JTB、訪日インバウンド戦略を発表、取扱額は2030年までに約2.7倍へ、新領域事業から組織体制まで、地域共創とデータ戦略を柱に強化

JTBは2025年9月1日、「訪日インバウンドVISION2030」を発表した。訪日客6000万人、旅行消費額15兆円時代を見据え、中長期的に「地域共創」と「データ戦略」の事業推進を柱として訪日インバウンド市場に挑む方針を打ち出した。2030年の事業目標の具体的な数値は非公開だが、2025年度比で取扱額約2.7倍、売上総利益約2.9倍と、市場予測を上回る成長を目指す計画を明らかにした。

発表説明会でJTB代表取締役社長執行役員の山北栄二郎氏は、JTBグループが1912年に外国人観光客を誘致するために設立された歴史にふれつつ、「世界トップレベルの観光立国に向け、旅行者向けのサービスはもとより、長年培ってきたネットワークやデータを活用して地域全体をよくしていく流れを作っていく。地域社会を豊かにし、双方向交流も含めた日本の国際的なプレゼンスを高めるために、数ではなく質と持続性を重要視する」などと語った。

事業領域を「既存6+新1」で策定

JTBグループ全体で横断的に訪日インバウンド戦略を推進し、動向・課題に応じた打ち手を最適化するため、事業を「BtoC」、「提携販売」、「旅行会社・ランドオペレーター」、「BtoB」、「プロモーション」、「BtoG(自治体・官公庁)」の既存6領域に加え、訪日客が日本を訪れる目的を創出するためのサービスやコンテンツ開発・投資を実行する「+1」の新領域に整理。これらの事業で市場シェア10%の獲得を目指す。

常務執行役員で訪日インバウンドビジネス担当の山田仁二氏は「カスタマー、事業パートナーに共感してもらえる仕組みづくりと最高の訪日体験の提供に向け、発地、着地双方から取り組む」と強調した。

組織体制については、海外拠点やJTBグローバルマーケティング&トラベル(GMT)をはじめとしたグループ会社のほか、国内営業を強化するため、首都圏、関西圏に加え、北海道、仙台、名古屋、福岡、沖縄のエリアごとに訪日インバウンド推進箇所を設置し、地方自治体や企業とともに地域に根差した取り組みを強化する。グループ全体で約150名を訪日インバウンド担当として増員する。海外OTAとの連携も強めており、2023年にはTrip.com Groupとの合弁会社 JTB Inbound Trip も設立している。

各地域でインバウンド周遊の流れ創出

こうした事業推進の中核に据えるのが、地域共創とデータ戦略だ。地域共創では、自治体や観光事業者、地元企業などとの協働によって、地域固有の資源を磨き上げ、エリア周遊や寺社の特別拝観といったユニーク・ベニューを含めた新しい観光コンテンツの創出を図る。

一例として、事業領域の「+1」として打ち出したサービスやコンテンツ開発では、2025年2月にアソビシステムと戦略的パートナーシップ契約を締結し、ナイトタイムエコノミーや原宿カルチャーとして訪日客にも人気を博した「KAWAII MONSTER CAFE」のコンテンツ資産を活用した共同事業開発を検討している。また、山梨県内にインバウンド周遊の流れをつくる「カイフジヤマロード」構想をはじめとした周遊を横展開し、地域経済の活性化、滞在期間の増加、観光地の分散などに向けた取り組みにも注力する。

データ分析を軸に地域と共創

もう一つの柱であるデータ戦略では、訪日インバウンドデータプラットフォーム「JTB Tourism HUB」を構築し、2026年度中に本格稼働する。これはJTBが手がけるインバウンド向けプラットフォーム「JAPANiCAN」をはじめ、集客の仕組み、システム、コンテンツといった保有する観光関連データと外部のオープンデータを掛け合わせて分析して旅行者の最新の動向や嗜好を可視化するとともに、インバウンドに関する販売から流通をよりシームレス化するもの。

「JTB Tourism HUB」を活用した新サービスでは、現在JTBがヨーロッパで展開している海外乗合型周遊バス事業のランドクルーズを、訪日リピーターの獲得、地域分散などの観点から北海道を皮切りに日本国内でも展開することを検討している。

また、「JTB Tourism HUB」を通じ、地方自治体や観光事業者にはコンサルティング、宿泊施設や飲食店、交通機関など外国人のサプライヤーには新たな流通チャネルやソリューションの提供を提案する。デジタル技術の活用は、各地域にとっても喫緊の課題であり、JTBがデータドリブンで観光立国推進をどう支援していくかが注目される。

JTBは、2023年の日本の外国人旅行者受入数が世界15位、国際観光収入が10位にとどまっており、2030年にはそれぞれ世界4位、世界2位、アジアではともに1位を目指すべきだと分析 。現在、欧米豪客などが関東、近畿に偏在している課題をはじめ、新たな事業展開によって時間、場所、コンテンツの適切な分散でオーバーツーリズム緩和と地域ごとの課題を緩和し、持続的な成長を目指したいとした。

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