
山梨県は、2024年度に実施した「富士山新交通システム調査」の結果を明らかにした。同県は、昨年11月、「富士山登山鉄道構想」について、次世代型路面電車(LRT)を使った鉄軌道を断念し、レール(鉄軌道)不要のゴムタイヤ式の新交通システム「富士トラム」に変更すると発表していた。
山梨県の長崎幸太郎知事は、定例会見で「他の交通システムと比較で、輸送力、省力化、来訪者コントロールの点において、LRTよりも富士トラムに優位性があることを確認した」と発言。今後も引き続き富士トラムの将来像をについて話し合いを続けていく考えを示した。
富士トラムは現在、富士スバルラインの麓から五号目まで敷設が検討されている。将来的には、2034年以降に開業が見込まれるリニア中央新幹線の山梨県内の駅との接続も視野に入れる。
山梨県の説明によると、5つの交通システムを比較検討した結果、磁気マーカ誘導方式を用いるシステムが優位と判断した。この構想の最大のポイントである来訪者のコントロールでも、軌道法の適用によって事業者が運行本数を決定することで、適切な管理が可能としている。
磁気マーカ誘導方式とは、路面に埋設あるいは貼り付けた磁気マーカの信号を読み取って車両が走行するもので、国内では2005年の愛知万博で施設内交通として運行。海外でも中国製のシステムを導入している国もあるという。
磁気誘導トラムの場合は、120席/2編成連結、ピーク時は1時間あたり10本を運行し、1200人の輸送を想定する。往路時間は52.5分、復路時間は48.5分、駅は出発地点と五号目に加えて途中4カ所に設置する見込み。
将来的には係員付き自動運転も
将来的には、国の制度整備に合わせて、自動運転の実現も目指す。ただ、山間部での運行になることから、災害時や緊急時の対応に備えて、レベル3に相当する条件付き自動運転の導入として、係員の添乗が望ましいとの認識を示した。
動力源については、蓄電池と水素を利用した燃料電池の併用を想定。費用抑制、出力調整、回生エネルギーの有効活用などの点から走行中に外部給電設備に頼らない仕組みが有効としている。
導入コストについては、磁気誘導方式は鉄レールの敷設が必要なLRTと比較して大幅に削減することが可能。LRTの1340億円に対して、磁気誘導方式は618億円と5割以上削減することができると説明した。
一方で、年間の維持コストは、現時点ではLRTよりも高くなる想定。LRTが32億7000万円に対して、水素を利用した燃料電池を搭載する富士トラムは49億円。ただ、山梨県によると、今後、国の試算通りに水素単価が下がれば、2030年にはLRTとほぼ同程度の37億9000万円まで低減できるとしている。
富士トラムの導入時期については、来訪者コントロールの観点から「なるべく早い時期」としながらも、具体的なスケジュールには触れず、「リニア中央新幹線駅への接続を考えると、それよりもさらに短い時間軸の中で導入する」と話すにとどめた。