フィンテック事業を推進するネットスターズ社と、全国旅行業協会(ANTA)の事務受託会社である全旅が業務提携した。2025年12月から、宿泊施設を対象に企業間キャッシュレス決済サービス「全旅グローバルペイ」の販売と運用を開始する。世界の企業間決済の標準となりつつある決済手法に対応したソリューションだ。今後、インバウンドを拡大していく上では欠かせない決済手段の選択肢になる。
なぜ、全旅はネットスターズとの提携を決めたのか? 宿泊施設にとって、本提携がもたらすメリットを両社に聞いてきた。
日本の宿泊施設の企業間決済を世界標準に
新たに提供される「全旅グローバルペイ」は、世界の企業間決済のスタンダードを日本各地の宿泊事業に普及させ、インバウンド需要の取込み拡大や業務効率の向上に貢献することを目指すサービスだ。両社の業務提携のもと、ネットスターズの宿泊施設向けVCN決済対応のキャッシュレスソリューション「StarPay-Biz for Hotel」を活用し、全旅は新たなブランド「全旅グローバルペイ」として販売する。
VCN(Virtual Card Number/バーチャルカード番号)決済とは、物理カードがないバーチャルクレジットカードで決済する法人向けサービスのこと。企業が決済ごとに用途や利用額、期間を制限してカード番号を発行できるため、不正利用のリスクが低く、かつ、経費精算や購買管理の効率化を図ることができる。国際的に企業間決済の主流の一つとなっており、欧米やアジア圏の宿泊事業ではスタンダードとなっている。そのため、取引時にVCN決済を求める海外の旅行会社やOTAは多い。
一方で、日本の観光関連の企業間決済は、現金決済や銀行振り込みが多勢のため、対応できない事業者はビジネスチャンスを逃すこともあった。そこでネットスターズは2023年、日本の宿泊施設向けに、予約ごとに付与されるVCNを一元管理して精算できる決済プラットフォームとしてStarPay-Biz for Hotelを開発した。
大手を中心に導入施設は順調に増加しており、ネットスターズ 執行役員 兼 事業統括本部 決済・ソリューション事業部事業部長の滝島啓介氏は「VCN決済に対応できるようにしたいという問い合わせが増えている」と、宿泊施設にその重要性が浸透しつつあることを強調する。
ネットスターズ 執行役員 兼 事業統括本部 決済・ソリューション事業部事業部長の滝島啓介氏しかし、宿泊施設のデジタル対応は二極化が進んでおり、新しいツールの導入に慎重な事業者も多い。また、宿泊管理は手作業で事足りていると認識しているケースも散見される。こうした宿泊施設は、特に地方で国内からの宿泊客を中心に扱っている中小事業者が多いが、今後、日本の人口が減少していくなか、地方でもインバウンドの取り込みは不可欠だ。
そこで、ネットスターズがパートナーとして着目したのが、全旅だった。滝島氏は「日本全国の旅行業界に及ぶ全旅の信頼感と、StarPay-Biz for Hotelで培ってきたノウハウを掛け合わせることで、より幅広い事業者にサービスを提供できると考えた」と、説明する。
海外取引でも安心と利便性を
ANTAの47都道府県の拠点が出資し、事務受託会社として設立された全旅は、ANTA会員である旅行会社をサポートする多様な事業を通じて、全国の観光事業者とのネットワークを広げてきた。例えば、BtoCの決済サービス「全旅ペイメント」は、旅行会社のみならず、宿泊施設など幅広い観光事業者でも利用が拡大。主力事業である「全旅クーポン」は、旅行会社と国内の旅館・ホテルなどの観光事業者との精算を一元化するシステムで、クーポンを受け入れる観光事業者は約1万2000軒、その半分以上の約6500軒は宿泊施設が占める。
全旅は、この全旅クーポンを利用する宿泊施設を中心に、全旅グローバルペイを販売していく考え。全旅グローバルペイで宿泊施設が感じられるメリットは、全旅クーポンと共通点が多いことから、「全旅クーポンのインバウンド版といったイメージで想像してもらえば分かりやすい」(全旅 執行役員の中森万登氏)とアピールしていく方針だ。
全旅 執行役員の中森万登氏全旅クーポンは、売り掛けが厳しい旅行会社に、全旅の立て替えで“月1回の後精算”を可能にする、旅行会社の信用補完的なシステムとしてスタートした。クーポンを受け入れる宿泊施設からも、全旅による全額支払保証に加え、精算業務が旅行会社ごとではなく、全旅との月に1回の精算で済み、業務効率化が可能な点が評価されている。
一方、全旅グローバルペイも、VCN決済では取引企業がVCNを発行した時点でクレジットカード会社が支払いを保証することになるため、宿泊施設にとって売掛金の回収リスクがほぼなくなる。また、精算では、そもそも全旅グローバルペイは、VCN決済で予約1つ1つに発行されるVCNに対する精算を効率的、かつ正確な処理ができるように設計されたソリューション。旅行の個人化に伴い、予約数が増加していくなか、全旅グローバルペイで取引を一元管理できる利便性は高い。従来の銀行送金で必要だった請求書を海外企業用に作成・送付することもなく、入金管理などの業務も不要となるため、インバウンドの受け入れにおける大幅な業務効率化が期待できる。
全旅クーポンの年間決済額は788億円に達し、利用する旅行会社や観光事業者は年々増加している。中森氏によると、インボイス制度に伴う精算業務の負担増加やコロナ禍による人手不足の深刻化により、精算業務の一部をアウトソーシングできるような仕組みとして導入する大手旅行会社が増加。コロナ後の観光回復で取引が拡大するなかで、さらにクーポンの受け入れ施設が増えたという。全旅クーポンによる精算業務効率化のメリットを理解している宿泊施設なら、全旅グローバルペイの必要性も感じやすいと考えられるだろう。
「全旅グローバルペイ」ではVCN決済を通じて、宿泊事業者の精算業務を効率化する
中小の旅館・ホテルのインバウンド対策の第一歩に
日本での新しい体験を求めて、地方への旅行を希望する訪日旅行客が増えている。送客元も広がっていくなか、滝島氏は「取引相手が海外企業の場合、与信の判断も容易ではない。そう考えると、支払いをクレジットカード会社が事実上担保してくれるかたちになる全旅グローバルペイ導入の重要度は大きい」と、これからの時代、宿泊施設がVCN決済に備えておくべき理由を説明する。
さらに、費用面のメリットも強調。カード会社へ支払う手数料負担もBtoBキャッシュレス決済の普及の壁となっているが、滝島氏は「これをコストと捉えるか、業務効率化による業務コスト削減と捉えるかで見え方が変わる」とし、ビザ・ワールドワイド・ジャパンが2025年8月に発表した調査報告書(白書)を紹介した。
それによると、銀行振り込みやその他の決済方法による企業間決済の業務コストは、売上高の4.7%。一方、キャッシュレス決済の場合は、これらのコスト削減と売り上げ増加の追加的メリットをあわせ、クレジットカード手数料を差し引いても、売上高の2.77%に相当する利益を生み出すと試算されている。現金決済で発生する入金管理や売掛金の消込、例外処理、督促などが不要になるVCN対応のキャッシュレス決済は、手数料を差し引いても一定割合のメリットをもたらすということだ。
その上で滝島氏は「我々のサービスは、宿泊施設の売上に連動する変動費型モデル。宿泊施設の売上がなければ手数料は発生しない。導入にあたってリスクがほとんどない」と、気軽な利用を呼び掛けた。
両社が全旅グローバルペイの導入を想定するのは、これからインバウンド需要の取り込みを強化したい中小の旅館やホテル。中森氏は「人口が減少に向かう国内需要に比べてインバウンドは伸びる余地がある。しかし、インバウンドに対して現状ではまだ何をどうしたら良いか、わかりかねている宿泊施設も少なくない。そうした事業者に対して、海外ビジネスの受入環境を整備する意味でも、全旅グローバルペイが力になれると思う」と話す。
また、ネットスターズも宿泊施設のさらなる利便性向上に寄与すべく、StarPay-Biz for Hotelの機能強化にも力を入れている。VCNデータを自動で管理画面に取り込みができるよう、VCNを発行する企業側との接続を進めており、すでにアゴダとトラベロカといった海外の有力OTAとの接続を済ませている。StarPay-Biz for Hotelの機能強化は、全旅グローバルペイの機能拡充にもつながる。
全旅では、全旅グローバルペイの初年度目標として決済総額50億円を掲げている。全国、津々浦々の宿泊施設に導入を訴求していく方針だ。
広告:ネットスターズ
問い合わせ先:ネットスターズ pr_nss@netstars.co.jp
記事:トラベルボイス企画部
参考:本文中のVisa白書「B2Bカード決済導入の価値、取引から変革へ~アジア太平洋地域の大手サプライヤー調査報告」ダウンロードページ
