日本のホテル市場の最新動向、世界比較で円安による割安感、建設費高騰で新規ホテル供給は限定的に ―JLL

不動産コンサルティング会社のJLLは、マーケットセミナーを開催し、日本のホテル市場の現況と2026年の見通しを明らかにした。

日本のホテルの2025年9月までの平均稼働率(OCC)は前年比3.2ポイント増、客室平均単価(ADR)は10.8%増とともに成長。販売可能な客室1室あたりの収益(RevPAR)は、15%以上の伸びを示し、アジア太平洋地域(APAC)では韓国と並んで高い数字となった。

RevPARの動きをセグメントごとに見ると、ラグジュアリー、アップスケール、ミッドスケール&リミテッドサービスとも2023年初頭にはほぼコロナ前レベルに回復。その後、変動はあるものの、継続的に成長している。成長の度合いは、ラグジュアリー、ミッドスケール&リミテッドサービス、アップスケールの順となった。

東京の状況を見ると、 ADRに関しては2019年と2024年ともに2025年の実績が上回っている一方で、稼働率は依然として2019年を下回った。日本の他の主要都市も同じ傾向だ。一方で、福岡では2023年に「ザ・リッツ・カールトン福岡」が開業、札幌では2025年10月に「インターコンチネンタル札幌」が開業したことから、JLLホテルズ&ホスピタリティ事業部エグゼクティブ・ヴァイスプレジデント・ヘッド・オブ・アドバイザリーの大橋蔵人氏は「数年間で、両都市でもラグジュアリーホテルマーケットが形成されていくのではないか」と見通した。

また、東京と世界の主要都市のADRを米ドルベースで比較すると、東京は188.5ドル(約2万9200円)で、シンガポールの238.1ドル(約3万6900円)、ニューヨークの305.9ドル(約4万7400円)、ロンドンの249.9ドル(約3万8700円)、パリの373.7ドル(約5万7900円)と比べて低い。これは円安の影響により、日本円ベースの料金がドル換算で割安に見えている影響が大きい。一方で、東京のホテル需要は底堅く、大橋氏は円高に振れたとしても日本円ベースのADRが大幅に下落する可能性は低く、ドル換算のADRも急激に低下しないとの予想を示した。

今後のホテルの新規供給については、6月時点で7月以降に開業を予定しているホテルを新規供給として、既存ストックに対する新規供給の割合を算出。APACの中で日本は1.7%で他国と比較するとかなり低くなっている。最も高いのはベトナムで21.3%。大橋氏は「建設費の高騰が大きく影響し、今後数年間で大幅に新規供給(新築での開業)が増加するのは考えづらい」と説明した。

日本の都市別の新規供給の割合を見ると、東京、大阪、京都、福岡については2%前後だが、札幌が約5%、沖縄が約7%と高い割合を示している。

2026年の成長率は保守的に

JLLはホテルオペレーターに対して意識調査を実施し、その結果から2026年の見通しを示した。この調査は日本を含めたAPAC22カ国、832軒のホテル(日本は41軒)に対して実施したもの。

それによると、日本は営業総利益(GOP:Gross Operating Profit)は4%の伸びが見込まれ、ベトナム、インド、韓国などと同様一定程度成長が見込まれる。そのうえで、最大の懸念材料として挙げられたのは地政学的不確実性と競争の激化となった。

成長の見込みを具体的に見ると、平均稼働率については回答者の80%が2025年を上回ると回答。また、ADRについても93%が増加すると答えた。営業収入(GOR:Gross Operating Revenue)については、増加するとの回答が2025年の93%とほぼ同水準の90%だった一方、GOPについては2025年の95%から80%に減少。大橋氏は「来年の成長の伸びについては、保守的になっている」と分析した。

不動産投資額、日本は3位、東京はトップ

このほか、JLLリサーチ事業部シニアディレクターの大東雄人氏が日本への不動産投資環境について解説。2025年1~3四半期の日本の不動産投資額は、世界第3位だが、都市別で見ると東京がトップとなった。

大東氏は同期の傾向について「海外の投資家も含めて、オフィスへの投資が加速している」と説明。オフィスへの投資額は全体の49%で2007年のリーマンショック前の水準を大きく上回っているという。なお、ホテルの割合は10%、2024年の20%から縮小した。

東京のオフィス賃料は上昇が続いており、大東氏はその要因として2つの背景を挙げた。一つは人手不足のなか、優秀な人材を集めるために魅力的で質の高いオフィスが求められていること。もう一つはコロナ禍後に進むオフィス出勤への回帰を挙げた。

※ドル円換算は1ドル155円でトラベルボイス編集部が算出

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