地質は、2023年7月にウェビナー形式で「共創セミナー~災害に強い観光地づくりに向けて~」を開催した。応用地質がデータに基づき定量分析した「熊本地震が九州各県の観光業に与えた影響」の報告と、宿泊事業者や防災専門家などによるパネルディスカッションの2部構成で、約250名が視聴した。

直接的な被害なかったのになぜ?

冒頭で挨拶したJTB総研社長の風間欣人氏は、「日本は世界でも有数の自然災害が多い国で、大規模災害が毎年のように起きる。そのなかで観光客を含めた危機管理体制を整え、災害から復興できる体制作りが求められているとの問題意識から、今回のセミナーでは『災害に強い観光地づくり』をテーマとした」と開催の趣旨を説明した。

第1部の「熊本地震が九州各県の観光業に与えた影響」は、応用地質が2023年3月に発表した「熊本地震が九州各県の観光需要に与えた影響の定量分析」をもとに、同社の共創Lab主席研究員である山﨑雅人氏が影響の実態を説明した。定量分析の手法については、過去の観光需要の統計モデルから熊本地震が発生しなかった場合の九州各県の宿泊者数を推計し、地震発生後1年間の実際の宿泊者数(ただし政府旅行支援策「九州ふっこう割」の影響を除く)と比較する形でおこなわれた。これとは別に「九州ふっこう割」が各県の宿泊者数に与えた影響も分析した。

これらの分析からは、非常に興味深い結果が得られた。まず地震による直接被害が大きかった熊本県と大分県への宿泊者数への影響が軽微だったのに対し、福岡県、長崎県、鹿児島県は直接的な被害がなかったにもかかわらず宿泊者数への影響が大きかったことだ。

熊本県の宿泊者数は地震が発生した2016年4月と翌5月に減少したものの、6月以降は「九州ふっこう割」開始前にもかかわらず、地震が発生しなかった場合の水準に回復。また、12月には「九州ふっこう割」の影響を差し引いても地震が発生しなかった場合の水準を超えた。

大分県は地震が発生しなかった場合の予測値より、4月は約11万人、5月は約18万人、6月は約6万3000人の減少となったが、7月からは地震がなかった場合の予測水準にまで回復している。「九州ふっこう割」の影響については、第1期(7~9月)には平均して毎月14.8%の宿泊者数増加効果が見られ、第2期(10~12月)には平均して毎月12.6%の効果があったと分析している。ただし、7月以降、地震がなかった場合の予測水準にまで需要が回復した状況は、「九州ふっこう割」の効果を差し引いても変わらなかったとも分析している。

九州全体で見ると、熊本地震後の1年間(2016年4月~2017年3月)における、地震が発生しなかった場合の宿泊者数予測値と実際の宿泊者数(「九州ふっこう割」の影響を除く)の差は、熊本県は減少どころか微増(+2万286人)であり、大分県も小幅の減少(-28万829人)に収まった。これに対して福岡県(-167万7059人)や長崎県(-147万6594人)、鹿児島県(-68万6805人)は大幅な減少となった。またこれら3県は「九州ふっこう割」の効果もごく小さいものだったと分析している。

観光産業に求められる備えとは

地震の影響が各県で分かれた要因について応用地質では、熊本県内では宿泊施設への被害が少なかった地域も多く復興需要の取り込みが奏功したことや、大分県では地震前から積極的なプロモーションを続けていたことが下支えになり需要回復を早めたと推測した。また、長崎県はもともと修学旅行需要が多かったため学校判断で旅行中止が相次いだことも影響したと見ている。

応用地質の共創Lab主席研究員、山崎雅人氏は、まとめとして次の5つのポイントを挙げた。

  1. 地域の自然や文化といった観光資源を、平時から積極的に情報発信しておくことが自然災害からの復興時にも役立つ
  2. たとえば大分県の別府温泉にとって、主な市場は九州域内や山口県といった近距離市場であり、距離が近いため情報が得やすく「あそこはまだ危ない」といった風評被害的な情報に惑わされず、需要回復が早くなる傾向がある
  3. リピーターが多いほど災害後の営業がしやすく、応援需要も期待できるためリピーターの重要性を再認識する必要がある
  4. 熊本地震後の大分県のように、災害直後から「来てほしい」というメッセージを明確に発信することで、「いま行っては迷惑、楽しめない」といった懸念を払拭する必要がある
  5. 自然災害に対して観光産業側がいかに備えるかが問われている

4Rからフェーズフリーまで識者が議論

第2部のパネルディスカッションでも、自然災害に対する観光産業の備えに関して示唆に富む発言が相次いだ。

別府市にある鶴田ホテル社長の鶴田浩一郎氏は、「災害時にはそれまでのトレンドが加速する傾向があるため、発生時までに増加基調だったのか減少基調だったのかで災害後の需要回復の速さが変わる。やはり平時の取り組みが重要」と指摘した。

観光危機管理研究所代表理事の鎌田耕氏は、危機管理の事業展開における「4R」の重要性を強調。Recoveryとしての情報発信とプロモーション、Reductionとしてのセミナー・シンポジウム・勉強会の開催、Readinesとしての計画策定と支援、Responseとしてのツール作成や情報サイトの実現を展開していくことの重要性を強調した。

応用地質の中村直器氏は自然災害時のゴミ問題に言及。東日本大震災の際には宮城県で平時の13年分の大量のゴミが発生し、熊本地震でも7年分が発生した。これを片付けなければ復興が始まらないため、ゴミ問題を防災計画に組み込んでおくべきだとし「全国の市町村で防災計画にゴミ対策を盛り込んでいるのはまだ6割程度。備えが必要だ」と指摘した。

さらに山梨大学大学院総合研究部工学域土木環境工学系准教授の秦康範氏は、最近注目されている考え方として「フェーズフリー」を挙げ、防災に関しては日常と非日常の境を無くす必要性を挙げた。「平常時にも継続的に取り組むにはフェーズフリーでなくては難しい。観光客の場合はリピーターの方がフェーズフリーな取り組みに巻き込みやすく、防災の意味でもリピーターの取り込みを重視していくべき」と提案した。

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