訪日客数4000万人の先にある壁とは? 航空データから読み解くインバウンドの天井と2030年に向けた打ち手【コラム】

東京都立大学観光科学科の清水です。

新年の初回ですので、今回のコラムでは、2026年のインバウンド観光を、いくつかの統計データから考えてみます。あわせて、2030年頃までの姿を見通してみたいと思います。

2025年は、後に振り返ったときに、訪日インバウンド観光客数が初めて4000万人を超えた年として記憶されることになるのでしょう。約7ヶ月に渡って開催された大阪・関西万博の効果は絶大でした。一方で、香港を中心に、7月に大災難が起こるとのうわさが広まり、日本旅行を控える動きが見られました。そして、11月からは日中関係の緊張が影響し、中国からの団体観光客数が大きく減少しました。1月から10月までの累計で約25%を中国が占めていたことを考えると、今年は大変心配な状況です。

思い起こせば、コロナ前の2019年にも韓国との緊張関係があり、訪日インバウンド観光客総数は期待されたほどには伸びませんでした。対象の国籍・地域が、すべて同時に好調であることは、もはや期待できないのかもしれません。

国際線就航データから見る現在の局面

国土交通省航空局が公表している国際線就航状況のデータを見てみます。

グラフ1は、2015年冬ダイヤから2025年夏ダイヤまでの国際線直行便数(離発着で1便と計測)を、主要7空港(成田・羽田・関西・中部・新千歳・福岡・那覇)を中心に示しています。2025年夏ダイヤでは、これまでに最大だった2019年夏ダイヤの便数を超え、コロナ前の水準に戻ったようです。成田・羽田・関西の3空港で全体の約74%を占めており、これ以上の増便に対しては、これら3空港の混雑状況を考えると、他の空港で引き受けていく必要があります。

グラフ1:日本の季節別・空港別国際線直行便数の推移(国土交通省航空局の国際線就航状況データから筆者作成)グラフ2は、対主要国籍・地域別の直行便数を示しています。

韓国・中国・台湾・香港の東アジアで約66%、これに東南アジアと南アジアを加えると約83%になります。中国はコロナ後の戻りが遅かったのですが、急速に回復した矢先の関係悪化ですので、本当に残念です。欧州もロシア上空を飛行できない影響もあり、なかなか便数が戻っていないようです。

グラフ2:日本の季節別・国/地域/方面別・国際線直行便数の推移(国土交通省航空局の国際線就航状況データから筆者作成)グラフ3は、訪日外国人数と出国日本人数の合計を示しています(2025年は11月までのデータから推測した値)。

これらは、ほぼ空路で入国します。2025年は、チャーター便を含めると年間28万便程度と見られますので、1便当たり200人程度が搭乗している計算です。2018年1便当たり190人程度でしたので、航空機材の座席数が変化しないと仮定すると、座席利用率は上昇し、機内は一層混雑しているのではないでしょうか。

グラフ3:訪日外国人数と出国日本人数の合計値の推移(日本政府観光局のデータから筆者作成)2018年と2025年の大きな違いは、出国日本人数が戻っていないことです。結果として、日本に就航している国際線搭乗者に占める日本人シェアが大きく低下したとみることができるでしょう。結局、この3年間は、コロナ前と比べて便数がほとんど増えない環境下で、訪日外国人観光客数を大きく増加させた期間だったことになります。

2026年の出国日本人数は、高市政権の経済政策への評価として円安傾向が続く場合、大きな伸びは期待できないのかもしれません。それでも、便数と提供座席数が大きく増加しない状況が続けば、いよいよ訪日外国人観光客数の増加が限界に近付いている局面を迎えていると考えられるのかもしれません。

今年は、しばらくインバウンド観光客数が増加しないことを前提に、一人当たりの消費単価を高める取り組みを本格的に展開する(コロナ後の消費単価増加は、円安効果やリベンジ消費のおかげの可能性は否定できません)元年とすべきなのかもしれません。

今後の見通しは?地方空港に戦略的な国際線誘致を

次に、今後5年程度の見通しを考えたいと思います。

現在、成田空港の拡張が進められています。既に運用中のB滑走路の距離延長と、新たにC滑走路の整備によって、年間離発着回数を現在の約1.7倍の50万回にする計画です。2029年の滑走路3本体制の実現に向けて、用地買収と工事が進められているとのことですが、最近の交通インフラ事業では、予定通り開業できないケースが多く、2030年まで完成しないことも念頭に置く必要がありそうです。羽田空港は、さらなる拡張が難しく、関西空港も当面は滑走路数は現在のままでしょう。

主要航空会社が国際線で運用する機材構成を、各社の公開情報から確認しました。例えばANAでは、ハワイ便で使用しているA380が520席ですが、その他は150〜290座席が中心です。JALも、200〜250席の機材が主力です。このように、大手航空会社はA350・B777・B787といった200〜250席の機材が中心で、LCCが運用するA320やA321も180〜230席程度がほとんどです。需要が期待できるからといって急に大型機材を投入できる状況にはありません。

結局のところ、少なくとも今後5年程度は、主要空港の提供座席数は大きく増加する可能性は低く、このままでは訪日外国人数は4500万人くらいで頭打ちになる可能性を考える必要があります。日本政府は、2030年に6000万人という目標を維持していますが、これを実現するためには、まだ受け入れ余地のありそうな中部空港と多くの地方空港で国際線直行便の誘致に取り組むことが不可欠になります。

このとき、広域圏で連携し、各空港に直行便を著しく分散させないこと、さらに空港と主要都市間を高速で結ぶ交通サービスを充実させることなど、政策の重要性が一層高まるでしょう。私は、この点に関して、新幹線網が整備されている東北地方や北陸地方のポテンシャルが高いと見ています。

そして、九州地方にも大きく期待しています。現状でも、九州地方の各空港はそれぞれ一定程度戦えているのかもしれませんが、各県が高度に連携し、東アジア路線をできるだけ福岡空港以外で受け止め、福岡空港では空いたスロットをミドルホール(中距離)の東南アジア路線や、ロングホール(長距離)のアメリカ西海岸路線に割り当てるような発想があってもいいと感じています。

清水哲夫(しみず てつお)

清水哲夫(しみず てつお)

東京都立大学都市環境学部観光科学科教授、博士(工学)。クロスアポイントメント制度で金沢大学先端観光科学研究所特任教授を併任。非常勤で日本観光振興協会総合調査研究所所長を務める。土木計画学が専門で、観光分野におけるデータサイエンス×観光地域づくり×モビリティマネジメントの領域で研究・実践活動を展開する。

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