
婚礼・宴会事業を展開する八芳園は、東京・白金の施設で2025年春からおこなっていた改修工事をこのほど完了し、10月1日にグランドオープンした。先ごろ開催された内覧会で、同社取締役・総支配人の関本敬祐氏は、「文化資産を活用したエリアプロデュース企業」と自らを位置づけ、従来からの婚礼事業にとどまらず、個人のライフイベントや企業の新商品発表会など、様々な文化体験やMICEの場として訴求する方針を示した。
国内人口の減少に伴い、中長期的には婚姻数も減ると予想されるなか、八芳園では、新たな事業領域の拡大を急ぐ。2024年9月期の売上では、婚礼事業が前年比6.6%増・63億7100万円で全体の66%を占めているが、成長率で目立つのは国内外からのMICE事業だ。国内企業の社内向けイベントや海外からのミーティングやインセンティブ案件を含む同事業は、同33.7%増(25億300万円)だった。
今回の改修は、こうした戦略を背景に、1943年の創業以来、最大の規模でおこなわれた。コンセプトは「日本の、美意識の凝縮」、テーマには「継承と創造」を掲げ、400年の歴史ある日本庭園の赤松の木を中心に、本館ロビー、上層階への階段など、館内の随所から庭園が眺められる設計に生まれ変わった。ロビーの壁面には、八芳園の庭園を描いた小林東雲氏の水墨画をもとに、福岡県大川市の組子職人、木下正人氏が制作した組子細工の作品を配した。本館内には新しくオールデイダイニング「FUDO(風土)」が開業、レストラン事業にも力を入れる。
持続可能なMICE拠点として世界へ訴求するために、環境配慮型の建築へと一新。八芳園の本館は、高断熱性ガラスの導入や空調の高効率化など、省エネルギー化の取り組みにより、8月19日に環境配慮型施設の認証「ZEB Oriented(ゼブ・オリエンテッド)」を取得した。
目玉の一つは、新しく開設した会員制特別フロアの「クラブフロア」だ。専用エスカレーターでアクセスする本館5~6階部分で、立食で最大300人収容する宴会場に全長約20メートルのLEDウォールを設置。プレゼンテーションやイベント向けスペースとして活用できる。
ロビーの壁面に組子細工の作品を配し、落ち着いた上質な空間に
日本各地で地域プロデュース、2030年までにさらに4拠点
同社では、近年、八芳園のある白金に加えて、日本各地の文化資産を活用したエリアプロデュース事業にも取り組んでいる。昨春から福岡・天神の警固神社敷地内で、婚礼・イベントスペース「THE KEGO CLUB by HAPPO-EN」の運営をスタート。続いて2025年9月1日には京都・東山で、大正期の歴史的建造物を活用したウェディング施設「京都祝言」とイベント対応可能な日本料理店「京都幽玄」をオープンしている。
関本氏は「ほかにも、全国各地でプロデュース事業に取り組んでいるところだ。2030年までに、あと4拠点ほど増やしたい」と明かし、婚礼、ダイニング、文化体験、MICEなど、さまざまな価値提供の場を手掛けていく考えを示した。東日本旅客鉄道との間では、白金・高輪エリアを日本文化発信の拠点とし、エリア価値を向上させるための「共創パートナーシップ協定」を結んでいる。
関本氏は、日本各地でのエリアプロデュース事業を含めた非婚礼部門の売上について、「2030年9月期には、グループ全体の目標売上130億円のうち52%へと拡大することが目標」と語った。
同社取締役・総支配人の関本敬祐氏