クルーズ客船「ダイヤモンド・プリンセス」の船上体験を取材した、寄港地ツアーは高付加価値体験が人気

プリンセス・クルーズが2013年に日本発着定期クルーズを開始してから、今年で10周年の節目を迎えた。それ以前にも日本発着の定期クルーズを運航した外国客船はあるが、ここまで長く継続し、日本市場にリーズナブルなクルーズを定着させたのは、やはりプリンセス・クルーズだ。

同社の日本発着クルーズで、就航2年目から配船されている客船が、ダイヤモンド・プリンセス。外国客船の日本発着定期クルーズで、長く配船されている同船はどんな船か。今年実施された日本発着クルーズに乗船し、取材した船内と洋上体験をレポートする。

日本生まれの客船らしい設備とサービス

ダイヤモンド・プリンセスは三菱重工長崎造船所で建造された、日本生まれの外国客船だ。乗客定員は2706名(最小)、従業員数は1100名で、船の大きさ(容積)を示す総トン数は11万6000トン。日本で運航するクルーズ客船の中では大きいサイズだが、現時点の世界最大のクルーズ客船(23万6857トン)と比べると約半分の大きさになる。

特徴は、日本生まれの客船らしい設備やサービスが備わっていること。外国客船では唯一、船内に日本式の大浴場を備え、寿司を提供するレストラン「海(Kai)寿司 」(有料)もある。クルーズ料金に含まれている食事を提供するメイン・ダイニングでは、朝食メニューの選択肢に日替わりの焼き魚を含む和定食も用意している。夕食には、「酢の物」や「鮭のみそ焼き」といった和食メニューが用意され、日替わりのメイン料理にも「豚の角煮」や「エビフライ」など、必ず1品は日本人になじみのある料理を提供している。

日本生まれのダイヤモンド・プリンセスならではのレストラン「海(Kai)寿司 」

メイン・ダイニングのディナーの一例。一皿の量も日本人に適したボリュームにしているので、複数の料理を頼み、味比べを楽しむ乗客も多かった

船内の言語は基本的に英語だが、日本発着クルーズには日本人をはじめ日本語を話せるスタッフを多く配置。船内アナウンスは英語と日本語でおこなう。エンターテイメントを進行する専任スタッフ「クルーズ・ディレクター」に、英語の専任者に加えて、日本語で話す日本人の「ジャパニーズ・クルーズ・ディレクター」を置くのも、日本発着クルーズの特徴だ。

本来、船に1人の「クルーズ・ディレクター」(エンターテイメントの進行責任者)も、日本発着クルーズには英語と日本語の2名が乗船(左右の女性)

ハードとソフトは日本市場の特性にあわせてローカライズされているが、基本的な設備やサービスはやはり外国客船。船内には、社史からくる米国と英国の雰囲気がただよう。

乗客の子供を預かるキッズルームも設置しており、3つの年代別(3~7歳、7~12歳、12~18歳)に区切ったスペースと遊具、プログラムを用意している。基本言語は英語だが、トレーニングを受けたスタッフを配置。キッズルームで出会った子供同士が、国籍を問わず友達になることも珍しくない。そんな経験ができるのは、外国客船のクルーズならではだ。今回乗船したクルーズでは、約100名の対象年齢の乗客が利用したといい、人気のほどがうかがえる。

キッズルーム。年代別に部屋が分けられ、ここは3~7歳用の「ツリーハウス」。子供向けのイベントも毎日用意され、1日いても飽きないという子も

さらに、クルーズ中、船内各所で開催されるイベントにも、日本の文化や風習を意識した企画が多い。「盆踊り教室」や「浴衣体験」は、特に日本を旅行する一環で乗船する外国人客に人気が高い。イベントには、クルーズ中に複数回おこなわれる講座もあり、そこで初めて出会った国内外の参加者同士が親交を深めていくのも、クルーズらしい体験といえるだろう。

大浴場「泉の湯」。外国客船に日本式の大浴場があるのはダイヤモンド・プリンセスだけ。屋外に水着で入れるスパ・エリアもある

浴衣体験は外国人の乗客に人気のイベント。着付けをする日本人乗客の有志(ボランティア)も。

変わる寄港地観光のトレンド

外国客船による日本発着クルーズには、客船会社が持つ顧客の外国人も多い。プリンセス・クルーズによると、今回のクルーズ「天神祭りで華やぐ大阪と九州・韓国9日間」は、6:4の割合で外国人の参加者が多かった。大阪では、天神祭りを目的とした寄港地観光ツアーが組まれ、外国人の乗船客が次々とバスに乗り込んでいった。船で日本の地域に気軽に入り込めることに魅力を感じる、外国人のクルーズファンも多い。

寄港地の大阪港で、天神祭りに向かうためにそろったバス。ツアー参加者のほとんどが外国人の乗船客だった

同社では2019年から、寄港地観光で「ローカル・コネクション」という少人数で高付加価値体験を提供するツアーを販売している。例えば、伊勢志摩の海女小屋で海女の話を聞きながら地元の海産物を食すといった、より個人的な経験ができるものだ。 

同ツアーを開始した理由について、同社日本代表/カーニバル・ジャパン代表取締役社長の堀川悟氏は「地域を訪れて、特別感のある体験がしたいという要望が増えており、それにこたえている」と説明した。クルーズは寄港地での滞在時間が限られることから、従来の寄港地観光ツアーは効率性を重視した団体ツアーが多かったが、いまは個人ツアーの人気が高まり始めている。

現在、ダイヤモンド・プリンセスの日本発着クルーズの寄港地は50港あり、2023年は6港でローカル・コレクションの寄港地観光ツアーを実施した 。地元の団体・事業者、ランドオペレーターのアイデアをもとに、ツアーづくりをしている。堀川氏は、「料金は従来のツアーの2~3倍以上の価格になるが、それでも人気があり、早々に完売になる。参加者の満足度も高い」と話した。

2023年のクルーズは完売

ダイヤモンド・プリンセスの2023年度の日本発着クルーズは、23コース計33本(3月15日~11月18日出発)が設定され、7月下旬には完売となった。当初は、予約の多くがリピーターが占める状況だったが、最終的には初めてクルーズに乗船する客の割合が増加。リピーターと半々になるまで伸びたという。

クルーズ最終日、夜のフェアウェルパーティ。船中央部のグランドプラザでは、70’s、80‘sのロック音楽で盛り上がった

いまや、コロナ対策は個人にゆだねられるようになり、街中の店舗や商業施設での感染症対策もピーク時ほどではない。ダイヤモンド・プリンセスも日本発着クルーズの再開時には、当時の水際対策やガイドラインに沿って同社の安全対策のもとに運航していたが、現在は、自主的な安全対策をもって通常運航をしている。もともと、クルーズ客船はインフルエンザやノロウイルスなどの感染症に対するプロトコルを持って感染対策をしており、現在はコロナにも対応しているという。

ダイヤモンド・プリンセスの船内では、乗客がスタッフとの会話を楽しんでいたり、プールサイドのロングチェアでのんびりしたりと、思い思いに休暇を過ごす姿があった。ダイヤモンド・プリンセスの船内に、旅を楽しむ旅行者の日常が戻っている。

ロングチェアに足を投げ出して、洋上をのんびり過ごすのも、クルーズの醍醐味

取材協力:プリンセス・クルーズ

取材:2023年7月末

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