ハワイでボランティア体験ツアーを取材した、「誰でも簡単に参加」を実現する新団体が登場

世界の旅行者の価値観が大きく変化し、旅行に贅沢さや娯楽だけでなく「現地との関わり」や「地域への貢献」といった要素を求める旅行者が増えている。一方で、旅行者と地域貢献活動がつながるためには、地域との深いかかわりを持つ仲介者が必要だ。

先ごろハワイで開催された旅行商談会「ジャパンサミット」後の視察ツアーで、旅行者に地域と関わる体験を仲介する団体「VolunteerAlly(ボランティア・アリー)」の体験を取材した。ボランティア活動のハードルを下げ、旅行者と現地をつなぐことをミッションに、新たな活動を始めている。

誰でも簡単にボランティア活動にアクセスを

ボランティア・アリーは、創設者であるナンシー・ウォー氏と娘のアリー氏が、母娘でボランティア活動を探した際に、適切な団体にたどり着くまでの煩雑さを感じた経験から立ち上げた。誰でも簡単にボランティアにアクセスできる仕組みが必要だと感じたからだという。

日本人旅行者がハワイでボランティア体験を探す際、これまでにも、いくつかの仲介をおこなうNPOなど組織や仕組みは存在していた。しかし、ハワイ州観光局(HTJ)によると、その多くの活動は限定的で持続性に課題があった。今回、HTJがボランティア・アリーを日本の旅行会社に紹介したのは、そうした心配がないと判断できたからだという。対象は旅行会社を介した教育旅行や企業だけでなく、2025年4月にはオンラインで個人旅行者の予約も開始した。

ナロ・ファームでの農業ツアー

オアフ島クニア地区にある「Nalo Farms(ナロファーム)」でおこなわれる所要約2時間半のプログラムは、農園スタッフによるガイダンスから始まる。今回のツアーでは、レタスの水耕栽培と魚の養殖を組み合わせた循環型農業の「アクアポニックス」の手法を、わかりやすく紹介した。

魚の排せつ物を養分として野菜が育ち、野菜が水を浄化、その水を魚に還元する。相互に循環して支え合う循環型農業で、環境への負荷ゼロを目指している。ハワイでは、気候変動による自然への影響などを背景に、環境問題への取り組みが活発になっている。島で構成されるハワイにとって、水は貴重な資源。その水を大事に循環させる取り組みに参加してみることで、水資源を大事にする地域の人のマインドを深く知ることができる。

ナロファームでおこなわれているのは水耕栽培。耐久性の高い発泡スチロールを活用することで、水分の蒸発を押さえている

実際の作業は、草取り、種まき、収穫など季節に応じた農作業の一部。どれも専門的なスキルは不要だ。今回の視察ツアーでは、種まき体験をおこなった。種を植えるポット(ビニール鉢)に、ヤシの実の皮を加工して作られた人工の土を敷き、種を植える。農園内で作物や荷物を運搬する際は、かつて港で使われていた木製のパレット(運搬道具)が再利用されている。園内の作業工程のなかでも、環境への配慮がなされていることを垣間見ることができる。

コツを教えてもらいながら種まき作業をすすめる

苗を育成するために使われるのは、ヤシの実の皮から作られた人工の土

港で利用されていた木製パレットを再利用

作業後のランチでは、農園で収穫されたレタスをふんだんに使ったサラダと、バーベキュープレートが提供された。他の誰かがボランティア活動に参加して手をかけたであろうレタスをいただく時間だ。

みずみずしい食感を味わうと、ふと自分たちが種まきをしたレタスは、誰の口に入るのだろうかと想像が膨らむ。ナロファームで別のボランティアのランチになるのか、フードバンクや学校の給食用に提供されることになるのか。ガイダンス時に説明された収穫物の出荷先に思いをめぐらせると、自分が手掛けたレタスが成長し、地域で誰かが食すのだという実感がわく。地域にしっかり関わることができたという喜びが生まれた瞬間だった。

観光との組み合わせでより手軽に

農園に隣接するラム酒蒸留所「Kō Hana Distillers(コ・ハナ・ディスティラーズ)」は、ハワイ古来のサトウキビを原料とした「コ・ハナ・ラム」を製造。ハワイ土産としてもよく知られている特産品の産地だ。併設のショップでは、試飲や買い物、ほかにもハワイ産のお土産探しもできる。ボランティア後に立ち寄れば、そこからは、一気に観光気分となる。

ラム蒸留所で試飲もできる

現在、ボランティア・アリーの日本の個人旅行向けのサイトで紹介されているツアーは、オアフ島の3コース。ナロファームでの農業体験、ハマクア湿原での環境保全活動、ホノルル市内の動物保護だ。どれも、その活動を通して、ハワイの自然や歴史、人の暮らしや考え方に触れ、関わることができる。どれも短時間で参加できるプログラムで、観光の合間に参加しやすい点も特徴だ。

ボランティア・アリーでは、日本の旅行会社を介した団体受入れへの期待も高い。企業・学校向けの体験に、日本語での資料提供や個別の活動の調整などもおこなうという。旅行会社が団体や旅行者の関心にあわせて旅行行程全体のバランスを取り、体験時間や内容をアレンジすれば、一層満足度の高い体験となることだろう。

個人、団体を問わず、旅行者にとって旅先を深く知るきっかけとなるボランティアツーリズム。多様化する旅の選択肢として、確かなニーズがありそうだ。

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…