EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EY Japan)は、『ツーリズムビジネスの未来2026-2035』の出版を記念して、「2035年、ツーリズムの地殻変動:世界の変化を捉えた日本のツーリズムの未来とは」をテーマにセミナーを開催した。
The Economist Groupディレクターのロドリゴ・ゴンザレス氏が「地政学的変化を捉えたツーリズムの方向性」、EY Japanのストラテジックインパクトパートナー平林知高氏が「世界情勢を踏まえたツーリズムビジネスの地殻変動と日本の未来」をテーマに基調講演をおこなったほか、RateGain Adara Japanシニアディレクターの森下順子氏とオートインサイト代表で技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏を加えて、パネルディスカッションも実施された。
観光産業を動かす3つのポイント
The Economist Groupのゴンザレス氏は、基調講演で世界の紛争について、現在、1990年と比較して増加しており、地政学的リスクは高まっていると説明。その一方で、「世界が不安定になると観光は減ると考えられがちだが、実際のデータを見ると必ずしもそうなっていない」と指摘した。
世界の観光需要が過去最高を記録する一方で、世界各地で社会的反発も起こっており、日本でもオーバーツーリズムのリスクも発生していることに言及した。
そのうえで、ゴンザレス氏は観光産業を動かす3つのポイントを挙げた。まずは経済。イラク情勢の悪化による原油価格の上昇は航空燃料価格に大きく影響することを例に「観光では地政学リスクよりも経済的リスクの方が観光への影響が大きい」とした。
また、安全性も重要な要素と指摘。「観光客の視点からすると、治安が悪い場所には行こうとは思わない」と話した。さらに、3つ目として可視性について触れ、「SNSのトレンドが観光産業を左右する」との考えを示した。
7つの未来トレンド
『ツーリズムビジネスの未来2026-2035』の監修・著者であるEY Japanの平林氏は、同著で取り上げた7つの未来トレンドを紹介した。
未来トレンドの1つ目は「グローバリゼーションの行方」。その中では、世界統合に向かう「ノーバウンダリー」の世界、イデオロギーや経済的利益を重視する「リージョナリズム」の世界、分断が進む「自国優先主義」の世界を挙げつつも、「どのシナリオでも、人々の移動の仕方は変わっても、その欲求は変わらないだろう」との見解を示した。
2つ目は、「人口動態・経済構造の変化」。ここでは、超高齢化と人口増加がツーリズムに影響を与えるとともに、新興国の中間層が新たな主役として台頭すると見通す。
3つ目は、「AIの進化と社会実装」。生成AIがツーリズムビジネスを抜本的に変える可能性があるとしたうえで、SEO(検索エンジン最適化)からAIO(AI最適化)へのマーケティングモデルの変化やAIエージェントによるビジネスモデルの変化の可能性を挙げた。
4つ目は、「テクノロジーによる体験価値の変化」。平林氏は「世界的に高齢化が進んでいるなかで、身体的な寿命を補うテクノロジーが浸透すると、旅をする寿命もどんどん伸びていくのではないか」と話した。
5つ目は、「サステナビリティからリ・ジェネレーションへ」。サステナビリティをどのように自分事化していくかで、ツーリズムへの影響が変わってくる。消費だけでなく、旅をしながら地域貢献も行うポジティブな行動変容が起こると予想している。
6つ目は、「日本のソフトパワーの活用」。日本のアニメやゲームなどのコンテンツなどのソフトパワーがツーリズムをさらに牽引するようになるとともに、日本のウェルネス・ウェルビーイングの価値が認められていくとした。
7つ目が、「価値観の変化とアナログへの回帰」。平林氏は「デジタル化が進み利便性が高まるなかで、不確実性や偶発性のようなものを旅の中に求める傾向が強まる。完璧な世界観というよりも、スペースを見つけていくことが一つポイントになる時代が来るのではないか」と予見した。
AI時代、人の価値が重要なテーマに
パネルディスカッションでは、まずゴンザレス氏が指摘した「地政学的リスクの中でも人々は動く」という見解について意見を交換した。ゴンザレス氏は、東南アジア市場について触れ、「人口ピラミッドを見ると若い世代が多く、今後、中間層が増えていくと海外旅行も増えていく。そのなかで日本は魅力的な選択肢になる」と話した。
また、RateGain Adara Japanの森下氏は、「これからはミレニアル層の旅行行動が活発になる」と話し、市場データから「特に、インドの旅行需要がますます伸びる」と続けた。また、そのミレニアル層をターゲットとする場合、モバイルでの情報収集がメインであることから、「デジタルマーケティングが非常に重要になる」との見解を示した。
さらに、森下氏は受け入れ側となる地域におけるデータ活用についても言及。「宿泊、体験など異なるデータソースを集約したいというニーズが高まっている」としたうえで、「米国などでは地域でデータ共有しながら、次の施策を策定する動きが進んでいる」と紹介した。
(左から)平林氏、ゴンザレス氏、森下氏、鶴原氏
平林氏は、AI技術に関連して、「日本として着目すべきは自動運転技術。人々の移動の点で、観光分野あるいは地方分野で大きなインパクトになるのではないか」との考えをの述べた。これに対して、オートインサイトの鶴原氏は、自動車向けAI技術を開発するWayve(ウェイブ)、Uber Technologies、日産自動車の3社がロボタクシーの開発に向けて協業を開始することを紹介した。そのうえで、「タクシー業界は、地方だけでなく都市部でも運転手不足が深刻化しているが、今後、日本でも実用化が進んで、コスト的にもビジネスが広がるフェーズに入っていくのだろう」との見方を示した。
森下氏は「AIの可能性は広がるが、そこに入ってくるデータによってアウトカムも異なってくる」とし、「今後、デマンド側が欲しい情報とサプライヤー側が出したい情報のマッチ度が高まり、よりデータが活性化されていくのではないか」と見通した。さらに、AIは地域や中小零細企業にこそ有益なツールになるとの考えを示した。
鶴原氏は、SEOからAIOに変化していくなかで、「旅行者がいきなりAIに相談することが非常に増えると思う。AIに最適化することを真剣に考えないといけない」と発言した。
一方で、森下氏は、AIが知らなかったことを教えてくれることもあるが、「旅行業界では人と人とのコミュニケーションが大切なテーマ。今後3~5年、人の価値が重要なテーマになってくるのではないか」と見通した。




